日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
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ぶどう膜炎と内科疾患

目が赤い、目が痛い、まぶしい、視力が落ちた、霧がかったように見える、ゆがんで見えるといった症状は、ぶどう膜炎の可能性があります。 こうした症状を自覚したとき、患者が直接に眼科医を受診すれば問題はないのですが、まず始めにかかりつけの内科診療所で相談を受けることがあります。
これらの症状があれば、ぶどう膜炎を疑うことが大切です。

ぶどう膜
ぶどう膜

ぶどう膜炎は、虹彩、毛様体、脈絡膜とそれに隣接する組織に起きる炎症の総称です。前部ぶどう膜炎と後部ぶどう膜炎に分けられ、脈絡膜まで炎症が広がっている場合を後部ぶどう膜炎と呼びます。原因疾患は感染性と非感染性に大別されます。

結膜充血と毛様充血

結膜充血と毛様充血と胸膜炎
結膜充血と毛様充血と胸膜炎

一般診療で眼の充血をみた場合には一般的な結膜炎と全身性疾患における部分症状としてのぶどう膜炎や強膜炎を鑑別する必要があります。その際に、充血の性状を結膜炎による結膜充血とぶどう膜炎や強膜炎により生じる毛様充血に分けるようにします。

結膜充血は分布する血管が円蓋部(眼瞼の翻転部)から入るため、充血は眼瞼結膜を含み眼球結膜周辺に顕著となります。結膜充血は眼瞼分泌腺を含むため、眼脂を伴いやすく痛みはありません。

毛様充血では虹彩や毛様体に近い輪部(角膜周囲)の充血が強くなり、眼瞼結膜の充血は伴いません。ぶどう膜炎は脈絡膜を含むため霧視などの視力障害を伴いやすく、強膜炎では眼痛を伴いやすくなります。強膜炎では円蓋部までの眼球結膜に強い充血を認めますが、やはり眼瞼結膜には充血は及びません。

実際には毛様充血は明らかでないことが多いです。眼瞼結膜に充血を伴わない充血の場合には、より重篤な疾患が隠れているかもしれない毛様充血の可能性を考えるようにします。

ぶどう膜炎(前部/後部ぶどう膜炎)
ぶどう膜炎(前部/後部ぶどう膜炎)

非感染症のぶどう膜炎

非感染症のぶどう膜炎の原因として多いものは、サルコイドーシス、ベーチェット病、原田病であり、三大原因疾患です。
その他には、膠原病(RA、SLE、PNなど)、炎症性腸疾患、血清反応陰性脊椎関節症、稀ですがCogan症候群や再発性多発軟骨炎も症例検討では有名です。
薬剤が原因の場合もあります。サプリメントや漢方薬にも注意します。

感染性ぶどう膜炎

感染性ぶどう膜炎の病原体としては、ヘルペス、トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、HIV、HTLV-1、風疹などがあります。細菌としては結核、一般細菌ではありませんが結核は代表例です。他には、梅毒、ネコひっかき病を生じるバルトネラ、人畜共通感染症のブルセラなどがあります。
全身性疾患では両眼に症状が出現することが多いですが、発症初期には片眼だけのこともあります。

このような疾患を念頭に置きながら問診と診察を進める必要があります。
ぶどう膜炎の鑑別診断はかなり多いので、全て覚える必要はなく遭遇した際に調べればいいと思います。ただし、確定診断がつかず原因不明のままになることもあります。

性的に活発な年齢層では、不特定多数との性交渉(危険な性行動)に注意すべきです。ハイリスクな性行動がある場合、HIV や梅毒など性感染症(STD)は押さえるべきです。STD が1つ見つかれば、他の STD の合併がないかを確認すべきです。STD のスクリーニングでは、梅毒、HIV、淋菌、クラミジアを筆頭に、C 型肝炎、B 型肝炎を検査します。

増加傾向にある梅毒

最近、梅毒は増加傾向にあります。梅毒は、トレポネーマ(Treponema pallidum subsp. pallidum)による慢性の全身感染症で、代表的な STD です。どこに症状が出てもおかしくありません。
病期は、第1期、第2期、潜伏期、第3期に分かれます。梅毒の中枢神経への浸潤は病期が進んでから起こると思われがちですが、実はどの病期でも起こり得ます。第1期から神経梅毒になっている症例もあり、第2期までに生じた場合は早期神経梅毒と呼ばれます。

 典型的な自然経過は、曝露してから第1次潜伏期間があり、その後に、陰部に硬結や潰瘍が生じる第1期梅毒となります。梅毒の硬結・潰瘍は無痛性が特徴で、自然に治癒します。
その後、第2次潜伏期間となり、皮疹などが生じる第2期が続きます。感染後1年以上経過してから第3期となり、心血管梅毒などが生じてきます。
神経梅毒は診断が難しく、髄液検査で細胞数の上昇や蛋白質上昇、FTA 上昇などの所見があれば神経梅毒として治療した方が安全です。

梅毒はグレートイミテーターと呼ばれるほど、症状が多彩で様々な他疾患に似た症状が出現することがあります。皮膚病変、特に陰部の皮膚病変を見た際は梅毒を疑います。
加えて、原因不明のリンパ節腫脹、口腔・陰部粘膜病変、肛門周囲病変、目の症状、中耳炎、糸球体腎炎、ネフローゼ、原因不明の肝炎・腹膜炎、原因不明の神経症状、原因不明の筋肉痛・関節炎、原因不明の腫瘤性病変なども生じます。原因疾患が分からない際は梅毒も鑑別に加えるようにします。

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