胸部CTが普及していなかった私の学生時代、大学には胸部レントゲン写真の一枚から肺癌を診断する放射線科の高名な教授がおられました。胸部CTが当たり前のように普及した昨今では、胸部レントゲンよりもまずCTという研修医が多くなったと聞いています。
胸部レントゲン写真から得られる情報は限られていますが、レントゲン写真と鑑別診断をまとめてみました。
この図では、レントゲン写真を、
❶腫瘤・斑状影、
❷浸潤影、
❸すりガラス状陰影GGO(ground glass opacity)
の3種類に分けました。
これら❶❷および❸のいずれの所見がみられのが、真ん中の悪性リンパ腫とサルコイドーシスです。サルコイドーシスは両側肺門部リンパ節腫大(BHL)も重要な所見です。
❶と❷の両方の所見がみられるのは、肺癌・閉塞性肺炎、GPA・EGPA、肺梗塞、肺結核・NTMなどです。
❶と❸の両方の所見がみられるのは、IgG関連疾患(炎症性偽腫瘍を含む)や関節リウマチなどです。
❷と❸の両方の所見がみられるのは、膠原病関連疾患や粟粒結核、急性呼吸窮迫症候群ARDSなどです。
肺疾患により病変が出現しやすい好発部位があります。
これらの特徴を捉えると診断に役立ちます。
疾患 | 好発部位 |
---|---|
肺炎 | 区域性の広がり |
非定型抗酸菌症 | 上肺野から中葉 |
慢性好酸球性肺炎 | 上肺野優位・胸膜直下 |
過敏性肺炎 | 上肺野優位または両下肺野優位 |
肺ランゲルハンス組織球症 | 上肺野優位 |
サルコイドーシス | 上肺野優位 |
急性好酸球性肺炎 | 両側びまん性 |
特発性間質性肺炎 | 両下肺野 |
特発性器質化肺炎 | 両下肺野 |
肺クリプトコッカス症 | 下肺野末梢 |
多発血管炎性肉芽腫症GPA | 胸膜直下優位 |
肺梗塞 | 胸膜に接する台形状 |
敗血症性肺塞栓症 | 両側性で胸膜直下優位 |
ニューモシスチス肺炎 | 胸膜直下にスペアされない(侵されていない)領域 |
心原性肺水腫、非心原性肺水腫(薬剤性肺炎など)、肺出血、肺胞蛋白症(PAP) などを鑑別します。
日常診療で遭遇する機会の多い抗生剤に不応性の肺炎様陰影は、特発性器質化肺炎、薬剤性肺障害、膠原病肺、肺梗塞、悪性腫瘍(閉塞性肺炎)などを鑑別します。
健康診断で偶然発見される無症状の肺疾患としては、サルコイドーシス、肺クリプトコッカス症、肺ランゲルハンス組織球症、リポイド肺炎、神経鞘腫などがあります。
これらの中で、サルコイドーシスと肺クリプトコッカス症が比較的多くみられ重要です。
カーリーB線は肺野外側壁から内方に走行する水平で太さ1㎜以下、長さ2㎝の線状陰影、カーリーC線は右下肺野に見られる網状陰影。カーリー線を認めた場合、間質性肺水腫、急性好酸球性肺炎、癌性リンパ管症が鑑別に挙がります。
癌性リンパ管症との鑑別疾患は、サルコイドーシス、リンパ増殖性肺疾患(悪性リンパ腫他)が挙げられます。
KL-6は間質性肺炎や肺線維症のマーカーですが、5000以上の高値の場合は慢性過敏性肺炎、肺胞蛋白症、肺癌をまず鑑別します。
RA患者で長引く咳をみたらRAの気道病変やNTMを考えます。RA患者には気管支拡張症や細気管支炎が高頻度に合併しやすいです。RAに伴う間質性肺炎としては肺底部優位の蜂窩肺があります。
潰瘍性大腸炎は特有の気道病変を合併することが知られています。難治性の咳や痰では、潰瘍性大腸炎特有の気道病変も念頭に置きます。
上気道から気管、下気道にまで広く炎症を生じ、下気道では気管支拡張症および細気管支炎の形を取ります。
患者は難治性咳や痰に苦しみますが、細菌の関与は確認されずマクロライドなど抗菌剤は無効で、ステロイドが有効です。
気管支喘息患者で肺門から分枝状に広がるこん棒状陰影を認めたら、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症ABPAを考えます。
ABPAの特徴的な画像所見は、中枢性気管支拡張とmucoid impactionによる気管支閉塞変化です。Mucoid impactionを認めた場合は、結核などの感染症の除外が必要です。
アスペルギルスが原因でない場合は、スエヒロタケなど他の真菌が関与するアレルギー性気管支肺真菌症を検討します。
高度腎障害があり両側肺浸潤影では尿毒症肺、ANCA関連血管炎を疑います。
ANCA関連血管炎をはじめとする肺腎症候群、レジオネラ肺炎などの腎障害を伴う呼吸器感染症、うっ血性心不全、薬剤性肺障害、腎障害などが鑑別に上がります。
肺の多発性結節影を鑑別する場合は、輸入(真菌)感染症の可能性も考慮します。米国で感染する輸入真菌感染症には、ヒストプラズマ、コクシオイデス、プラストミセスなどがあります。
渡航先が米国中西部オハイオ渓谷周辺(ヒストプラズマ流行地域)であれば、肺ヒストプラズマ症も考えます。
胸部X線では両側の中下肺野に優位な大小不同の多発性結節陰影が特徴です。
悪性リンパ腫の胸部X線 像についての報告は多いですが、RobbinsはX線像を、1型孤立腫瘍型,、II型 結節型、 III型肺炎または浸潤型、 IV型顆粒状またはリンパ管炎型の4型 に分類しています。あらゆる画像所見を示す可能性があります。
末梢血で好酸球増多では、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EGPAと慢性好酸球性肺炎を考えます。急性好酸球性肺炎(若年男性、喫煙開始後まもなくの発熱)では好酸球増多はほとんどみられません。