日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

腰仙骨神経叢

総論は「総合内科の第一歩は末梢神経を理解する」に述べていますので、始めにご覧ください。

腰仙骨神経叢
図1腰仙骨神経叢

腰神経叢は第12胸神経~第4腰神経の前枝から構成されています。仙骨神経叢は第4腰神経~第3仙骨神経の前枝から構成されています。
腰神経叢は脊髄神経から分岐し背中・腹部・鼠径部と下肢のうち大腿・脹脛・足に繋がる仙骨神経叢と相互に連結しているためこれらを合わせて腰仙骨神経叢と呼びます。

腰神経叢

腰神経叢から分枝する神経の中で内科外来において遭遇する機会の多い臨床的に重要な神経は、外側大腿皮神経、大腿神経および閉鎖神経です。これらの神経は絞扼性神経障害や圧迫による神経障害を起こします。

外側大腿皮神経

外側大腿皮神経
図2外側大腿皮神経(「触れてわかる腰痛診療。井須豊彦、金景成 編著。中外医学社」の図を一部改変)

骨盤の上前腸骨棘のすぐ下からは、外側大腿皮神経という大腿の前と外側の皮膚へ行く神経が走っています。その神経が骨盤からでてくるトンネルで圧迫されることにより、大腿に痛みを生じる絞扼性神経障害です。
運動障害は伴いませんが、立ったり歩いたりすると痛みが強くなり、しゃがむと軽減します。
大腿外側皮神経痛は鼡径部を圧迫することになる原因(肥満・妊娠・ベルトやコルセットの絞めすぎ、あるいは窮屈なズボンや下着を付けることなど)によって起こるといわれています。

絞扼性神経障害の一つとして知られる外側大腿皮神経痛は感覚異常性大腿神経痛とも呼ばれます。外側大腿皮神経はL2、L3神経根の知覚枝上前腸骨棘の内側の鼠径靱帯での絞扼が最も知られています。
大腿外側部のしびれは臥位など下肢の伸展で増悪し、座位で改善することが多いです。また立ったり歩いたりすると痛みが強くなり、しゃがむと軽減します。
知覚枝のため筋力低下や腱反射異常を伴いません。骨盤内や後腹膜の病気による神経圧迫も原因となる可能性があります。

きつめのズボン・ベルト、肥満、妊娠、腹水、腹臥位での脊椎手術後(12~24%)、ICUの腹臥位などによる鼠径靱帯での絞扼、糖尿病、骨盤内腫瘤、後腹膜腫瘤などが原因として知られています。
発症年齢は15~81歳に及び、症状は大腿外側部の痛みやしびれが73%ですが、多様な吻合があるため大腿前面まで及ぶ場合が26%あります。
大腿外側皮神経は知覚枝であるため、筋力低下や深部腱反射は正常であることが大腿部に感覚障害をきたす神経根症との鑑別点となります。

大腿神経

大腿神経は第2、第3、第4腰神経の腹側から分枝する神経であり、第4腰神経からのものが最も大きく、第2腰神経からのものは非常に小さいです。

大腿神経は大腿前面の皮膚の知覚に関与しています。大腿前面や側面に痛みやしびれが出ることがあり大腿神経痛と呼びます。
大腿神経は腸腰筋、恥骨筋、縫工筋、大腿四頭筋、膝関節筋など歩行に必要な筋肉も支配しています。重篤な状態になると痛みやしびれにより歩行困難に陥ります。腰痛持ちの人が発症することが多い病気です。

閉鎖神経

閉鎖神経(L2~L4)による神経障害(閉鎖孔ヘルニア、妊娠・乗馬による外傷、骨盤内腫瘍・血腫、下腹部・婦人科の外科手術後 など)は大腿内側部に感覚障害を生じます。
大腿神経と同時に侵されることが多く単独麻痺は稀です。大腿の内転と外旋が侵されるため、下肢を組むことが困難になります。

閉鎖孔ヘルニアは痩せ型の高齢女性に多くみられ、大腿骨(骨頭)骨折などと誤診され見逃されやすい疾患です。特徴的所見として大腿内側と股関節から膝部にかけての疼痛があり Howship-Romberg 徴候と呼ばれています。

【臨床的に重要なポイント】

大腿外側のしびれや疼痛では外側大腿皮神経、大腿内側では閉鎖神経、大腿前面では大腿神経、大腿後面では座骨神経の障害をそれぞれ考えます。
外側大腿皮神経や閉鎖神経は絞扼性障害だけでなく、骨盤内腫瘍や血腫でも起こることに注意します。

