発熱や激しい痛みを繰り返す「周期性発熱症候群」という一群の病気があります。
原因は病原体から体を守る免疫システムの異常という新概念の疾患です。
病原体への初期攻撃を担う「自然免疫」の遺伝子の一部の変異により、病原体がいないのに炎症が起こる病気を総称して「自己炎症性疾患」といいます。1999年に提唱された新しい疾患概念で、周期性発熱症候群も含まれます。
その代表的な疾患の一つが家族性地中海熱FMFです。FMFはIL-1βという物質が体内で過剰にできて、全身に炎症を引き起こします(下イラスト)。
重症の場合、腎臓や心臓などの機能低下を起こすこともあります。地中海沿岸地域で多発し、国内患者は約500人と推定されています。
家族性地中海熱は、周期的に発熱や漿膜炎を繰り返す遺伝性疾患です。月経が発作の誘因となることがあり、これは月経期のエストロゲンの低下により、IL-6が増加することに起因します。急性の高熱と身動きできないほどの激しい漿膜炎(腹膜炎では腹痛、胸膜炎では胸痛)の発作を長年にわたって繰り返します。
通常、発作は2~3日で自然軽快し、間欠期は無症状で、月経やストレスが誘因となります。発症年齢は10歳以下が65%、20歳以下まで含めると90%になります。
まれな疾患なので診断に至るまで長い年月を要することが多く、耐えがたい痛みだけでなく、治療が遅れるとAAアミロイドーシスを発症し、これによる腎不全が主要な死因となります。
本症には丹毒様紅斑と呼ばれる浮腫性紅斑を7~40%に認めることがあります。典型的には下腿に限局した有痛性の浮腫性紅斑で、24~72時間のうちに自然消退します。
治療の第一選択薬はコルヒチンです。
同症候群のうち、IL-1βが絡む病気にはほかに、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、メバロン酸キナーゼ欠損症(MKD)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)がありますが、推定患者数はいずれもFMFより少ないです。
PFAPA症候群は1987年に初めて報告されました。一般に2~5歳で発症する小児科の疾患ですが、成人発症(25.3±8.3歳)の報告もあります。
Clockwork periodicityと表現される規則的な周期熱に、アフタ性口内炎、咽頭炎、頸部リンパ節炎を伴います。
特異的なマーカーはなく、
の5項目からなるThomasの診断基準により診断します。
本症は遺伝性はないとされています。正式な調査は行われていませんが、日本では概算で1/10,000人はいると考えられています。
成人発症はまれと言われてきましたが、最近では成人で発症する例や思春期を過ぎても自然寛解しない例も見つかっています。
家族性地中海熱の非典型的な遺伝子変異例では、発熱や漿膜炎症状(腹痛)を欠き、皮膚症状(丹毒様紅斑)のみ繰り返すことがあるため、注意が必要です。発熱を繰り返す疾患には、各種感染症、血管炎、血液疾患、膠原病などを鑑別しなくてはなりません。
それらの中で、注意すべき疾患について簡単に説明します。
周期性好中球減少症は常染色体優性遺伝性疾患で、ほぼ全例で好中球エラスターゼ(ELANE)遺伝子に変異を認めます。14~35日周期(多くは21日周期)で好中球が減少し、その際に発熱、咽頭炎、歯肉炎、口内炎などの細菌感染症が発症し、PFAPA症候群に類似します。感染症の重症度は好中球減少の程度と相関します。1歳前後で発症し、年齢とともにその重症度は改善し、ほぼ30歳で消失します。
回帰熱は珍しい病気です。周期的発熱症候群とは罹患期間が短いことなどで異なりますが、当院で回帰熱疑い例を経験したことから、鑑別に挙げました。
回帰熱とは、ダニあるいはシラミによって媒介される細菌の一種であるスピロヘータ、ボレリア(Borrelia)による感染症です。アフリカ、中央アジア、中南米、北米西部、地中海で発生しています。なお、国内でも北海道でマダニが媒介する回帰熱の発生が確認されています。
潜伏期間は2~21日程度です。発熱期、無熱期を数回繰り返すのが特徴です。悪寒・頭痛・筋肉痛・関節痛を伴う発熱期が3~7日続いた後、無熱期に移行します。無熱期が5~7日続いた後、再び発熱期に移行します。
間欠性関節水腫は、数日~1週間の関節腫脹を周期的に繰り返す稀なリウマチ疾患です。女性に多く、周期は症例によって様々で、主な罹患関節は膝ですが、複数の関節が侵されることがあります。通常、関節破壊は来さず、関節液中の白血球数も2500/㎕を超えることはありません。
排卵や月経という生理的ストレスによって周期的に誘発される症例もあり、家族性地中海熱遺伝子の変異やコルヒチンの有効性など、家族性地中海熱との関連性が指摘されています。