日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

自己免疫性水疱症と口腔内びらん

成人の身体に水疱やびらん、痂皮を見たら自己免疫性水疱症を鑑別する

水疱症はやけど、虫さされや各種の感染症などのはっきりした原因なしに皮膚に水疱を作る病気です。
水疱性疾患は皮膚科が専門ですが、その中でも自己免疫性水疱症の基本的な知識を持っておくことは内科の実臨床で役に立ちます。自己免疫性水疱症の中で類天疱瘡は日常診療の場でも中高年者でしばしば目にします。

皮膚の構造と類天疱瘡
皮膚の構造と類天疱瘡

皮膚の最も表面に存在する部位を表皮と言いますが、類天疱瘡では、血液中に表皮と真皮の境となる基底膜部に対する自己抗体(抗表皮基底膜部抗体)ができ、それが表皮の基底膜にある自己抗原に結合して、表皮と真皮の接着が悪くなり、水疱を作ります。
しかし、どうして特定の人に自己抗体ができるのかははっきりしていません。

類天疱瘡

類天疱瘡 (写真1、2、3)は高齢者に多く、最近の日本の高齢化により多くの患者さんがいると考えられます。年齢的には60歳以上、特に70~90歳台の高齢者にみられます。まれに18歳以下の若年者および小児にもみられます。

類天疱瘡(自己免疫性水疱症)
写真1類天疱瘡(自己免疫性水疱症)

類天疱瘡(自己免疫性水疱症)
写真2類天疱瘡(自己免疫性水疱症)

類天疱瘡(自己免疫性水疱症)
写真3類天疱瘡(自己免疫性水疱症)

類天疱瘡の自己抗原は表皮と真皮を接着するヘミデスモソームの構成成分(BP230とBP180)です。類天疱瘡では全身のあちこちに、痒みを伴う紅い斑点(紅斑)と大型の緊満性の破れにくい水疱とびらんがみられます。時に口腔内にもびらんがみられます。
類天疱瘡では比較的深い表皮と真皮の間に水疱が形成されるため、水疱表面は堅く破れにくく、多くは下腿に水疱が観察できます。

類天疱瘡以外の自己免疫水疱症には、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、線状IgA水疱症などがあります。

尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡

尋常性天疱瘡に認められるIgG自己抗体は、デスモグレイン1(Dsg1)か、デスモグレイン3(Dsg3)を攻撃します。デスモグレインは、表皮細胞と表皮細胞が接着するのに重要な役割をしている蛋白です。デスモゾームという接着装置にある膜蛋白です。
天疱瘡の自己抗体は、デスモグレインに結合し攻撃することで、デスモグレインの接着する働きを阻害します。その結果、表皮細胞と表皮細胞がばらばらになり、表皮の中で水疱が生じます。

デスモグレイン1は主に皮膚にあります。デスモグレイン3は、主に粘膜(口腔、食道など)にあり、少しだけ皮膚にもあります。攻撃されるデスモグレイン1、3のある場所が違うため、尋常性天疱瘡と次に述べる落葉状天疱瘡の症状に違いができます(日本皮膚科学会HPより)。

落葉状天疱瘡は水疱膜が極めて薄いため、水疱は破れて浅いびらんを形成し痂皮を付着します。診察時に水疱が見られることは少なく、皮疹の大部分は浅いびらんや痂皮を付着する紅斑、色素斑などです。
自己抗体が基底層直上で水疱を形成する尋常性天疱瘡、表皮表層に近い顆粒層で水疱を形成するのが落葉状天疱瘡です。

尋常性天疱瘡には、デスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体が認められます。落葉状天疱瘡には、デスモグレイン1(Dsg1)に対するIgG自己抗体が認められます。

尋常性天疱瘡ではかならず口腔粘膜にびらんが見られます。口の中がしみるため、飲食がしにくくなります。重症な場合は、飲み物をとることすらできなくなることもあります。
尋常性天疱瘡の半分くらいの患者では、口腔のみならず皮膚にも水疱、びらんを認めます。水疱は体のどこにでもできます。治療せずに放置しておくと、体の広範囲にびらんができることもあり、二次感染や体液漏出により重篤な症状が起きます。

落葉状天疱瘡は、皮膚だけに水疱、びらんができます。口腔にできることはありません。
尋常性天疱瘡に比べると水疱がすこし皮膚の浅いところにできるため、すぐに水疱が破れてびらんだけが見られため水疱をみることがまれです。したがって、びらん、痂疲を伴う紅斑の多発をみたら水泡がなくとも落葉状天疱瘡を念頭に置きます。

落葉状天疱瘡は天疱瘡の一亜型で、一般的に尋常性天疱瘡と比較して軽症型と考えられています。薄い鱗屑痂皮を伴った爪甲大までの紅斑が多発し、頭部や顔面、背部などの脂漏部位に好発します。
様々な疾患のワクチン接種後に落葉状天疱瘡の発症が報告されています。落葉状天疱瘡とワクチン接種が関連している可能性は考えらますが、今のところ確たる知見は得られていません。

線状IgA水疱症は皮膚基底膜部にIgA自己抗体が線状に沈着して表皮下水疱を生じる疾患で、紅斑と緊満性水疱が全身に多発し強い掻痒感を伴います。

口腔内びらんをみたときの鑑別すべき疾患

口腔内のびらんをみたときには、成人では次の疾患を鑑別します。

  1. 口腔内カンジダ(鵞口瘡)
  2. SJS、中毒性表皮壊死症TEN
  3. ベーチェット病
  4. 扁平苔癬
  5. 自己免疫性水疱症(尋常性天疱瘡、粘膜類天疱瘡など)
  6. 粘液貯留嚢胞 など

アフタが主症状のベーチェット病、頬粘膜や舌の白苔が主症状の口腔カンジダ(写真4)、頬粘膜や口唇に白色レース状病変を呈する扁平苔癬、びらんや水疱が主症状の尋常性天疱瘡、腫瘍随伴性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡などの粘膜に症状を呈する自己免疫性水疱症、SJSは結膜や皮膚にも症状、粘液貯留嚢胞は口唇にできる小唾液腺の狭窄・閉塞で起こります。

口腔カンジダ
写真4口腔カンジダ

扁平苔癬(写真5)は頬粘膜や口唇に白色レース様病変で原因不明のことが多いですが、薬剤・金属アレルギーの関与が疑われることがあります。ステロイド外用薬(ケナログ)が使用されます。

扁平苔癬
写真5扁平苔癬

自己免疫性水疱症(尋常性天疱瘡、粘膜類天疱瘡など)は比較的長い経過で広範囲の口腔内びらんが起こります。診断には抗デスモグレイン3抗体と1抗体を測定します。

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