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-- 臨床研修医のために --

筋疾患

筋疾患を疑う臨床症状と検査所見は次のように要約できます。
(これらは私見であることをお断りします。)

臨床症状 四肢筋力低下と筋萎縮・易疲労性で、感覚障害は伴わない
嚥下障害・眼瞼下垂・外眼筋麻痺のこともある
検査所見 血液検査ではCK、LDHなどが高値
筋生検・筋電図で特徴的な所見

代表的な筋疾患は次の通りです。

筋疾患
疾患名 ❶頻度 ❷障害部位・特徴 ❸症状・経過
重症筋無力症 表1へ 表2へ 表3へ
多発性筋炎/皮膚筋炎
筋ジストロフィー

ジストロフィン異常症
 ・デュシェンヌ型
 ・ベッカー型
肢体型
顔面肩甲上腕型
筋強直型
先天性(福山型)
エメリー・ドレフュス型
眼咽頭筋型
Lambert-Eaton(筋無力)症候群
封入体筋炎
ミトコンドリア病
その他の自己免疫性筋炎
高Ca血症

次に、代表的な筋疾患を ❶頻度、❷障害部位・特徴、❸症状・経過 の3つに分けてまとめました。神経・筋疾患にはたいへん稀な疾患も含まれるため、それぞれの疾患の頻度を知ることは診断に有用です。

❶頻度

それぞれの筋疾患と頻度は次の通りです。

表1 代表的な筋疾患の頻度
疾患名 ❶頻度
重症筋無力症
  • 人口10万人あたり11.8人(患者数は15,100人)
  • 男女比は1:1.7で女性に多いのが特徴
  • 5歳未満に一つのピーク
  • 女性では30歳台から50歳台にかけてなだらかなピーク
  • 男性では50歳台から60歳台に発症のピーク
多発性筋炎/皮膚筋炎
  • 10万人当たり2~5人
  • 男女比は1:3と女性に多い
筋ジストロフィー 人口10万人当たり17-20人程度

ジストロフィン異常症 4~5人
・デュシェンヌ型  
・ベッカー型  
肢体型 1.5~2.0人
顔面肩甲上腕型 2人
筋強直型 9~10人
先天性(福山型) 0.4~0.8人
エメリー・ドレフュス型 0.1人未満
眼咽頭筋型 0.1人未満
Lambert-Eaton(筋無力)症候群
  • 100万人に2~3人(海外)
  • 肺小細胞癌など悪性腫瘍の合併
  • 平均62歳
封入体筋炎
  • 約1000人から1500人
  • 人口10万人あたり1.0人(欧米に匹敵)
ミトコンドリア病 10万人に約1人(あらゆる年齢)
その他の自己免疫性筋炎  
高Ca血症  

❷障害部位・特徴

次に、それぞれの筋疾患の障害部位と特徴についてまとめました。

表2 代表的な筋疾患の障害部位・特徴
疾患名 ❷障害部位・特徴
重症筋無力症
  • 神経筋接合部で筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患
  • 患者の約75%に抗アセチルコリン受容体抗体を持つ
  • 胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併
多発性筋炎/皮膚筋炎
  • 横紋筋を広範に障害する炎症性筋疾患
  • 多発性筋炎では2倍、皮膚筋炎では3倍悪性腫瘍を伴う
  • 間質性肺炎、心筋障害、悪性腫瘍の合併が予後左右
筋ジストロフィー
  • 骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称
  • 筋肉の機能に不可欠なタンパク質遺伝子に変異が生じたためにおきる病気
  • 骨格筋の変性・壊死の結果、筋萎縮や脂肪・線維化が生じ筋力が低下し運動機能など各機能障害
  • 血液検査ではCK、AST、ALT、LDH、アルドラーゼなどが高値、筋電図では特徴的な波形

