総論は「直感的な神経・筋疾患の診かた」に述べていますので、始めにご覧ください。
脊髄(脊髄神経・神経根を含む)および脳幹(脳神経を含む)では神経症状は異なります。疾患としてみた場合、神経所見さらには脳症状などがオーバーラップしていることがあります。
ここでは便宜上まとめて考えることにしますが、あくまでも私見であることをお断りします。
これらの中で①、②、③のいずれかの神経症状を示せば、脊髄または脳幹の障害を考えます。
これら①、②、③の神経症状に④が加われば、脊髄/脳幹の障害に末梢神経障害を合併する疾患、たとえば筋萎縮性側索硬化症など、を考えます。
脊髄および脳幹の疾患(末梢神経を含む)は種類が多く、代表的には次の通りです。
疾患名 | ❶頻度 | ❷病因・経過 | ❸症状・特徴 |
---|---|---|---|
多発性硬化症 MS | 表2へ | 表3へ | 表4へ |
視神経脊髄炎 NMO | |||
球後視神経炎 NMOSD | |||
筋萎縮性側索硬化症 ALS | |||
原発性側索硬化症 PLS | |||
亜急性連合性脊髄変性症 SCD | |||
脊髄性筋萎縮症 SMA | |||
球脊髄性筋萎縮症 SBMA | |||
HTLV-1関連脊髄症 HAM | |||
シャルコー・マリー・トゥース病 CMT | |||
クロウ・深瀬症候群 POEMS症候群 | |||
急性横断性脊髄炎 ATM | |||
急性散在性脳脊髄炎 ADEM |
次に、脊髄および脳幹の疾患(末梢神経を含む)を ❶頻度、❷病因・経過、❸症状・特徴 の3つに分けてまとめました。脊髄および脳幹の疾患にはたいへん稀な疾患も含まれるため、それぞれの疾患の頻度を知ることは診断に有用です。
それぞれの脊髄および脳幹の疾患と頻度は次の通りです。
疾患名 | ❶頻度 |
---|---|
多発性硬化症 MS | MSは日本では10万人に8~9人 、全体で約12000人 |
視神経脊髄炎 NMO | |
球後視神経炎 NMOSD | |
筋萎縮性側索硬化症 ALS | 10万人に1~2.5人、全国に約9200人 約5%に家族性ALS |
原発性側索硬化症 PLS | 10万人当たり0.1人、ALSの2% |
亜急性連合性脊髄変性症 SCD | 通常は40歳以上の人 |
脊髄性筋萎縮症 SMA | 10万人あたり1〜2人、出生2万人に対して1人前後 成人発症はALSより少ない |
球脊髄性筋萎縮症 SBMA | 全国に2000~3000人、30~60歳発症 |
HTLV-1 関連脊髄症 HAM | (HTLV-1)感染者は全国に108万人 全国で約3000名の患者がいると推定 |
シャルコー・マリー・トゥース病 CMT | わが国では1人/1万人 欧米では1人/2500人 |
クロウ・深瀬症候群 POEMS症候群 |
全国に約340名かそれ以上 |
急性横断性脊髄炎 ATM | 米国では毎年約1400人と推定10~19歳および30~39歳にピーク |
急性散在性脳脊髄炎 ADEM | 人口10万人あたり2.5人 感染後ADEMは小児に発症することが多く、特発性ADEMは若年成人に多い傾向 |
次にそれぞれの疾患の病因と経過についてまとめました。
疾患名 | ❷病因と経過 |
---|---|
多発性硬化症 MS |
|
視神経脊髄炎 NMO | NMOでは抗AOP4抗体や抗MOG抗体陽性 |
球後視神経炎 NMOSD |
|
筋萎縮性側索硬化症 ALS |
|
原発性側索硬化症 PLS |
|
亜急性連合性脊髄変性症 SCD |
|
脊髄性筋萎縮症 SMA | 下位運動ニューロン疾患(脊髄前角細胞変性) |
1.Werdnig-Hoffman病 (急性乳児型SMA) |
0-6ヶ月発症 常劣 |
