日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

主に顔面に限局する浮腫

総論は「見逃しやすい浮腫の病態」に述べていますので、始めにご覧ください。

1.血管性浮腫

血管性浮腫は真皮深層から皮下組織にかけての浮腫のため、境界不明瞭なびまん性の広がりのある浮腫となります。これに対して、蕁麻疹は表皮から真皮にかけての浮腫のため、比較的境界鮮明な膨隆を認めます。

ポイント1繰り返す発作性・限局性浮腫をみたら遺伝性血管性浮腫HAEも鑑別に!

血管性浮腫
図1血管性浮腫

血管性浮腫は遺伝性とそれ以外のものに大別されます。繰り返す発作性の限局性浮腫では遺伝性血管性浮腫HAEを疑い、スクリーニングとしてはC4、D-ダイマーを測定、診断にはC1インヒビター活性(および抗原量)を調べます。

結果により、HAE1型から3型に分類されます。

  • HAE1型:C1-INH活性低下、抗原量低下(HAEの80~85%)
  • HAE2型:C1-INH活性低下、抗原量正常~高値(HAEの15~20%)
  • HAE3型:C1-INH活性/抗原量ともに正常、ⅩⅡ因子異常

ポイント2遺伝性血管性浮腫を疑うポイント

  • 繰り返す非圧痕性浮腫、部位は一定しない
  • 下肢や足背部の移動する浮腫
  • 小児期から青年期に発症、再発性の原因不明の腹痛発作や上気道浮腫

ここでは頻度の多い遺伝性以外の血管性浮腫について述べます。(写真1、2、3)

血管運動性浮腫(クインケ浮腫)
写真1血管運動性浮腫(クインケ浮腫)

血管運動性浮腫(クインケ浮腫)
写真2血管運動性浮腫(クインケ浮腫)

血管運動性浮腫(クインケ浮腫)
写真3血管運動性浮腫(クインケ浮腫)

上眼瞼や口唇にある日突然にこのような浮腫が発現して、内科診療所を受診される人は少なくありません。顔面の血管性浮腫は「クインケ浮腫」とも呼ばれます。

蕁麻疹を伴う場合、図1の流れから特発性血管性浮腫と考えられ心配ないと考えます。多くは1日から2日くらいで自然に消失します。特発性は何回も繰り返す例は少なく、遺伝性との鑑別点にもなります。

NSAIDsやACE阻害薬/ARBなどによる薬剤性血管性浮腫に注意します。特に、ACE阻害薬/ARBは降圧薬として使用頻度が高く、注意を要します。

上眼瞼の浮腫をみた場合には、EBV感染症、皮膚筋炎、SLEなど膠原病、涙腺疾患、好酸球性血管性浮腫などと鑑別を要します。これらの中で皮膚筋炎によるヘリオトロープ疹は、一見すると上眼瞼浮腫やかぶれ(接触性皮膚炎)、日光過敏症などと間違われやすく注意を要します。

2.涙腺疾患

涙腺腫瘍は、上眼瞼腫脹、眼球突出、眼球偏位、眼球運動制限、複視など様々な症状を生じます。特に上眼瞼のS字状変化は、眼瞼浮腫の鑑別で涙腺腫脹を示唆する有用な所見です。
涙腺由来の腫瘍性疾患としては、リンパ増殖性疾患のほか、炎症性疾患(IgG4関連疾患、シェーグレン症候群など)、原発性上皮性腫瘍、転移性腫瘍が挙げられます。

3.伝染性単核症(EBV感染症)

伝染性単核症では、眼瞼浮腫を主訴として眼科を受診する例があることが報告されています。若年者に両側の眼瞼浮腫があり、発熱と倦怠感を伴うときには伝染性単核症の可能性も考慮する必要があります。
伝染性単核球症によって起こる眼瞼浮腫はHoagland 徴候と呼ばれ、機序は不明ですが一因としてリンパの閉塞が考えられています。

4.甲状腺機能低下症

全身倦怠感とともに、上眼瞼浮腫を主症状として発症する甲状腺機能低下症の例があることが報告されています。甲状腺機能低下症はコモンな疾患なので常に鑑別に加えます。

5.上大静脈症候群

腫瘍や炎症性病変による上大静脈の閉塞や狭窄による、頭部・頸部・上肢および体幹上部からの静脈還流障害に伴う一連の症候群です。
頭頸部の腫脹のほかに、呼吸困難感や頭部の充満感を認め、睡眠(臥位)や前屈姿勢で悪化します。臥位による睡眠が症状自覚のきっかけとなる例があることに注意します。
また、症状が数週間で進行し、側副血行路が発達するとその症状はいったん軽快する傾向にあるため、良性の経過とご判断しないように注意します。

6.丹毒と顔蜂窩織炎

丹毒は主にA群溶血性連鎖球菌による皮膚感染症です。顔面や下腿に好発し、急性発症の発熱、悪寒および頭痛などの全身症状を合併します。顔の丹毒は日常診療では比較的コモンな疾患です。

ポイント1
  • 丹毒は真皮に病変の主座があるのが特徴
  • 蜂窩織炎は真皮深層から皮下組織のより深いところに病変が存在する

丹毒は浅い真皮に病変の中心があるため、蜂窩織炎よりも発赤や腫脹が目立ち、境界明瞭な浮腫性紅斑を呈するのが特徴です。
蜂窩織炎が2~3日の経過をもって病状が進行するのに対して、丹毒では急速に病変が拡大し、悪寒・発熱などの全身症状を伴いやすいです。

ポイント2耳介には真皮深層が存在しないため、耳介への病変の広がりは丹毒を示します(Milians`s ear sign)。顔蜂窩織炎との重要な鑑別点です。

*本章の多くは、日本医事新報の生坂政臣監修「キーフレーズで読み解く外来診断学」を参考にして転写・記述させていただきました。

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