慢性腹痛の1~3割が腹壁由来とされ、その代表が前皮神経絞扼症候群ACNES(abdominal cutaneous nerve entrapment syndrome)です。
ACNES は(簡単に腹壁神経痛と呼ばれることもあります)、Th12~12の末梢神経が筋鞘を貫く部位(腹直筋の外縁付近)で絞扼され、持続性または差し込むような疼痛を来す疾患です。
腹部のごく狭い範囲に「動くとビクッとした痛みが起こる」「服が擦れると違和感がある」という痛みが特徴です。
日常診療でまれならず経験される、忘れてはならない腹痛の原因の一つです。神経痛という性質からは、疱疹が出る前の帯状疱疹による神経痛と間違えないように注意します。
本症は30~50歳の女性に好発しますが、中高生などもっと若い女性にみられることもしばしばあります。
原因として、外傷や手術、急激な運動、きついベルトや洋服の他、肥満や妊娠などによる腹壁の緊張などから起こりますが、原因がはっきりしない場合も多いです。
患者は疼痛部位を2cm程度の範囲で明瞭に示すことができます。咳などの腹圧がかかる動作や特定の体位で痛みが増悪することがあり、身体診察では Carnett徴候 が陽性となります。
疼痛部位にアロディニアや温痛覚の低下を認めることがあります。同じ腹壁由来の疼痛を来す疾患としては、腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁内の子宮内膜症、腹壁血腫、腹壁デスモイドなどがあります。
本疾患を疑った場合には局所麻酔が診断および治療に有用で、初回は1%リドカイン注射液を皮下注射します。91%の症例で50%以上の疼痛改善を認め、特にステロイドを混注すると治療効果が高まるとされています。再燃する場合にもステロイドの混注が有用です。
難治例では神経切除術を考慮します。
腹壁の皮神経が絞扼されることで急性の体幹痛を呈することがあり、その代表疾患が腹痛を生じる前皮神経絞扼症候群 abdominal cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES ですが、絞扼部位の違いにより側胸部痛・側腹部痛を生じる側皮神経絞扼症候群 lateral cutaneous nerve entrapment syndrome : LACNES と背部痛を生じる後皮神経絞扼症候群 posterior cutaneous nerve entrapment syndrome : POCNESがあります。
ACNESと同様にLACNESも特発性が多く、外傷、手術、肥満などが稀な誘因となります。LACNESもTh7-12の末梢神経が筋鞘を貫く部位に好発するため、
という特徴があります。
ACNES では腹直筋収縮により圧痛が増強しますが(Carnett徴候)、LACNES でも体幹の回旋や側屈により側皮神経が貫く外腹斜筋が緊張することで痛みが増強します。