2.Dubowitz病 (慢性乳児型SMA) |
<1歳6ヶ月 常劣 |
3.Kugelberg-Welander病 (若年型SMA) |
1歳6ヶ月~20歳 常劣 |
4.成人型SMA | 20歳以上、多くは弧発、常優か常劣 |
球脊髄性筋萎縮症 SBMA |
|
HTLV-1 関連脊髄症 HAM |
|
シャルコー・マリー・トゥース病 CMT |
|
クロウ・深瀬症候群 POEMS症候群 |
|
急性横断性脊髄炎 ATM |
|
急性散在性脳脊髄炎 ADEM |
|
次にそれぞれの疾患の症状と特徴についてまとめました。
疾患名 | ❸症状・特徴 |
---|---|
多発性硬化症 MS |
|
視神経脊髄炎 NMO | MNOでは両側の高度視力障害、強い四肢や体幹の疼痛や麻痺、嚥下障害 |
球後視神経炎 NMOSD | NMOSDの視神経炎は重症で、脊髄炎は横断性のことが多い |
筋萎縮性側索硬化症 ALS | split handはALSと頸椎症の鑑別に有用 *split handとは、母指球筋と第一背側骨間筋の著明な萎縮の割に小指球筋が保たれるALSに特徴的所見(感度52%、特異度87%) |
原発性側索硬化症 PLS |
|
亜急性連合性脊髄変性症 SCD |
|
脊髄性筋萎縮症 SMA |
|
1.Werdnig-Hoffman病 (急性乳児型SMA) |
座位未獲得 |
2.Dubowitz病 (慢性乳児型SMA) |
立位未獲得 |
3.Kugelberg-Welander病 (若年型SMA) |
立位、歩行 |
4.成人型SMA | 正常運動機能 |
球脊髄性筋萎縮症 SBMA |
|
HTLV-1 関連脊髄症 HAM |
|
シャルコー・マリー・トゥース病 CMT |
|
クロウ・深瀬症候群 POEMS症候群 |
|
急性横断性脊髄炎 ATM |
|
急性散在性脳脊髄炎 ADEM | ワクチン接種後、数日~4週後(多くは1~2週後)に急性に発症
|
最後に、それぞれの疾患と神経的な障害部位とを表にまとめました。
あくまでも私見であることをお断りします。
黒字は中枢神経、赤字は神経線維を表しています。
疾患名 | 障害部位(黒字は中枢神経、赤字は神経線維) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
大脳 皮質 |
大脳 基底 核 |
視床 | 小脳 | 中脳 ・橋 |
延髄 | 脊髄 | ||
大脳 白質 |
脳 神経 |
脳 神経 |
脊髄白 質/脊 髄神経 |
自律 神経 |
||||
多発性硬化症 MS | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
● | ○ |
○ | 膀胱直腸障害 | |||||
筋萎縮性側索硬化症 ALS | ● | ○ | ● | |||||
● | ○ *進行性球麻痺あり |
● | ||||||
原発性側索硬化症 PLS | ● | ○ | ● | |||||
○ *仮性球麻痺あり |
× | |||||||
亜急性連合性脊髄変性症 SCD | ○ | |||||||
○ | ● | |||||||
脊髄性筋萎縮症 SMA | ● | |||||||
球脊髄性筋萎縮症 SBMA | ||||||||
● | 球麻痺 | ● | ||||||
HTLV-1 関連脊髄症 HAM | ● | |||||||
● | ||||||||
シャルコー・マリー・トゥース病 CMT | ||||||||
● | ● | |||||||
クロウ・深瀬症候群 POEMS症候群 |
||||||||
● | ||||||||
急性横断性脊髄炎 ATM | ● | |||||||
急性散在性脳脊髄炎 ADEM | ||||||||
● | ● | ● | ● |