総論は「関節痛診断のための検査の進め方」に述べていますので、始めにご覧ください。
何が起こって痛みが出ているかについては、いろいろな意見がありますが検査や画像でとらえられるような変化がないのが一般的なので、正確な原因であるという証拠はありません。
睡眠中不自然な姿勢が続いたために一部の筋肉が阻血に陥り時にしこりとなっている、前日などにいつもはしないスポーツや労働をして一部の筋肉が痙攣している、頸椎の椎間関節の関節包に炎症がおこる、などの原因が考えられています。
筋肉の阻血・疲労や関節包の炎症を引き起こすのは、上肢の使い過ぎ(手で重いものを持つ動作は頸の後ろの筋肉に負担がでます)、同じ姿勢の持続(飲酒後の睡眠や疲れ果てての睡眠などでは寝返りが少なくなる・パソコンや事務作業が長時間に及ぶと頭を一定位置に保持するために頸部の筋肉に負担が生じる)、が原因の場合が多いと思われます。
(日本整形外科学会のHPより抜粋)
いわゆる〝寝違い〟の症状から類推すべき2つのコモンな疾患について私見を述べたいと思います。寝違いの相談を受けることは珍しくありませんが、その多くは上に述べた【寝違いの原因と病態】によるものです。しかし、個人的には次の2つの疾患を常に鑑別するようにしています。
その疾患は、石灰沈着性頸長筋腱炎と環軸関節偽痛風(CPPD)の2つです。これらの疾患の大きな特徴は好発年齢と運動制限の方向です。
年齢は診断の重要なポイントの一つです。前者が20~50歳代、後者が60歳以降に多いのですが、両者とも40~60歳代にまたがってみられることがあり、年齢だけでは区別できない点に注意を要します。
もう一つの重要なポイントは頸部の運動制限の方向です。前者が頸部の全方向の運動制限を生じるのに対して、後者は主に頸部の回旋運動の制限を生じます。
❶石灰沈着性 頚長筋腱炎 |
❷環軸関節 偽痛風 |
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好発 | 20~50歳代、 性差なし |
60歳以降の女性 |
発熱 | 軽度 | あり |
嚥下痛 | あり | なし |
重篤な 合併症 |
なし | なし |
MRI検査 | 咽頭後壁にT2強調 画像で高信号域 |
- |
CT検査 | 環軸椎前方の 石灰沈着 |
軸椎歯突起周囲 の石灰沈着 |
成因 | 主にハイドロキシ アパタイト |
主にピロリン酸 カルシウム |
治療 | NSAIDs、 ステロイド |
NSAIDs、 ステロイド |
石灰沈着性頸長筋腱炎は20~50歳代に好発し、急性発症の頸部痛、嚥下痛、頸部の全方向の可動域制限を来す疾患です。
頸長筋へのカルシウムハイドロキシアパタイト沈着による炎症が原因とされています。腱炎を起こす部位はC1-2椎体前面が典型的ですが、C4-5、C5-6椎体前面も報告されています。
頸長筋はC1からTh3付近までの椎体前面に付着する筋肉で、この部の炎症により〝頸部の屈曲、伸展、側屈、回旋いずれの運動〟でも疼痛が誘発されます。
頸部屈曲とほぼ同様の頭位であるsniffing position(下位頸椎を屈曲し、下顎を突き出した匂いをかく姿勢)でも増悪しますが、安静時痛は軽微です。また嚥下には頸長筋も関与するため、〝嚥下時の疼痛〟も特徴です。
急性の頸部痛と嚥下痛からは破傷風と咽後膿瘍を鑑別します。重症感が異なりますが、詳細は割愛します。
(日本医事新報、No.4906、2018.5.5;「臨床診断学第173回」:生坂正臣)
環軸関節偽痛風はcrowned des syndrome CDSとしても知られています。好発年齢は一般的には60歳以降の高齢者ですが、より若い年齢でも起こることもあります。
環軸関節偽痛風は軸椎歯突起にある靱帯にピロリン酸カルシウムが沈着して起こる結晶誘発性関節炎(偽痛風)の一つです。頸椎上部は主に頸部の回旋運動に関与するため、環軸関節偽痛風では〝主に頸部の回旋時痛と回旋障害〟を生じます。
前述の石灰沈着性頸長筋腱炎では頸部の回旋障害だけでなく、前後屈でも疼痛を生じ全方向の運動制限を生じる点が鑑別のポイントです。CDSではNSAIDsに速やかに反応する経過は次に述べるリウマチ性多発筋痛症との鑑別点になります。
高齢者に急性発症する頸部から上肢帯にかけての疼痛によりリウマチ性多発筋痛症PMRと誤診されやすいですが、頸部回旋運動の著しい制限、高熱(80.4%)、NSAIDsの有効性が鑑別点となります。
髄膜炎とは、髄膜が伸展する頸部前屈で痛みが増悪し、環軸関節が係わる回旋運動には支障がない点や非運動時には痛みが軽減するなどで鑑別可能です。
(日本医事新報、No.4856、2017.5.20;「臨床診断学第150回」:生坂正臣)