- 家庭の医学 -
よく見られる大人の病気

膀胱炎と腎盂炎

外来の診察室では排尿に関する相談はよく受けます。

その中でもっとも多いのが、排尿時の痛み、頻尿、残尿感など膀胱炎によるものでしょう。自分でも膀胱炎ではないかと疑って来られ、診断は簡単です。

膀胱炎はほとんどが大腸菌という細菌が原因で起こり、膀胱粘膜に炎症を起こすために痛みや残尿感を生じますが、発熱を生じることはまずありません。膀胱炎は粘膜に炎症を起こすため、尿中にさまざまの程度の出血を起こしてきます(尿潜血陽性)。
ときには尿が目に見えて赤くなることがあります(血尿)。このように膀胱炎の診断のためには、尿中に赤血球を認めることがポイントになります(図表1)

膀胱炎と腎盂炎の診断に必要な検査
図表1膀胱炎と腎盂炎の診断に必要な検査

自覚症状と尿潜血から膀胱炎の診断に困ることはあまりありません。しかし尿潜血が認められないときには、膀胱炎と決めつけるのは慎重でなければなりません。

膀胱には尿意を感じるために神経が網の目のようにはりめぐされています。また、尿意は自律神経の影響を強く受けます。緊張するとトイレに行きたくなるのがその例です。ストレスや緊張が高まると尿意を何回も感じることがあります。気にするとよけいにトイレに行きたくなります。 このような場合には抗生物質は無効で、抗不安薬や自律神経調整薬が有効です。

膀胱炎はほとんどが女性で男性はまれです。男性で尿意が多くなったときには、前立腺肥大による刺激症状も考えなければなりません。

まれに女性では子宮筋腫や卵巣腫瘍などが膀胱を圧迫する結果、膀胱の容量が小さくなり尿意を頻回に感じることが考えられます。ある程度の大きさの子宮筋腫や卵巣腫瘍は内科でも腹部エコーで比較的簡単に調べることができます。

女性では高齢になるにつれて、膀胱の収縮力が弱くなるためにトイレに行っても完全に排尿できず、排尿が終わってもまだ膀胱に尿が残ってしまうことがあります(残尿)。そのため少し時間がたつとまた尿に行きたくなります。

このようにいろいろな原因を考えながら、膀胱炎の診断を下す必要があります。外来では尿検査や腹部エコーが有効ですが、検査をしてもまだ膀胱炎かどうか判断できないことがありますが、このような場合は経験的には抗生物質で治療を開始してみて、よくならないときには他の原因を考えるようにするのがよいと思います。

膀胱炎が膀胱の中で細菌が増えて炎症を起こした状態を指すのに対し、急性腎盂炎は腎盂で細菌が増えて起こる炎症をいいます。腎盂は腎臓でつくられた尿が集められるロートのようなところです(図2)。膀胱炎と同様に腎盂炎も20歳代から40歳代の女性に多く見られます。

腎臓と腎盂、膀胱
図2腎臓と腎盂、膀胱

急性腎盂炎は悪寒を伴う高熱が急に起こってきます。高熱の他には、膀胱炎のような症状がほとんどないために、かぜと間違えられることがあります。
女性でかぜの症状がなく、ふるえを伴う高熱を生じたときには、腎盂炎を常に考える必要があります。腎盂炎を疑うときには、背中をたたいてみて、左右を比べるとたいへん役にたちます。
腎臓は左右に一つずつありますが、腎盂炎はどちらか一方に起こってきます。腎盂炎を起こしていると背中をたたくと、響くように痛みます(図3)

急性腎盂炎の叩打痛
図3急性腎盂炎の叩打痛

尿検査も特徴的です。膀胱炎が尿中に赤血球が増えてくるのに対して、腎盂炎では白血球が増えてきます。一般尿検査では白血球は検出が困難なことが多いために、尿を遠心したあとの沈殿物を顕微鏡で調べる検査(尿ちんさ)が不可欠です。高熱が持続するために、抗生物質の点滴をして早く治すようにする場合もあります。

ときどき健康な若い女性が顔や足のむくみ(浮腫)を生じて来院されることがあります。浮腫を起こすような内科的な病気は考えられず、尿ちんさを調べると白血球が多数認められることがあります。抗生物質を投与するとよくなることから、軽い腎盂炎が浮腫を起こしていたのではないかと思われます。

