なかなか分かりにくいのが消化管アニサキス症とアニサキスアレルギーです。ここでは両者についてまとめてみました。
アニサキスアレルギーは中間宿主であるサバ、イカ、アジ、カツオなど魚介類摂取により、消化管粘膜に侵入したアニサキス虫体に対する食物アレルギーであり、我が国ではアナフィラキシーの原因として重要です。
消化管アニサキスには、虫体が胃に穿入する胃アニサキス症、腸に穿入する腸アニサキス症があります。胃アニサキス症では、魚介類摂取後1~8時間程度で心窩部痛、悪心・嘔吐が発現します。一方、腸アニサキス症では、腹部症状出現まで数日を要します。
消化管アニサキス症によるアナフィラキシーの出現は摂取後5分から7時間まで様々ですが、4日後に遅発性アナフィラキシーが出現したとの報告もあります。
虫体は中間宿主死亡後に内臓から筋肉に移行するため、内臓未摘出で保存された魚介類の筋肉の生食がリスクとなります。
食物アレルギーでは食後2時間以内に発現する即時型アレルギーが一般的ですが、消化管アニサキス症は非即時型と考えられており、胃アニサキス症では摂取から4~8時間、腸アニサキス症は4~72時間後に腹痛や悪心などのアナフィラキシー症状を起こします。
また、蕁麻疹のみのケースもあることに留意します。
アニサキスが引き起こす疾患は、 アニサキス症とアニサキスアレルギーの2つがあることに注意が必要です。
アニサキス症は、虫体からの分泌物が原因となり、非即時型とされています。
アニサキスの分泌物が消化管粘膜内に侵入するのに時間を要するため、臨床症状が遅れて表れると考えられています。胃だと4~8時間、腸だと4時間から長いと72時間かかるという報告もあります。
アニサキス症は、「虫体が刺さっているから痛い」のではなく、虫体からの分泌物に対するアレルギー反応による炎症で痛みが生じます。
一方、アニサキスアレルギーは、虫体そのものが抗原となって起こるので即時型です。しかし、理由は不明ですが、発症までに24時間ほどかかるケースもあるとされています。
初感染時は軽症ですが、再感染時には急激な抗体産生により激しい症状を起こします。
アニサキス症は、アニサキスが寄生している海産物の摂取歴があり、上部消化管内視鏡で虫体を確認できれば確定診断できます。他に、CT検査で腸管壁の肥厚を確認することもあります。
また、アニサキスアレルギーでは、アニサキス特異的IgE抗体価を調べます。ただし、魚の生食機会が多い地域では、30%程度の抗体保有率があるとされており、アニサキス特異的IgE抗体高値のみでアニサキスアレルギーと診断することはできないことに注意する必要があります。
胃アニサキス症の治療は内視鏡下での虫体除去です。アナフィラキシーショックの治療はアドレナリン筋注になります。食中毒に関しては、疑わしい場合は24時間以内に最寄りの保健所へ届け出ることが食品衛生法で定められています。
アニサキス症の予防についてですが、冷凍・加熱処理すればアニサキスが死滅するので、アニサキス症は防ぐことができます。
一方、酢でしめることは予防として無効です。その他、塩漬け、しょうゆやワサビでもアニサキスは死滅しません。しっかりと咀嚼すればいいのではないかという意見もたまに聞きますが、よくかむぐらいでは予防できないと言われています。
アニサキスアレルギーは虫体が抗原となるので、アニサキスの生死は関係なく、アニサキスが寄生している魚を食べることで発症します。
成人のアナフィラキシーの原因アレルゲンとしては、食物が最も多く、次いで薬物、そして3番目に多いのがアニサキスと言われています。(図1)
初感染時は軽症ですが、再感染時には急激な抗体産生により激しい症状を呈します。虫体は中間宿主死亡後に内臓から筋肉に移行するため、内臓未摘出で保存された魚介類の筋肉の生食がリスクになります。
食物アレルギーでは食後2時間以内に発現する即時型が一般ですが、胃アニサキス症では摂取から4~8時間、腸アニサキス症は4~72時間後に腹痛や悪心などのアナフィラキシー症状を呈します。
また、蕁麻疹だけのケースもあることに注意します。原因不明の蕁麻疹やアナフィラキシーショックではアニサキス症も鑑別します。
