神経・筋疾患はきら星のごとく病名が存在する上に、それら病名がとっつきにくいためか、敬遠されがちな領域です。
実臨床で診る機会が多いのは、認知症を除くと絞扼性神経障害など末梢性ニューロパティや脊髄神経根症、さらに脳血管障害やパーキンソン病、感染性脳疾患（脳・脊髄膜炎など）などでしょう。多くはありませんが、筋萎縮性側索硬化症に出会うこともあります。

神経・筋疾患の最終診断にたどり着くのは容易ではなく、専門医に任せる必要があります。
診療所の外来では一人の患者にさくことができる時間はせいぜい数分です。短い時間で要領よく神経所見を取ることにより、障害部位をおおまかに（直感的に）推測する必要に迫られます。
ここではその概要を述べることにします。

神経・筋疾患の診断の第一歩：おおまかに（直感的に）障害部位を推測

ベッドサイドの神経の診かたに従って丁寧に神経所見を取ろうとすると、かなり時間がかかります。一般の内科診察では、直感的に神経症状を次に分けて考えると、比較的短い時間で診察を終えることができます。
初めに神経所見を次のように分けて、どれに該当するか考えます。神経所見の取り方についてはここでは割愛しますが、専門書を参考に勉強しましょう。

次に得られた神経所見から障害部位を類推します。解剖学的な場所により、自覚症状および神経所見には特徴がみられます。
神経の障害部位を次のように分けて考えます。

神経所見と障害部位の関係をまとめたものが次の表です。
あくまでも私見であることをご了解ください。

神経所見から障害部位が推定できると、次は疾患名を考えます。障害部位から推測できる疾患は次の通りです。
これは診断のための便宜上の考え方であり、私見であることをご了解ください。

障害部位から推測できる疾患

※疾患名の赤字は比較的コモンな疾患

❶筋疾患

KEY WORD：	❶四肢筋力低下と筋萎縮、眼瞼下垂、嚥下障害 感覚障害はない 局所症状強いときは絞扼性障害を疑う
疾患名：	重症筋無力症　 多発性筋炎/皮膚筋炎　 電解質異常（高Ca、低Kなど）　 筋ジストロフィー　 Lambert-Eaton症候群　 封入体筋炎　 ミトコンドリア病　など

❷末梢性ニューロパチー　・末梢神経・神経根

KEY WORD：	❷感覚障害と運動障害の局在がはっきりしている
疾患名：	血管炎に伴うニューロパチー 免疫性ニューロパチー 代謝性・栄養性・薬剤性ニューロパチー 糖尿病性末梢神経障害 傍腫瘍性ニューロパチー 遺伝性ニューロパチー 家族性アミロイドポリニューロパチー　など

❸脊髄　❹脳幹（末梢神経を含む）

KEY WORD：	❸症状が多彩で局所症状がはっきりしない 錐体路障害　 知覚障害の解離　 脳神経症状　 脳幹症状
疾患名：	多発性硬化症／視神経脊髄炎  筋萎縮性側索硬化症 亜急性連合性脊髄変性症（ビタミンB12・葉酸欠乏） 原発性側索硬化症 脊髄性筋萎縮症 球脊髄性筋萎縮症 ＨＴＬＶ－１関連脊髄症 シャルコー・マリー・トゥース病 クロウ・深瀬症候群　など

❺小脳

KEY WORD：	❹失調症
疾患名：	脊髄小脳変性症 多系統萎縮症　など

❻大脳辺縁系　・視床・大脳基底核

KEY WORD：	❺パーキンソニズムと不随意運動
疾患名：	パーキンソン病 進行性核上性麻痺 大脳皮質基底核変性症 特発性基底核石灰化症 ハンチントン病 神経有棘赤血球症　など

・帯状回・海馬など　❼大脳皮質・大脳白質

KEY WORD：	❻高次脳機能障害（認知症　他） ❸～❻の多彩な症状の組み合わせ 意識障害　など
疾患名：	クロイツフェルト・ヤコブ病 特発性正常圧水頭症 急性散在性脳脊髄炎 進行性多巣性白質脳症 亜急性硬化性全脳炎 抗がん剤による白質脳症 ヘルペス脳炎 側頭葉てんかん、非痙攣性てんかん重積状態　など

ー　ー　ー

❶～❼ の表をまとめたものが下表です。

総合内科のアプローチ：一覧へ