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睡眠に関して内科的に知っておきたいこと

不眠症とは別に起こりやすい、睡眠に関して内科的に知っておきたいことをまとめました。長い間、内科外来をしているとこれらの障害には、まれならず遭遇します。

睡眠に関して内科的に知っておきたいこと
睡眠に関して内科的に知っておきたいこと

睡眠中に起こる障害

レム睡眠行動障害(RBD:rapid eye movement sleep behavior disorder)

レム睡眠行動障害は睡眠中に夢体験と同じ行動をとってしまう病気です。睡眠中に突然大声の寝言や奇声を発したり、暴力的な行動を特徴とします。
時には、ベッドから転落したり隣で寝ている人を叩いたりして、本人や周囲の人が怪我を負うこともあります。声をかけると比較的容易に覚醒し、夢の内容をはっきりと思い出すことができるのも特徴です。

健康な人ではレム睡眠中には骨格筋が弛緩して動きません。レム睡眠行動障害ではこの抑制機構が障害されるため、夢の中での行動がそのまま現実の行動となって現れてしまいます。

レム睡眠行動障害は50歳以降の男性に多く、加齢に伴って増加します。原因が明らかでない場合も多いのですが、約半数例には中枢神経の疾患がみられます。
レム睡眠行動障害と合併しやすいパーキンソン病、レビー小体病、多系統萎縮症に共通するαシヌクレインというタンパク質の蓄積との関連も指摘されています。抗うつ薬の副作用でレム睡眠行動障害と類似の症状が生じる可能性もあります。

睡眠時随伴症としての悪夢

悪夢は睡眠時随伴症(Parasomnias)の一つでレム睡眠の時に起こります。真に迫った恐ろしい内容の鮮明な夢による強い不安感のために、睡眠から途中覚醒する現象です。

一般に小児に多く、発熱やストレスの他、過労やアルコール摂取後などにも起こることがあります。
また薬剤の副作用として悪夢を起こすものがあります。高齢者ではしばしば夢の内容に対応した行動が起こり、認知症やせん妄と間違われることがあるので注意を要します。通常は薬剤の中止や変更により悪夢は起こらなくなります。

自験例では、前述の酒石酸ゾルビデム(マイスリー®)などベンゾジアゼピン系睡眠薬により悪夢が起こりやすいと感じています。
レム睡眠行動障害を疑った場合に、鑑別すべき病態の一つと感じています。

睡眠関連摂食障害(SRED:sleep related eating disorder)

夜間睡眠中に無意識に食物の摂取や飲水を繰り返す病態であり、有病率は一般人口で1%と報告されています。我が国での有病率は不明ですが、比較的新しい疾患概念で一般人はもとより医療者にも十分に認識されていない可能性があります。

睡眠時に睡眠状態のまま歩き出し、過食し食べて満足するとそのまま寝床へ戻るという行動パターンを示します。
これらの症状が睡眠時に無意識に起こるため、症状を記憶していないことが多いのですが、食べた形跡(皿、お菓子のパッケージなど)が残り、これが手掛かりになって摂食したことを思い出すこともあります。

SREDは多くが特発性ですが、他の睡眠障害と関連して発症することや、短時間作用型の睡眠薬(マイスリー®など)や抗コリン薬が誘因となることが報告されています。
一方、ベンゾジアゼピン系抗不安薬BZsが原因で起こることもあります。BZsによる記憶障害は服用後の行動について想起できない前向性健忘が特徴です。服用してから入眠まで、あるいは夜間に目が覚めて取った行動についての健忘が多く、翌朝になって本人が思い出せないことで気がつかれることがあります。
たとえば、夜中に起きて冷蔵庫の中の物を食べても覚えていない、といった形を取ることがあります。高齢者は記憶能力の予備能が低いため、この記憶障害が生じやすいです。

自験例です。食べた記憶は全くありませんが、朝目が覚めると布団の周りに食べ物の残りかすや包み紙が散乱していた という中年女性の例がありました。
この例では短時間作用型の酒石酸ゾルビデム(マイスリー®)を使用していたため、他の睡眠薬に変更したところ改善することができました。

