日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

不随意運動の考え方

一般診療で遭遇する不随意運動は限られており、専門家でないと診断が困難というイメージが強くあります。しかし、振戦やミオキミア、線維束攣縮、ジスキネジア、ジストニア、ミオクローヌスなどは、まれならず遭遇します。アテトーゼも脳性麻痺の方の不随意運動としてみられます。

いきなり結論になりますが、不随意運動を動きの「大きさ」に注目して、私たち一般医でも理解しやすいように自分なりにまとめてみました。

不随意運動のまとめ
図1不随意運動のまとめ

動きの「大きさ」に基づいた不随意運動

アテトーゼ、
バリズム、
舞踏病
ミオクローヌス、
アカシジア
ジスキネジア、
ジストニア、
動く足趾、
ミオトニア
振戦、
ミオキミア、
線維束攣縮

全身に及ぶ不随意運動>四肢に限局した不随意運動>顔面や口唇、手指、足趾に限局した不随意運動>さらに限局した細やかな不随意運動 とおおまかに置き換えることができます。

不随意運動に関して分析を行う場合は以下の点に関して注目します

1.どこに出るのか

全身に分布するのか、半身か、一肢だけか、一つの髄節で支配された筋肉、ひとつの筋肉かといった点に注目します。

2.いつ出るのか

安静時か、計算や会話などストレス時なのか、姿勢保持時か、運動時かといった点に注目します。

3.いつ出ないか

どういう時に出ないか、寝ている時に止まるのか、意図的に止められるのかに注目します。

4.どのように出るか

規則的か不規則か、遅いか速いか、大きいか小さいか、運動のパターンが単純か複雑か?
上記の分析を行うためにビデオ撮影を行うことが多いです。また不随意運動を正確に判断するには表面筋電図が用いられます。筋電図の解析によって、筋放電の出現部位、律動性、周波数、持続時間、相反性、同期性などが客観的な数字によってとらえることができます。

不随意運動は最初に律動性(周期性がある)なのか非律動性(周期性がない)を判定します。一定のリズムで反復していれば律動性の不随意運動と判定し、振戦かミオクローヌスを考えます。

一方、不随意運動の方向や周期、振幅が不規則ならば、舞踏病、バリスム、アテトーゼ、ジスキネジアを考えます。非律動性の不随意運動である舞踏病、バリスム、アテトーゼ、ジスキネジアの責任病巣は大脳基底核(尾状核、被殻-淡蒼球-視床下核)です。

【各論】

比較的遭遇する機会が多いと考えられる不随意運動について考察してみました。おおまかにまとめると、次のようになります。

1ミオクローヌス :筋がピクッと収縮←クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、多発性硬化症 その他いろいろ
2アカシジア :じっとできない(静座不能)←パーキンソン病
3ジスキネジア :勝手に動く←遅発性(薬剤性)ジスキネジア(口がもぐもぐ・・・)
4ジストニア :勝手に収縮・固くなる←局所ジストニアとして書痙 その他
5ミオトニア :筋の持続的なこわばり←筋緊張性ジストロフィ
6ミオキミア :筋がさざ波の様に動く←眼瞼ミオキミア

1ミオクローヌス:筋がピクッと収縮

ミオクローヌスとは不随意運動の一種。筋肉の不随意的かつ突発的な収縮を意味します。

一定のリズムで素早い不随意運動があればミオクローヌスではなく振戦と呼ばれます。
限局的であれば一つの筋肉がピクッ、ピクッという程度の収縮であるが広範囲になると全身的に多数の筋肉が周期的に収縮を繰り返します。

ミオクローヌスの原因の例

・無酸素状態
・代謝性障害(急性腎不全、肝不全など)
・頭部外傷
クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病
多発性硬化症
・てんかん性
・生理的ミオクローヌス(睡眠時ミオクローヌス、しゃっくりなど)

