日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

主に下肢に限局する浮腫
❶片側性

総論は「見逃しやすい浮腫の病態」に述べていますので、始めにご覧ください。

下肢の浮腫は下肢だけに限局する場合は片側性のことが多く、両下肢に存在する場合には程度に差はあっても上肢や顔面にも浮腫が存在することが多いと思います。

したがって下肢中心の浮腫は、❶片側性❷両側性(上肢や顔面の浮腫を伴うことも) に分けて考えることにします。

1.深部静脈血栓症DVT

下肢に限局する片側性浮腫は、深部静脈血栓症DVTによるものが重要です。しかし片側性の下肢浮腫=DVTと考えるのは早計で、DVTはD-ダイマー上昇を確認してから考慮すべきです。
D-ダイマーの上昇を伴わない(両側性の)下肢浮腫、特に高齢者の場合には、よりコモンな心不全などの内科疾患によるものや車椅子などの生活習慣によるものを考えます。

表在静脈は通常は血栓(塞栓)を伴わずに炎症を起こし、表在性血栓性静脈炎と呼ばれます。これは下肢静脈瘤でよくみられる病態です。
深部静脈血栓症は下肢や骨盤内に多く発生しますが、場合によっては上肢に生じることもあります(原発性腋窩・鎖骨下静脈血栓症 など)。

2.ベーカー嚢腫の破裂

膝の裏に液体が溜まり嚢状に膨らんだものをベーカー嚢腫といいます。ベーカー嚢腫の多くは自然に消えますが、時に破裂して液体が腓腹筋膜の間に流れ落ちて腓腹部に貯留することがあります。
片側腓腹部に突然の激痛を伴う腫脹と皮膚の発赤を認めるため、血栓性静脈炎や蜂窩織炎に間違えられることがあります。

ベーカー嚢腫の破裂は下肢深部静脈血栓症の鑑別の一つで、偽性血栓性静脈炎(pseudothrombophlebitis)と称されますが、日常の臨床において実際にベーカー嚢腫の破裂に遭遇する機会は比較的稀といわれます。
下肢腫脹を主訴とする症例で、深部静脈血栓症 (38.1%)、リンパ浮腫 (6.1%)、ベーカー嚢腫破裂 (1.2%)と報告され、残り半分はその他と報告されています。

ベーカー嚢腫破裂の平均年齢66.4歳(51~80歳)で、発症数日前に膝関節痛を自覚したものや以前から変形性膝関節症を指摘されていることが多いようです。臨床症状としては、浮腫や腓腹部把握痛を認め、足関節部の皮下出血を認める例も報告されています。

診断は超音波検査やMRIにより、腓腹部に液体貯留を認めることで行なわれます。
深部静脈血栓症の合併は認めません。下肢深部静脈血栓症とベーカー嚢腫破裂の鑑別は臨床症状のみでは困難なことが多く、注意深い問診と超音波やMRI所見が診断上重要であることが指摘されています。
ベーカー嚢腫の破裂は消炎鎮痛剤投与による保存的治療により改善します。

3.リンパ浮腫

リンパ浮腫の実態は、何らかの理由でリンパ管内に回収されなかったアルブミンなどの蛋白を高濃度に含んだ体液が間質に貯留したものです。
さまざまな病態で生じる水分の貯留であるいわゆる浮腫とは異なる病態であることをまず認識し、適切に鑑別診断する必要があります。

リンパ浮腫の病態
図1リンパ浮腫の病態(日本癌治療学会 リンパ浮腫より)
(a) 組織間隙からの水分の回収は静脈が約9 割、リンパ管が約1 割を担っている
(b) さまざまな原因で不要になった水が正常に回収されず組織間隙にたまっている状態
(c) 組織で不要になった蛋白と水分が正常に回収されず高蛋白性の体液が組織間隙にたまっている状態

リンパ浮腫ではリンパ管に回収されるべき高蛋白性体液が間質内に貯留し、やがて脂肪組織の肥大や線維化を生じます。したがって早期は圧痕性浮腫ですが、緩徐に進行しやがて皮膚硬化を伴う非圧痕性浮腫を呈するようになります。下肢に好発し2/3は非対称性です。

リンパ管は静脈よりも壁が薄く透過性が高いため、大きな分子のタンパク質や病原体など通常血管には入らないものも通します。患側下肢のリンパ系機能低下が低下すると蜂窩織炎を合併しやすく、感染を契機に浮腫が急激に進行することがあります。

リンパ浮腫では患側の第2足趾基部背側の皮膚雛壁をつまみ上げることが困難で、Stemmer sign と呼ばれます。脂肪性浮腫は対称性で足首から先にはみられず、Stemmer sign も陰性です。

リンパ浮腫の原因の大部分は続発性で、全世界的にはフィラリア症の占める割合が大きいですが、先進国では悪性腫瘍(転移、浸潤)とその治療(リンパ節郭清術、放射線治療)がほぼ全てを占めます。

原因が特定できない原発性には家族性に発症するものもありますが、大部分は弧発性です。確定診断はリンパシンチグラフィやICG蛍光リンパ管造影でリンパ管の閉塞所見や皮膚への逆流所見を確認します。

4.血管性浮腫

血管性浮腫における浮腫は非対称性で軽度の痛みを伴うことが多いとされます。顔面、口唇、舌を侵すことが多く、さらに手もしくは足の甲、または生殖器に生じることもあります。

上気道の浮腫は呼吸窮迫および吸気性喘鳴を引き起こすことがあります。吸気性喘鳴が喘息に間違えられることがあるので注意を要します。腸管の浮腫は、悪心、嘔吐、激しい腹痛、下痢を引き起こすことがあります。

血管性浮腫の症状はメディエイターによって異なります。

1) 肥満細胞介在性の血管性浮腫➡ショックや気道閉塞を伴う血管性浮腫であり、緊急対応を要す
  • 数分から数時間にわたって出現する傾向がある
  • 急性アレルギー反応の症状(掻痒、蕁麻疹、紅潮、気管支攣縮、アナフィラキシーショック)を伴うことがある
2) ブラジキニン介在性血管性浮腫➡いわゆる血管性浮腫(反復性では遺伝性を除外)
  • 数時間から数日にわたって出現する傾向がある
  • 急性アレルギー症状を伴わないが、浮腫による気道閉塞や腸管症状には注意を要す

MSDマニュアル プロフェッショナル版(msdmanuals.com)12.免疫学;アレルギー疾患 /アレルギー性,自己免疫,およびその他の過敏性疾患 /血管性浮腫 より改編

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