夜間摂食症候群(nocturnal / night eating syndrome:NES)

上述したSREDに類似する疾患に、夜間摂食症候群(nocturnal/night eating syndrome:NES)があります。SREDとNESでは摂食時の意識水準に明確な違いがあり、NESでは夜間に覚醒した状態で強い摂食要求に基づいて摂食します。

夜になると物を食べたいという衝動が強くなり、食事を始めてしまう病態です。夜中に起きて食欲を抑えきれず、食べてしまう場合もあります。摂食障害が女性に多いのに、夜間摂食症候群は女性だけでなく男性にも多くみられます。
意識はしっかりとあり、翌日になっても前日の夜に食べたことは覚えています。この状態が続いてしまうと日中の食欲がなくなり日中は小食で眠る前にひたすら食べるようになります。
睡眠相もずれてしまい、ますます夜遅くに食事をしてしまって、悪循環になります。原因はストレスと睡眠障害だと言われています。

過眠症

日常診療の場では過眠の相談を受けることがあります。過眠と言えば睡眠時無呼吸症候群SASがまず想起されますが、ここではSASの他、比較的まれですが特発性過眠症、ナルコレプシー、さらに若者に多くみられる概日リズム睡眠障害について概説します。

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)

我が国のSAS(AHI≧15回/時)の有病率は14%(900万人)と推定されていますが、CPAPが処方されているのは50万人にも満たないと言われます。

通常は日中の過剰な眠気や疲労感から本症を疑いますが、運動や食事、時間帯とは無関係に出現する脱力感・倦怠感を繰り返し自覚し、日中の眠気は自覚しないことがあります。このような場合でも、家族に確認すると日中の頻回の居眠りが明らかになることがあります。
睡眠ポリグラフ検査で1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた指標であるAHIにより診断します。

ナレコレプシー

ナルコレプシーの古典的4徴は、過度な日中の眠気、情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚、睡眠麻痺(金縛り)であり、このうち日中の眠気は必須項目となります。
情動脱力発作の有無により、narcolepsy with cataplexy とnarcolepsy without cataplexy 分類にされ、病因と診断基準が異なります。情動脱力発作は、意識障害を伴わずに突然始まり2分以内に消失することが特徴です。
笑い(92%)、怒り(70%)、驚き(55%)などの情動がトリガーになりますが、脱力の範囲や程度は様々で、面白い話を聞いたときにわずかに顔が歪む、手に力が入りにくいなど軽微なこともあります。

オレキシンは覚醒状態の安定化に寄与する神経伝達物質であり、不足すると日中の眠気やレム睡眠異常(情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺)を引き起こします。
髄液中オレキシン濃度の低下は、情動脱力発作を有する患者の90%以上でみられ、また疾患特異性も高いためnarcolepsy with cataplexyの診断に有用です。

日中の眠気に対しては覚醒促進薬のモダフィニル(モディオダール®)、また情動脱力発作、入眠時幻覚。睡眠麻痺に対してはレム睡眠抑制作用を持つ三環系抗うつ薬やSSRIが治療薬として用いられます。

自験例では、若い女性の話です。流れ作業の仕事に就いていましたが、仕事中に無意識のうちに眠ってしまいましたが手だけは勝手に動いて、流れ作業に問題は起こらなかったそうです。
始めは特技と感じていましたが、やがて商品が溜まるようになって仕事に支障が出るようになったそうです。その後専門病院の精査により、ナルコレプシーと診断を受けました。

次に述べる特発性過眠症の眠気もそうですが、常識的には考えにくい状況でも起こる強い眠気が特徴のように感じます。

特発性過眠症

特発性過眠症は,日中に過度の眠気がみられる状態ですが、情動脱力発作、入眠時幻覚、および睡眠麻痺(金縛り)がみられない点でナルコレプシーと鑑別されます。
正確な頻度は不明ですが、自分でも気がつかないままに過ごしている人も多いのではないかと考えられます。