 脳の広範囲にびまん性に炎症が起きて錐体外路系の均衡が崩れた場合にミオクローヌスは生じると考えられています。小さな局所性病変では基本的に出現しません。

2アカシジア:じっとできない(静座不能)

アカシジア(akathisia)は、錐体外路症状(EPSという)による静座不能の症状のことを言います。ドーパミンD2受容体拮抗作用を持っている抗精神病薬による副作用として出現することがあります。
高力価な作用を持つ薬物ほどこの症状が出現しやすくなると言われます。アカシジアは、神経伝達物質のノルアドレナリンの濃度増加によることが発見されました。

症状はむずむず脚症候群と同じ症状です。主な症状は、座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感の自覚症状であり、下肢の絶え間ない動き、足踏み、姿勢の頻繁な変更、目的のはっきりしない徘徊(タシキネジア)などが特徴です。
また心拍数の増加、息切れ、不安、いらいら感、不穏感等も見られます。アカシジアに伴って、焦燥、不安、不眠などの精神症状が出ることもあります。

アカシジアは、急性アカシジア、遅発性アカシジア、離脱性アカシジア、慢性アカシジアに分類されます。
最も頻度が高いのは急性アカシジアで、原因薬剤の投与開始あるいは増量後、または中止後6週間以内に現れます。投与開始後3か月以上経ってから発現するものを遅発性アカシジア、3か月以上薬剤が投与されており、その中断により6週間以内に発症するものを離脱性アカシジアといいます。
アカシジアの症状が3ヶ月以上続くと、慢性アカシジアなどと呼称されることもあります。

アカシジアは主に抗精神病薬の副作用として現れるため、元来の精神疾患に伴う治療抵抗性の精神症状や不安発作と誤診されやすいです。長期的に適切な処置がされないままで悪化し、自傷行為や自殺に繋がる可能性もあります。

3ジスキネジア:勝手に動く

ジスキネジアは明白な原因がなく、中枢性に生じる特発性のものと薬物誘発性のものとに分類されます。
特発性口腔顔面ジスキネジア(spontaneous orofacial dyskinesia)の原因としては統合失調症、アルツハイマー、認知症、自閉症、精神薄弱など様々な中枢神経系の病態が関与していると考えられます。
また、不適合な義歯の装着が、特発性口腔顔面ジスキネジアの危険因子であるとの報告もあります。口を大きく開け、会話する、あるいは食物を咀嚼することにより不随意運動が軽減あるいは消失し、夜間睡眠時には消失します。

ジスキネジアは異常行動を意味し、自分の意思に関わりなく体が動いてしまう不随意運動を言います。
口腔領域で認められるものは口腔ジスキネジア(oral dyskinesia )と呼ばれ、「繰り返し唇をすぼめる」「舌を左右に動かす」「口をもぐもぐさせる」「口を突き出す」「歯を食いしばる」などが現れます。

その他には、「目を閉じるとなかなか開かずしわを寄せている」「勝手に手が動いてしまう」「足が動いてしまって歩きにくい」「手に力が入って抜けない」「足が突っ張って歩きにくい」 などが起こります。

遅発性ジスキネジアまたは口ジスキネジー

ハロペリドールなどの抗精神病薬を長期服用している患者におきるものは遅発性ジスキネジアまたは口ジスキネジーと呼び、口唇をもぐもぐさせたり舌のねじれや前後左右への動きや歯を食いしばったりすることが見られます。
パーキンソン病にみられるジスキネジアは痙性の強い、四肢や頭部の舞踏様の運動であることがより一般的で、通常レボドパによる治療を開始して数年後に現れます。