また中年女性で膀胱炎と腎盂炎を繰り返して起こすために、詳しく調べていくと直腸ガンがみつかりました。直腸ガンが膀胱に広がり、交通をしていたためでした。このように腎盂炎を繰り返すときには、年齢などを考慮しながら他に重大な病気が隠されていないか注意すべきです。

さて膀胱炎を抗生物質で治療しないで、放っておくとどうなるのでしょうか?自覚症状はだんだん軽くなっていきますが、尿中には赤血球に加えて白血球が加わってきます。軽い腎盂炎を合併してきたものと推測されます。

また慢性膀胱炎ともいうべき状態が続き、自覚症状がなくなった後も、尿には細菌が認められたり、赤血球や白血球が残るのではないかと推測されます。

健康診断を行うと、中年女性の3人から4人に1人は尿潜血が陽性となります。おそらく軽い膀胱炎をそのままにしていて、潜血陽性が持続しているのではないかと推測されます。

最後に、外来で一般的にみられる膀胱炎や腎盂炎は単純性尿路感染症がほとんどで、慢性化することはほとんどありません。慢性腎盂炎は何らかの基礎疾患があり、反復する尿路感染の結果、細菌が抗生物質に耐性を獲得して起こってくるものと考えられます。
外来でふつうにみられる単純性尿路感染が、慢性腎盂炎や慢性腎炎を起こすことは少ないと考えてよいでしょう(図4)

尿路感染症の分類と特徴
図4尿路感染症の分類と特徴

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よく見られる大人の病気

1. 診察室でよく見られる症状 肩こり 肝機能障害 更年期障害 口の中の病変 せき めまい 頭痛 動悸 耳鳴り 腹痛 味覚障害と舌の痛み ニオイの異常(嗅覚障害) 胸の痛み(胸痛) 睡眠の障害(不眠症) 胸やけ、げっぷ 胃痛・胃もたれ 腹部膨満感、腹鳴 下痢 便秘 口臭 喉のつかえ(喉の異常感) ふわふわめまい・頭重感 ジャーキング 神経調節性失神 長引く声がれ-声帯まひ 眼瞼けいれん しゃっくり 疲れがとれない・疲労感 口の渇き(ドライマウス) 手足のしびれ 失神 むくみ(浮腫) 物忘れ 手のふるえ 立ちくらみ おなら 声のかれ 冬のかゆみ あごの痛み-顎関節症 冷え症 こむら返り 頻尿 いびき 鼻出血(鼻血) 鼻づまり 汗の異常 微熱 尿もれ(尿失禁) 金縛り・悪夢 目のまわりや顔のけいれん 大人の歯ぎしり 歩くと足の裏に激痛:モートン病 首の後ろ(後頸部)の痛み 中高年に多い弛緩性便秘 中高年者に多いめまい 中高年者の腰痛のときに考える4つのM 2. 皮膚の病気 毛虫かぶれ 大人の蕁麻疹 帯状疱疹 たこ、うおのめ 薬剤性光線過敏症 いろいろある蕁麻疹 りんご病(大人) 足の静脈瘤 みずむし 破傷風 シイタケ皮膚炎 高齢者の帯状疱疹 3. 診察室でよく見られる病気 慢性疲労症候群 偽痛風 リウマチ性多発筋痛症 線維筋痛症 むずむず脚症候群 前立腺肥大症 過活動膀胱(OAB) 間質性膀胱炎 うつ病 単純ヘルペス感染症(大人) 眼瞼下垂 おとなの百日咳 中年に多い椎骨動脈解離 腸内フローラとは 脳脊髄液減少症 高齢者の急な寝ちがえ:頸椎偽痛風を疑う! 咳が続く…大人にも多い百日咳 痛風 急性扁桃炎 膀胱炎と腎盂炎 EBウィルス感染症 食中毒 機能性胃腸症 慢性膀胱炎 過敏性腸症候群 口内炎 高血圧 微小血管狭心症 けいれん性発声障害 肋間神経痛 偽痛風と痛風、化膿性関節炎に注意 緑内障 女性と痛風 子どもの病気はこちら

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