自験例では大学に在籍する若い女性ですが、試験中に眠気に襲われて眠り込むだけでなく、大学の教官との面接中や会議中にも眠り込んでしまうという相談でした。
このように自分でおかしいと感じて受診する場合もあれば、周囲が異常な眠気におかしいと感じて受診を勧められた場合もあります。

夜に十分眠っているにもかかわらず、昼間眠気におそわれ、いったん居眠りをすると1時間以上眠ってしまいます。しかも、すっきりと目覚めることができず、覚醒するまでに何回も再び眠り込みます。
寝ぼけが長引き、会話がまとまらず記憶もはっきり残らないような「睡眠酩酊」と呼ばれる状態になることもあります。

昼間眠気におそわれ、居眠りを繰り返すことが毎日少なくとも3ヶ月以上続きます。所構わず無意識に眠り込む場合もあれば、頭がボーとしてよく働かないものの眠りこむのを我慢できないほどには眠気が強くない場合もあります。

ナルコレプシーと同様に日中の過剰な眠気と居眠りを特徴としますが、夜間の睡眠時間が長い(10時間以上)タイプと睡眠時間が通常のタイプがあります。
居眠りは1時間以上と比較的長く、目が覚めた時にすっきり感が乏しいことも特徴です。
カタプレキシーはみられず、睡眠麻痺、幻覚はナルコレプシーに比べ頻度は低く、レム睡眠に関わる異常もナルコレプシーに比べ目立ちまません。

そのほか、起床困難、頭痛、起立性調節障害、失神などの自律神経症状を伴う場合があります。発症時期の特定が難しいことが多く、症状は長期間持続することが多いですが、一部で自然に改善する症例も報告されています。
原因は明らかになっていませんが、中枢神経系の機能障害と推定されます。

2020年にモダフィニル(モディオダール®)の効能・効果に特発性過眠症が追加されました。ある女性が、この薬を開始してから人生が変わったように感じたと話されたことが印象的でした。

クライネ-レビン症候群(反復性過眠症・周期性傾眠症)

過剰な眠気と睡眠時間の延長が、認知や行動の変化とともに、繰り返し現れるのが特徴です。数日から数週間続く過眠症状が、年に数回から10回以上みられます。夢を見ているように現実感が失われ、食欲や性欲が亢進し、抑うつ的となる場合もあります。

これらの疾患は中枢性過眠症に分類されますが、これとは別に睡眠と覚醒のリズムが崩れることで日中に眠くなる病気が次に述べる概日リズム睡眠障害です。

概日リズム睡眠障害

私たちの体には約24時間のリズムで生理機能や行動を調節する体内時計が備わっています。
体内時計のリズムが自転(明暗)周期にうまく同調しなくなると、望ましいタイミングで寝起きできなくなる結果、社会活動に参加することが難しくなります。これが概日リズム睡眠・覚醒障害とよばれる病気です。
いくつかのタイプに分類されます。

睡眠・覚醒相後退障害

極端な遅寝遅起きを特徴とします。就寝時刻になっても寝つけず夜更かしとなり、さらに起きるべき時刻に起きられず、無理に起きると心身の不調が生じます。
夏休みなどの長期休暇明けに出現することが多く、思春期や若年成人に多くみられます。

睡眠・覚醒相前進障害

極端な早寝早起きを特徴とします。夕方から早晩に眠気が出現し、早朝に目が覚めてしまいます。
夜の団らんに参加できず、周囲が寝静まっている内から目が覚めてしまうため、多くは家族や友人の生活と解離が生じることに苦痛を感じます。高齢者に多くみられ、加齢に伴う体内時計の機能変化が関係すると考えられています。

不規則睡眠・覚醒リズム障害

1日のなかで睡眠と覚醒が不規則に現れることが特徴です。典型的には4時間以上続けて眠れなくなり、日中頻繁に昼寝がみられます。
一部の遺伝疾患に合併するほか、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、発達障害をもつ子供に多くみられます。

非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24)