パーキンソン病治療におけるジスキネジア

パーキンソン病治療におけるジスキネジアとは、長期間にわたるレボドパ (L-DOPA) 療法によって起き、時間とともに起こったり消えたりする不随意運動です。
運動症状の変動 (motor fluctuationという) はレボドパ治療開始5-10年後の患者の半数以上に起こり、年数が長くなるほどジスキネジアを起こす患者の割合は高くなります。
ジスキネジアが最も起こりやすいのは、レボドパの血中濃度がピークに達する時間帯で、これを peak-dose dyskinesiaといいます。より進行すると二相性ジスキネジア(diphasic dyskinesia)といって、血中濃度が上昇する時と低下する時の二回ジスキネジアが起こります。
ジスキネジアを避けるために、若い患者ではレボドパ治療の開始を遅らせるようにします。

発作性ジスキネジア

発作性ジスキネジアは舞踏運動、アテトーゼ、バリズム、ジストニアなど様々な運動の組み合わせで起こる発作性の運動異常症です。かつてはてんかんの一種とも考えられていました。しかし発作中に脳波異常もみられず意識も保たれ、運動がジストニア、舞踏運動、アテトーゼといった錐体外路症状を示すことからてんかんの範疇には含めません。
染色体異常部位がてんかんや片頭痛など発作性疾患の異常部位の近傍にあるため、発作性疾患との関連が指摘されています。
以下の4種類の発作型が知られています。

  • 発作性運動誘発性ジスキネジア
  • 発作性非運動誘発性ジスキネジア
  • 発作性労作誘発性ジスキネジア
  • 発作性睡眠誘発性ジスキネジア

4ジストニア:勝手に収縮・固くなる

持続的に筋肉が収縮する運動で、ある特定の肢位を維持し続ける様になります。

ジストニアは、脳(主に大脳基底核)や神経系統の何らかの障害により、持続的または不随意的に筋肉が収縮したり固くなったりする難治性の疾患です。

持続的または不随意的に筋肉が収縮したり固くなったりするのをジストニア運動といい
ジストニア運動を伴う疾患をジストニアと呼びます。
筋肉が自分の意思通りに動かなくなり、異常な動作や姿勢になります。
発病の早い段階においては、ストレスや情緒により影響されることもあります。

<症状>

・ 首が上や下、左や右に傾く ・ 首がねじれる ・ 足がねじれる ・ 身体が歪む ・ まぶたが勝手に閉じようとする ・ 口を歪ませる ・ 唇を突き出す ・ 声が出ない、出しにくい ・ 鉛筆や箸が持てない、持ちにくい ・ 字が書けない、書きにくい ・ ピアノ・ギターなど特定の楽器が弾けない、弾きにくい

<臨床症状の特徴>

  • 常同性 (stereotype)  …異常な動作や姿勢のパターンは一定で、反復・持続する
  • 動作特異性 (task-specificity) …ある特定の動作のみに伴って症状が現れることが多い
  • 知覚トリック (sensory trick) …感覚刺激により、一時的に症状が軽減することが多い
  • 早朝効果(morning benefit) …起床後しばらくは症状が軽いことが多い
  • オーバーフロー現象(overflow phenomenon)…動作時の環境で症状が増強される
  • フリップフロップ現象(flip-lop phenomenon)…何らかのきっかけで急に増悪、もしくは軽快する

発症年齢別には

  • 20歳前・・・小児期から発症する全身性ジストニア
  • 20歳後・・・成人した後に発症する局所性ジストニア

に分類されます。

5ミオトニア:筋の持続的なこわばり

筋緊張性ジストロフィでみられる症状です。主な筋肉の症状は、筋強直現象(ミオトニア)と筋力低下・筋萎縮です。
筋強直とは筋の一種のこわばりのことで、手を強く握るとスムーズに手を開けない(把握ミオトニア)などの現象が見られます。本症の筋強直は繰り返し同じ運動をすると軽くなるのが特徴的 (ウォームアップ効果)です。

把握ミオトニア筋力低下・萎縮の分布にも特徴があります。本症で早期に筋力低下が見られるのは、手指(ペットボトルのフタを開けにくい)、足(立位保持が困難、つまづきやすい)などの遠位筋、咬筋(堅い物がかみにくい)、頸筋(臥位で頭を持ち上げにくい)などの部位です。

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