ジストロフィン異常症  
・デュシェンヌ型 5歳以下 男(X染色体連鎖) 躯幹近位筋(大腿、上腕、躯幹筋)
  • 20歳前後で呼吸不全により人工呼吸
・ベッカー型 5~25歳 男(X染色体連鎖) 躯幹近位筋(大腿、上腕、躯幹筋)
  • デュシェンヌ型に臨床症状は似るが、15-6歳をすぎても歩行可能な軽症例につけられた臨床診断名
  • 血清CK値が高く、遺伝子検査や筋生検で異常が偶然に見つかるケースもある
  • 肢帯型筋ジストロフィーからも本症が見いだされ、頻度はかなり高いとされる
  • 心肥大、心不全を来たすことがあるので、心臓の定期的チェック
肢体型 5~25歳(30歳以下) 両性(常染色体優性/劣性) 躯幹近位筋(大腿、上腕、躯幹筋)
  • 今まで知られているどのタイプの筋ジストロフィーとも診断できない時に肢体型と診断する
  • 筋力低下のような臨床症状はなく、検査上CK値が高いだけという人もいる
  • デュシェンヌ型より軽く進行も遅い、心合併症はない、下腿仮性肥大は軽度
顔面肩甲上腕型 幼児期~壮年期 両性(常染色体優性) 顔面肩甲上腕
  • 顔面筋罹患(表情が少なくなる)、上肢挙上困難、翼状肩甲
筋強直型 30歳頃 両性(常染色体優性) 手など末梢筋
  • 筋強直現象(ミオトニー)と筋萎縮
  • しゃべり出しで舌がうまく動かない、つまずきやすい、ふたが開けにくい
先天性(福山型) 生下時 両性(常染色体優性/劣性) 体幹 知能低下
エメリー・ドレフュス型 通常は小児期発症 両性(X染色体連鎖、常染色体優性/劣性)
  • 筋力低下は軽度であるのに、早期から肘、手、足関節に拘縮がみられるのが特徴的
  • 頚部、脊柱の前屈も制限され強直性脊椎症候群との鑑別が困難
  • 心伝導障害や完全房室ブロックによる突然死(PMで予後改善)
眼咽頭筋型 ほとんどは50歳過ぎから 両性(常染色体優性)
  • 眼瞼下垂が始まり、遅れて咽頭筋麻痺による物が飲み込みにくい、言葉がはっきりしない
  • 顔の筋肉、舌の萎縮、四肢部の筋力低下
  • 天寿を全うできる
Lambert-Eaton(筋無力)症候群 P/Q型電位依存性Caチャネル自己抗体(抗P/Q型VGCC抗体)
封入体筋炎
  • 病理学的には炎症と変性という二つの病態
  • 骨格筋には縁取り空胞と呼ばれる特徴的な封入体
  • ステロイドの治療に反応しないことが多い
ミトコンドリア病 ミトコンドリア病では臓器が正常な機能を果たすのに充分なエネルギー産生が出できなくなる結果、全身各種臓器が機能低下を起こす可能性があり、ミトコンドリア病の症状は全身多岐に渡る
その他の自己免疫性筋炎 原発性胆汁性胆管炎(PBC)に合併した抗AMA陽性筋炎
高Ca血症 副腎皮質機能不全、骨髄腫、悪性腫瘍骨転移、ビタミンD中毒、副甲状腺(PTH)機能亢進症、ミルク・アルカリ症候群、サルコイドーシス、長期臥床 など

❸症状・経過

最後に、それぞれの筋疾患の症状と経過についてまとめました。

表3 代表的な筋疾患の症状・経過
疾患名 ❸症状・経過
重症筋無力症
  • 予後は比較的良好
  • 筋力低下と易疲労性がこの疾患の症状
  • 特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状がおこりやすいことが特徴
  • 発語や嚥下障害などの症状が目立つ患者、四肢筋力低下が強い患者もいる(歯磨き、整髪時)
  • 体を動かすと諸々の症状が強くなり、しばらく休むと回復する特徴
  • 午後になると疲れやすいなど日内変動
  • SLEなど他の自己免疫疾患を併発
多発性筋炎/皮膚筋炎
  • 発熱、倦怠感、体重減少などの炎症による全身症状
  • 筋肉痛、四肢近位の左右対称の筋力低下
  • 臥位から立ち上がりにくい(登はん性起立、ガワーズ徴候)
  • 上肢が挙がりにくい
  • 頚部筋の筋力低下により、枕から頭を上げにくくなる
  • 嚥下障害、誤嚥性肺炎の発生
  • 紅色皮疹・角化性紅斑(ゴットロン徴候)、手指関節背側の角化のつよい丘疹(ゴットロン丘疹)
  • 上眼瞼の浮腫性紅斑(ヘリオトロープ疹)、胸や肩に広がる紅班(ショール徴候)
筋ジストロフィー
  • 走れない、転びやすい、階段の昇降困難
  • 躯幹近位筋(大腿、上腕、躯幹筋)の萎縮
  • 下腿の仮性肥大
  • 登はん性起立(ガワーズ徴候)と翼状肩甲
Lambert-Eaton(筋無力)症候群
  • 下肢筋力低下で発症、歩行開始時に筋力低下し歩いているうちに改善(促通現象)
  • 自律神経症状や小脳症状の合併
封入体筋炎 主に50歳以上で発症する慢性の経過を取る筋疾患の一つ
進行性で5~10年で車椅子生活
  • 大腿部や手指の筋肉が萎縮し、筋力が低下
  • 階段が登りにくい、指先で物がつまみにくいと言ったような症状で発症
  • 嚥下障害・誤嚥性肺炎や転倒・骨折にも注意が必要
ミトコンドリア病 代表的なミトコンドリア病の病型は、主に特徴的な中枢神経症状を基準に診断しているが、実際はこれらを合併して持つ症例や中枢神経症状がない症例も多数存在している
  • 中枢神経:痙攣、ミオクローヌス、失調、脳卒中様症状、知能低下、片頭痛、精神症状、ジストニア、ミエロパチー
  • 骨格筋:筋力低下、易疲労性、高CK血症、ミオパチー
  • 心臓:伝導障害、WPW症候群、心筋症、肺高血圧症
その他の自己免疫性筋炎  
高Ca血症
  • 筋力低下、吐き気・食欲低下などの消化器症状、口渇・多飲・多尿、尿管結石
  • PTH測定、ただし原発性副甲状腺機能亢進症ではPTH正常例も多い

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