アニサキスの「当たりやすさ」は、太平洋側と日本海側で異なるとされています。
アニサキスは、もともと魚の内臓にいます。魚が死んでしまうと筋肉の中に潜り込み、その筋肉を我々が食べて感染するわけですが、太平洋側と日本海側では生息するアニサキスの種類が異なり、筋肉への移行率が変わることが知られています。
太平洋側に多く生息するアニサキスは移行率が11%と高い一方、日本海側に多い種類は0.1%程度しか移行しないそうです。
鑑別に挙がるのはヒスタミン中毒ですが、ヒスタミンは熱で分解されません。加熱処理しても、ヒスタミン中毒を起こす可能性があります。ヒスタミン中毒は、「鮮度の落ちた魚は食べない」くらいしか予防法がありません。
ラーメン、特につけ麺の魚粉のたれで激しい下痢をきたすことがあります。
魚類は、成人が新規に食物アレルギーを発症する原因食物の第2位です。これまで症状がなくても発症する可能性はあります。
魚類を食べてアレルギー症状を起こした場合、原因としてアレルギー様食中毒、アニサキスアレルギー、魚類アレルギーの3つを考える必要があります。
魚粉は骨や内臓がついたままの小魚を丸ごと原料として使うので、内臓由来のビタミン類やミネラル類が豊富ですが、特にイワシやサバなど原料の小魚の鮮度によっては、魚粉中にヒスタミンを多く含むこともあります。そのヒスタミンによってアレルギー様症状が出現する可能性があります。
アニサキス症と異なり、魚の凍結や加熱調理でもアレルギー症状を防止できないことが報告されており、魚粉も原因食品となる可能性があります。検査としては、アニサキス特異的IgE抗体の測定が参考になります。
主要アレルゲンであるパルブアルブミンは各種魚類で抗原交差性を有するため、1種類の魚で症状が出現した場合、他の魚種でも症状を示す可能性は高くなります。魚粉で症状があったとのことですが、他の魚での症状の有無を確認します。
魚粉は、主にイワシやサンマ、アジなどを蒸煮、圧縮した後に、乾燥・粉砕して作成するようです。パルブアルブミンは加熱に対しては非常に安定な蛋白質ですが、水溶性であり、加工の過程でパルブアルブミンの一部は除去される可能性が高いと推察されます。
したがって、加工前の魚で症状の出現がなく、魚粉のみで症状があるなら、魚類アレルギーである可能性は低いと考えられます。
検査としては、アジ、イワシなどは一般的なアレルギー検査項目(特異的IgE抗体)に含まれています。また、パルブアルブミン特異的IgE抗体も保険外では測定可能です。
摂取した魚粉に含まれる魚が検査項目にない場合には、魚粉そのものでプリックテストを施行するのも参考になります(日本医事新報:2018.No.4890. P.63)。
魚介アレルギーは複数の魚類、甲殻類、軟体動物の摂取で、繰り返しアレルギー症状を呈する病態です。本症との鑑別が必要な疾患にアニサキスアレルギー、ヒスタミン中毒があります。
魚介アレルギーの主要抗原は筋形質蛋白であるパルブアルブミンです。耐熱性・水溶性ですべての魚に含まれていますが、魚種間で含有量に差があり、マグロやカツオなどの赤身の魚では含有量が低い特徴があります。
甲殻類、軟体動物の主要抗原はトロポミオシンであり、アミノ酸相同性はエビ-カニ間で85~95%、甲殻類と軟体動物では60%程度と言われています。
パルブアルブミンは水溶性であり、高温加熱処理で抗原性が低下するため、板付きかまぼこや缶詰などの加工品は摂取できる可能性があります。トロポミオシンが抗原である甲殻類にアレルギーを有していてかつ軟体動物の特異的IgEが上昇していても、実際には接種できることが多く摂取制限は慎重に判断します。
アニサキスアレルギーはアニサキスが寄生した魚を摂取した場合に即時型反応を示します。抗原は現在16種類同定されていますが、一部は耐熱性で加熱や加工品でも発症することがあります。
ヒスタミン中毒はヒスチジン脱炭酸酵素によって魚肉中のヒスチジンがヒスタミンに分解され、ヒスタミンが多く蓄積した魚を摂取することで発症します。免疫学的な機序を介さないため食中毒の一種です。