日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

主に片側上肢に限局する浮腫

総論は「見逃しやすい浮腫の病態」に述べていますので、始めにご覧ください。

1.原発性腋窩・鎖骨下静脈血栓症(Paget-Schroetter症候群)

原発性腋窩・鎖骨下静脈血栓症は悪性腫瘍やカテーテル留置などに起因しない、健康な成人に自然発症する上肢の静脈血栓症です。

両上肢に発症することはまれで、ほとんどが片側発症です。胸郭出口で静脈を圧排する筋骨格の破格が存在することが多く、そこに上肢の運動が加わると血管内皮が損傷し血栓が形成されると考えられていますが、上肢の過激な運動がなくても発症することもあります。

肺塞栓症合併のリスクがあり、治療としては抗凝固療法、血栓溶解療法や外科的血栓除去術が行われます。

2.乳癌術後のリンパ浮腫

乳癌治療後の約14~40%に上肢のリンパ浮腫を認め、そのうち90%は治療後24ヶ月以内に発症します。原発性腋窩・鎖骨下静脈血栓症が急性発症であるのに対して、本症は緩徐進行性の経過をとり、術後20年以上経過して発症することもあります。

リンパ浮腫は皮膚の線維化と脂肪の蓄積により非圧痕性となりますが、このような変化が生じる前の初期のリンパ浮腫は圧痕性であることに注意します。治療は圧迫療法などの理学療法が基本ですが、初期の場合はリンパ管静脈吻合術が有用とされています。

リンパ浮腫の病期分類(国際リンパ学会)
リンパ浮腫の病期分類(国際リンパ学会)
0期 リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。
Ⅰ期 比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが、まだ初期であり、四肢を挙げることにより治まる。圧痕がみられることもある。
Ⅱ期 四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり、圧痕がはっきりする。
Ⅱ期後期 組織の線維化がみられ、圧痕がみられなくなる。
Ⅲ期 圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか、アカントーシス(表皮肥厚)、脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。

3.肺癌による上大静脈症候群

上大静脈症候群は腫瘍や炎症性病変による上大静脈の閉塞または高度狭窄により発症します。頭部、頸部、上肢および体幹上部からの静脈環流障害も伴う一連の症候群です。

頭頸部の腫脹の他に、呼吸困難感や頭部の充満感(頭重感)を認め、睡眠や前屈姿勢で悪化します。長時間の睡眠が症状自覚のきっかけとなり、急性発症のパターンを示すこともあります。

視診により前額部の表在静脈および頸静脈の怒張を認め、息こらえ(バルサルバ法)にて食事や緊張時と同様の症状が再現されます。症状は数週間で進行し、側副血行路が発達するとその症状はいったん軽快する傾向にあるため、良性の経過と誤って判断しないように注意します。

4.腋窩に原発する腫瘍

腋窩に原発する腫瘍には、他臓器悪性腫瘍のリンパ節転移、皮膚付属器由来の腫瘍に加え、異所性乳癌の可能性も考えます。
乳房自体に異常所見を認めない腋窩リンパ節腫大では潜在性乳癌を鑑別すべきです。潜在性乳癌は乳癌の腋窩リンパ節転移を認めますが、臨床的に乳房内に原発巣を特定できないものを指します。

胎生期には乳腺堤線に乳腺原基が存在し、その一対が前胸部で発達して固有乳腺となります。残りの乳腺原基のうち、退縮せずに発育したものが副乳で、乳腺堤線から分離したものが迷入乳腺です。
副乳と迷入乳腺は臨床的に判断困難なことも多いため、まとめて異所性乳腺と呼び、日本人では1~6%の保有率とされます。そこから発生する異所性乳癌の頻度は全乳癌の0.2~0.6%で、その80%以上は腋窩に発生し乳房には異常は認めません。

5.血管性浮腫

血管性浮腫は顔、特に口唇、上眼瞼に現れることが多いですが、舌、手足、咽喉頭や腸の粘膜に現れることもあります。原因が明らかでない限局性浮腫では血管性浮腫も考慮します。血管性浮腫は急性発症し、早ければ数時間、多くは数日かけて元に戻ります。

*本章の多くは、日本医事新報の生坂政臣監修「キーフレーズで読み解く外来診断学」を参考にして転写・記述させていただきました。

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