日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

関連痛と神経支配

腹痛には内臓痛と体性痛があります。そして、内臓痛に伴う関連痛がありますが、痛みの性質からこれらを明確に区別することは実際には困難です。
しかし、関連痛の仕組みを理解できると、体性痛の部位から痛みの原因となっている臓器をある程度特定することができるようになります。

痛みの伝導路は、侵害受容器(神経細胞一次ニューロン)が痛み刺激を受けた後、 →脊髄後角(二次ニューロン)→視床(三次ニューロン)→大脳皮質へと上行性に伝導されます(脊髄視床路)。
それぞれのニューロンはくっついているわけでなく、神経伝達物質を放出して情報を伝えています。この接合部をシナプスと言いますが、シナプスは電源コンセントをイメージすると理解しやすくなります。

さて関連痛に戻りましょう。
体性痛と内臓痛の情報を伝える一次ニューロンは、脊髄後角で二次ニューロンに変わります。ここがシナプスですが、電源コンセントにたとえると、体性痛と内臓痛の一次ニューロンが、同じ脊髄レベルでは同一の電源コンセントにつながることになります。その電源ケーブルが上行性にシナプスを変えながら、視床-大脳皮質感覚野に伝えられて痛みを感じます。

関連痛
関連痛

関連痛は、内臓痛の刺激情報を伝えるニューロンが、同じ脊髄レベルでは体性痛のニューロンと同じ電源コンセントにつながり上行性に伝えられる結果、大脳皮質体性感覚野で内臓痛を誤って体性痛として感じるために生じると考えられます。
したがって、関連痛は皮膚分節(デルマトーン)に沿って生じることになります。

さて、総合内科的に知っておくと役立つ関連痛の知識をまとめてみました。患者が痛みを訴えた場合、体性痛として原因が明らかでない場合、次に関連痛と考えて内臓痛を考えると、原因臓器の特定に役立つことになります。

知っておくと役立つ関連痛の知識

1. 食道の神経支配は、Th4-7

好酸球性食道炎は発作性に胸痛発作を繰り返すことがあり、冠れん縮性狭心症などと間違わないようにします。

2. 胃の神経支配は、Th5-10

Th5-10の皮膚分節(デルマトーン)に沿った体性痛は、胃潰瘍からの関連痛として起こることがあります。

3. 胆嚢の神経支配の上限は、Th5(右肩甲骨下縁に相当)

このことは、胆石や胆嚢炎由来の関連痛の上限が、右肩甲骨下縁を超えて上方に及ばないことがないことが分かります。

4. 上腹部由来の内臓痛は腹腔神経節、上腸間膜動脈神経節をへてTh5-9、下腹部臓器は下腸間膜動脈神経節をへてTh10-L2の後根に伝達される

これは、患者が上腹部痛や下腹部痛を訴えて原因が明らかでない場合は、それぞれTh5-9、Th10-L2レベル相当の脊椎(脊髄)病変も考える必要があります。
これらの部位に椎間板ヘルニアはまれですが、化膿性脊椎椎間板炎、転移性悪性腫瘍、硬膜外血腫や膿瘍などで起こることがあります。

5. 心膜や縦隔側胸膜、横隔膜ドームの神経支配はC4-5

後頸部から肩に及ぶC4-5支配の皮膚分節は僧帽筋陵として有名で、心膜炎などの心膜病変や肝周囲炎、胸膜炎などで、僧帽筋陵に関連痛を生じます。逆に、僧帽筋陵に痛みを生じたときは、C4-5の頸髄病変だけでなく、心膜・縦隔側胸膜・横隔膜ドームの病変を考える必要があります。

6. 陰茎の神経支配はS2-4

脊髄のS2-4の病変が陰茎痛を起こすことがあります。悪性リンパ腫などが馬尾に浸潤すると陰茎痛に関連痛を起こすことがあります。また、脊柱管狭窄症で馬尾神経型の場合にS2領域に限局した疼痛やしびれを起こすことがあります。

7. 腎臓の神経支配はTh10-12

腎臓からの内臓神経はTh10からTh12の交感神経節に入るため、腹部前面への関連痛を起こすことがあります。これは腎梗塞の診断に有用です。腎梗塞は平均発症年齢72歳、基礎に心房細動70%、心疾患3%とされます。
LDHは90.5%(380~1417IU/L)で上昇し、診断に有用とされます。腎梗塞の頻度はER室で0.013%と稀ではありますが、腎盂腎炎や尿管結石で説明困難なCVAの疼痛をみたときには鑑別の必要があります。

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