毎日30分から1時間程度、睡眠-覚醒リズムが後退していくのが特徴です。
本来の体内時計の周期は24時間より少し長く設定されており、主に朝の太陽光が体内時計に作用しズレを調整していますが、この同調機能が何らかの原因で損なわれ、体内時計の本来の周期に従った睡眠-覚醒リズムが現れるのが病気の本態と考えられています。

患者の多くは全盲者であり、網膜が機能を失い、光が体内時計に届かないことで生じます。視覚障害がない場合は、睡眠・覚醒相後退障害の病歴があり、太陽光が届きづらい室内環境で長時間生活していると生じやすいと考えられています。

交代勤務障害

夜勤などの、通常は眠る時間帯に労働することに伴って、不眠や過剰な眠気が生じるのが特徴です。

時差障害

海外(時差地域)への渡航により、体内時計リズムと明暗周期が一致しなくなり、不眠や過剰な眠気が生じるのが特徴です。

*国立精神・神経医療センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒研究部のHPから抜粋
概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD) | 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部(ncnp.go.jp)

【起立性調節障害と睡眠相後退症候群】

起立性調節障の好発年齢は10~16歳ぐらいで女子に多くみられます。
自律神経の調節機能不全による主に循環動態に対する代償機能が破綻することが特徴です。上半身や脳への血流の低下が起こり、めまい、立ちくらみ、失神、朝起きられないとか、概日リズム睡眠障害、倦怠や動悸などを呈する状態です。
背景因子として体質、年齢、疲労感、季節性のもの、あと大きいものとして心理的なストレス、性格などの気質、発達障害 などさまざまです。 

起立性調節障害の7割強ぐらいは睡眠相後退を伴っています。睡眠相後退は寝る時間が深夜から朝にずれ込んで、いったん眠ると非常に深い睡眠が得られる、簡単にいえば、宵っ張りの朝寝坊です。いわゆる昼夜逆転です。
朝起きられないため学校に遅刻してしまうとか、行けなくなってしまいます。起立性調節障害プラス睡眠相後退症候ということになっていきます。 

【インスリノーマ】

インスリノーマの低血糖発作では交感神経症状を欠く無自覚性低血糖がみられ、異常行動、精神錯乱、眠気などの中枢神経症状が主症状となります。また、食後に低血糖をきたす症例もあり、食後にのみ低血糖をきたす症例も約6%存在することに留意します。
鑑別診断に側頭葉てんかんがありますが、側頭葉てんかん(複雑部分発作)では発作中の記憶が保たれていないことが特徴です。

むずむず脚症候群(restless leg syndrome:RLS)に関連した疾患

restless abdomen syndrome および restless back syndrome

夜間や安静時に下肢の異常感覚が生じることで不眠の原因となるRLSですが、症状は下肢に限定されず、腹部や体幹部にも生じます。異常感覚を圧迫感(7%)や痛み(5%)として訴えることがあります。
発症部位に応じて restless back syndrome、restless abdomen syndrome、restless face syndrome、restless arm syndrome、restless genital syndrome などが報告されています。

ドパミン機能障害と考えられており、パーキンソン病PDで発症リスクが高いと言われています。錐体外路症状であるため言語化しにくく、訴えは局所のふるえやだるさなど多彩となります。
言語化しにくい異常感覚という点からは、側頭葉てんかんとの鑑別が必要になります。

RLSの寛解因子として、歩き回る、局部を刺激する、シャワー、マッサージをするなどの動作による刺激、コンピュータ作業などの知的活動やビデオゲームなどの感覚刺激でも症状が改善することが特徴です。
局部を刺激するという対処行動を繰り返した結果、転倒し骨折するなど二次的に外傷を生じた例があります。
不快感がトリガーとなり反復行動を生じる疾患として、トゥレット症候群や抜毛・爪噛み繰り返す身体集中反復行動症などが挙げられます。

*次を参考に記述させていただきました。

  1. 生坂将臣ら、日本医事新報 No.5128 2022.8.6 外来診断学第273回
  2. 生坂将臣ら、日本医事新報 No.5158 2023.3.4 外来診断学第287回

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