仙骨神経叢

腹部から下肢に分布する脊髄神経は、腰神経叢と仙骨神経叢とを形成します。
仙骨神経叢は第4腰神経~第3仙骨神経の前枝から構成されており、その枝は腰部~大腿後面と下肢~足部に分布します。陰部神経・下殿神経・坐骨神経・上殿神経は仙骨神経叢です。

【臨床的に重要なポイント】

  • 座骨神経から総腓骨神経および脛骨神経におよぶ走行
  • 絞扼性神経障害としては梨状筋症候群、上殿皮神経 など
坐骨神経とその分枝
図3坐骨神経とその分枝

下肢の末梢神経は脊髄神経根から出た座骨神経となって下行し、膝窩部で総腓骨神経脛骨神経に分かれます。総腓骨神経は腓骨頭直上で深腓骨神経浅腓骨神経に分かれます。脛骨神経からは腓腹神経が分枝します。

深腓骨神経は運動神経と感覚神経で、足関節の背屈(運動)と第1・2趾間の付け根の感覚に関係します。浅腓骨神経は感覚神経で、足背および下腿外側下部に関係します。

脛骨神経は運動神経と感覚神経で、足関節の底屈(運動)と外果・足部外側・足底部の感覚に関与します。腓腹神経は外果から小趾にかけての外側の部分の感覚神経です。腓腹神経は運動神経ではありません。

梨状筋症候群とは?

梨状筋症候群
図4梨状筋症候群

坐骨神経は、骨盤から出て下肢へ向かいますが、骨盤の出口で梨状筋と上双子筋の間隙を通ります。この梨状筋は通常柔らかいのですが、負担がかかって硬くなると臀部に痛みを起こしたり坐骨神経を圧迫し、しびれや痛みが出てきます。このような状態を梨状筋症候群といいます。

日常よくみかける疾患ですが、座骨神経痛と診断され放置されていることが多い疾患です。臀部のコリコリと堅くなった部分を押さえて痛みを自覚することにより、自分でも診断可能です。

Toilet seat症候群とは?

座骨神経が膝窩部で総腓骨神経に分枝する部分で起こる神経障害です。
一般的に下腿の絞扼性神経障害の危険因子は、外傷、圧迫、ギプス固定、手術時の砕石位などによる総腓骨あるいは脛骨神経麻痺が知られていますが、便座圧迫による座骨神経麻痺はtoilet seat症候群と報告されています。身体診察では神経損傷部位(膝窩部)のTinel徴候が重要です。

腓腹神経障害とは?

腓腹神経障害
図5腓腹神経障害

腓腹神経は感覚神経一次ニューロン線維と交感神経節後線維で構成されます。
運動神経成分がないので術後後遺症として麻痺がなく、感覚低下の範囲も狭いため神経生検によく用いられます。また神経移植が行われる際の移植片として用いられることもあります。
絞扼性神経障害では、腓腹神経の支配領域をよく理解することとTinel徴候を確認することが大切です。

足根管症候群とは?

足根管症候群
図5足根管症候群

足根管症候群は足関節内果後下方の屈筋支帯下トンネル(足根管)で、後脛骨神経が圧迫されて生じる絞扼性神経障害です。後脛骨神経は足根管内でまず内側踵骨枝を分枝し、足底部や足趾に疼痛やしびれを生じます。
起立や歩行などの加重で増悪し、一般には臥位で軽快します。しかし夜間痛を生じることも多く、本症の特徴的な臨床症状の一つとして挙げられます。

足根管症候群の原因の多くは距骨、踵骨、内果の外傷であり、その際に瘢痕組織や骨・軟骨断片が形成され、足根管部を圧迫し神経絞扼を生じます。ガングリオン、骨性膨隆、関節リウマチ、甲状腺機能低下症、糖尿病などの他、重症の足関節捻挫も原因となり得ます。

夜間に増悪する足底部の灼熱痛を生じる鑑別疾患として肢端紅痛症があります。足根管症候群は片側性が多く(片側:両側=6~7:1)、通常は起立や歩行などの荷重で悪化します。
肢端紅痛症は両下肢末梢の発作性の灼熱痛、入浴(温熱)・運動・飲酒・圧迫などによる増悪と冷却での寛解(逆レイノー症候群)などの特徴があります。
複合性局所疼痛症候群やムズムズ足症候群なども鑑別に挙げることができます。

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