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末梢性ニューロパチー

一般診療所で多くみられる感覚障害や運動障害の原因は、頸椎症や腰椎症による神経根症、絞扼性神経障害、脳血管障害などによるものです。
末梢性ニューロパチーとしては、糖尿病性ニューロパチーが一番多くみられます。

本章の「神経疾患の診断の流れ」の中で、神経・筋疾患を神経症状別に、1筋および神経筋接合部疾患、2末梢性ニューロパチー、3脊髄・脳幹、4小脳、5視床・大脳基底核、6大脳 に分けて考えると、理解しやすいことを説明しました。
これらの中で、2末梢性ニューロパチーは、最もコモンな神経症状の一つです。

末梢性ニューロパチーは、次のように分類することができます。

  1. 血管炎に伴うニューロパチー
  2. 免疫性ニューロパチー
  3. 代謝性・栄養性・薬剤性ニューロパチー
  4. 糖尿病性ニューロパチー
  5. 遺伝性ニューロパチー
  6. 家族性アミロイドポリニューロパチー
  7. 傍腫瘍性ニューロパチー
  8. 膠原病性ニューロパチー など

これらの中で知識としてぜひ覚えておきたいのは、1~3のニューロパチーです。
まず、1と2を発症様式と症状により、表にまとめてみました。

1および2 血管炎によるニューロパチーおよび免疫性ニューロパチー

以下では次のように略語を使用します。

GBS:ギラン・バレ症候群(Guillain-Barré Syndrome)
CIPD:慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy)
MMN:多巣性運動ニューロパチー(Multifocal Motor Neuropathy)

血管炎および免疫性ニューロパチー
いつから? 急性 亜急性 慢性
  ●血管炎 ●GBS ●CIDP ●MMM ●IgMパラプロテイン血症を
伴うニュロパチー
対称性
部位 四肢遠位部 四肢 四肢 上肢遠位部 四肢遠位部
症状 感覚障害>運動障害
  • 非対称が特徴
  • 多発性単神経炎
  • 強い痛みを
    伴うことも
筋力低下が中心
  • 手袋靴下型の
    感覚障害
  • 運動失調
  • 自律神経障害
     など多彩
筋力低下が中心
  • 手袋靴下型の
    感覚障害
筋力低下と筋萎縮
  • 感覚障害はない
  • 非対称性
  • 頸椎疾患と
    ALSとの鑑別
感覚障害が強く、筋力低下は軽度
深部感覚障害による運動失調
  • CIDPとの鑑別が重要
その他 基本的に全身疾患 先行感染の存在 脱髄疾患 抗GMI抗体 血清免疫電気泳動でIgMのM蛋白

このように表にすると、これらの疾患にははっきりとした特徴があることが分かります。

発症様式では、急性発症が血管炎によるニューロパチーとGBSです。血管炎によるニューロパチーでは、症状は左右対称に起こることはなく、最初に右の下垂足が起こり、次の日には左手の下垂手、というような進行形態をとるのが典型例です。
GBSでは、症状は4週以内にピークになり以降は軽快していきます。CIDPでは、2ヶ月以上にわたり筋力低下が、進行または再発を繰り返します。

症状にも特徴がみられます。血管炎によるニューロパチーでは感覚障害>運動障害であり、多発性単神経炎が非対称性に起こることが特徴です。
GBSは左右対称に起こる筋力低下が中心ですが、手袋靴下型の感覚障害や深部感覚障害による運動失調や自律神経障害も伴います。
CIDPは筋力低下が左右対称性に起こり、GBSとの鑑別が大切です。GBSでは右肩上がりに短期間のうちに症状が悪化するのに対して、CIPDでは2ヶ月以上と経過が長く、症状にも変化がみられます。
MMNは左右非対称に筋力低下と筋萎縮が起こり、感覚障害は伴いません。
IgMパラプロテイン血症を伴うニューロパチーでは左右対称性に感覚障害>筋力低下が起こり、ほぼ100%に深部感覚障害による運動失調がみられます。

3 代謝性・栄養性・薬剤性ニューロパチー

代謝性・栄養性・薬剤性ニューロパチー
いつから? 急性 慢性
  ●ビタミンB1欠乏性
ニューロパチー(脚気)
●葉酸欠乏性
ニューロパチー
●アルコール性
ニューロパチー
対称性
部位 下肢優位 下肢優位 下肢優位
症状 運動障害>感覚障害
  • 初発症状は下肢遠位部の
    しびれ感や下肢脱力感
  • 急性発症が多いが、
    緩徐進行など多彩
  • 感覚障害は表在感覚も深部
    感覚も同程度に障害される
感覚障害>運動障害
  • 初発症状は下肢遠位部の
    しびれ感および感覚性運動失調
    によるふらつき
  • 経過は月から年単位の
    緩徐進行性であることが多い
分布はビタミンB1欠乏と同様
だが、次の点で異なる
  • 初発症状が下肢の痛み
  • 月から年単位の
    緩徐進行を示す
  • 深部感覚よりも表在感覚
    の障害が目立つ
その他
  • Werniche脳症
  • Beriberi heart
  • 巨赤芽球性貧血
  • 神経管閉鎖不全に伴う二分脊椎
  • 亜急性連合性脊髄変性症
 

ビタミンB1欠乏性ニューロパチー

偏食、アルコール依存、胃切除、暑い季節の屋外重労働などによる消費量の増加などが原因で起こります。運動障害>感覚障害が多く、中には急速に筋力低下が進行し、当初GBSと誤診された例も報告されています。
ビタミンB1欠乏による他の症状、Werniche脳症、心不全(脚気心:beriberi heart)ならびに筋痛などの合併はまちまちで、ニューロパチーによる症状のみが目立つことが多いです。

葉酸欠乏性ニューロパチー

葉酸は新鮮な緑黄色野菜、柑橘類、豆類、レバーなどに多いですが、熱に弱く調理の際に失われやすい特徴があります。
葉酸欠乏は免疫系、造血系、心血管系、皮膚、神経系などさまざまな障害、とくに巨赤芽球性貧血、神経管閉鎖不全に伴う二分脊椎、亜急性連合性脊髄変性症が有名です。
我が国でも葉酸欠乏患者が増加し、今日ではニューロパチーの鑑別診断の中でも重要な位置を占めるに至っています。

ニューロパチーでは通常、深部腱反射は低下しますが、葉酸欠乏では脊髄症を合併してとくに上肢の深部腱反射が亢進することも多いです。
血清葉酸測定の特異度は高くなく、葉酸欠乏による代謝障害によりホモシステインが増加します。ホモシステイン上昇はビタミンB12 欠乏でも起こります。
葉酸欠乏を疑うときは、ホモシステイン、ビタミンB12も同時に測定します。巨赤芽球性貧血がないことで葉酸欠乏を否定しないように注意します。

アルコール性ニューロパチー

下肢優位の多発ニューロパチー型の障害分布はビタミンB1欠乏と同様ですが、次の点で異なっています。初発症状が下肢の痛みであり、月から年単位の緩徐進行を示した点、深部感覚よりも表在感覚の障害が目立つ点 の2点です。

尿毒症性ニューロパチー

化学療法によるニューロパチー

 

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