日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

意識障害の診断の流れ

意識障害は正常とは異なる意識状態が続くことを言います。原因にはヘルペス脳炎など重要な脳神経疾患が含まれますが、ここでは脳の器質的疾患は除き可逆的な意識障害について考えます。
失神は脳血流障害により引き起こされる一過性の意識消失で、数分以内(多くは1分以内)に回復します。意識の回復が遷延する場合は意識障害と診断します。

意識障害とショック

意識障害の患者を見たら、まずショック、低酸素、低血糖を除外することが大切です。次に、瞳孔や上下肢筋力低下のチェックなど簡単にできる診察を行い、バイタルが安定していれば頭部CTで頭蓋内出血を除外します。

ついで服薬歴、飲酒歴、食事の摂取状況、経済状態などの情報収集に努めます。同時にバイタルサインに注意します。一般に、脈拍数(心拍数)が収縮期血圧を上回る時にはショック状態を考えます。しかし、中には「徐脈+ショック」の病態もあります。これはSHOCK と覚えます。

SはSpinal、 神経原性ショックです。 Hは Hypothyroidで、 甲状腺機能低下。 Oはオズボーン波 (J 波) で、 低体温症で認められるのが有名です。 Cは Cardiogenic、 心筋梗塞で下壁がやられると、 伝導系が障害されて徐脈になるからです。 Kは高カリウム血症。 高カリウム血症で徐脈になります。心電図ではまずテント上のT波増高があり、次いでP波が消失します。

意識障害に関係したPDASFROSとAIUEO TIPS

意識障害の病歴の取り方としては、PDASFROS (ぴーだすふろす)を考えて病歴を取ります。PDASFROSというのは、Past history (既往歴)、Drug (薬物治療歴)、Allergy (アレルギーの有無)、Social history (生活歴、社会歴)、Family history (家族歴)、ROSはReview Of  Systems (各臓器に関して系統的に症状を問診し、主訴から想起されにくい問題点や症状を明らかにしていくこと)で、問診で聞いていく順番を並べたものです。

意識障害では、AIUEO TIPS (アイウエオ・チップス)を考えて、鑑別診断を行います。
AIUEO TIPSは教科書によって書いている内容が若干違ったりしますが、
Alcohol/Ammonia、Insulin、Uremia、Encephalopathy/Electrolyte/Endocrinopathy、Oxygen、Trauma/Temperature、Infection、Psychiatric、Shock/Stroke/Seizure などと意識障害の原因検索を行います。

AIUEOTIPS
A Alcohol (アルコール中毒)、Acidosis (アシドーシス)
I Insulin (インスリン)
U Uremia (尿毒症)
E Endocrine (内分泌)
O Oxygen (低酸素症)、Opiate (麻薬)
T Trauma (外傷)、Temperature (体温異常)
I Infection (感染症)
P Psychiatric (精神科疾患)
S Syncope (失神)、Stroke (脳卒中)

失神/意識障害と内科疾患

内科診療所で診る機会の多い意識消失は、いわゆる失神発作です。
その原因としては、状況失神が最多ですが、検査の機会が多いのはAdams-Stokes症候群に対するホルター心電図記録であり、患者や家族の不安に対処するための脳CTやMRI検査と思われます。

失神や意識障害の鑑別診断にはすでに述べたAIUEO TIPSがありますが、より具体的に疾患にアプローチできるように発作の持続時間と反復性に注目して、次のような表に私案としてまとめてみました。
失神や意識障害の定義に合致しない疾患も含まれますが、むしろ症例検討の鑑別診断を意識しながらまとめました

失神/意識障害発作の持続時間と内科疾患
図2失神/意識障害発作の持続時間と内科疾患

心臓と血管が関与する失神

心臓および血管が関与する失神
図3心臓および血管が関与する失神

神経調節性失神(反射性失神)

神経調節性失神(反射性失神)には、❶血管迷走神経性失神、❷状況失神、❸頸動脈洞反射 が含まれます。

❶血管迷走神経性失神は長時間立ったままや座ったままの同じ姿勢で仕事をしたり、痛み刺激を受けたり、不眠や肉体的疲労が長く続いたり、精神的恐怖を体験することが誘因(情動失神)となって起こります。

❷状況失神は日常のある特定の動作(排尿、排便、飲み込み、咳き込みなど)の時に起こります。

❸頸動脈洞反射は理容店の洗髪などで首を強く後屈したとき、衣服の着替えや重たい荷物の上げ下げで極端に首を回したり伸ばしたり、またネクタイなどをきつく締めたりする などが誘因となって起こります。

Bezold-Jarisch (ベツォルト-ヤーリッシュ)反射

Bezold-Jarisch (ベツォルト-ヤーリッシュ)反射は、心室の化学受容器刺激により引き起こされる迷走神経を介した徐脈・低血圧反射を言います。
右室に関しては、右室梗塞、右室心筋症、肺塞栓などで起こり、左室に関しては拍出量が低下する病態、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などで起こります。下壁には豊富に迷走神経が分布しており、下壁梗塞でも本反射により徐脈、低血圧を来します。

日常臨床では一時的な失神発作をみた場合には、まず不整脈が原因のAdams-Stokes発作を考えますが、心臓由来の失神として、Bezold-Jarisch反射も可能性の一つとして考える必要があります。高齢化社会では大動脈弁狭窄症ASを有する高齢者が多くなります。
私見ではありますが、ASを有する高齢者ではBezold-Jarisch反射を介する失神発作も多くなるのではないかと常々感じています。

Subclavian steal症候群

Subclavian steal症候群は、動脈硬化や大動脈炎により鎖骨下動脈起始部に高度狭窄や閉塞が発生した場合に起こります。頭蓋内の椎骨・脳底動脈と鎖骨下動脈間に圧較差が生じて椎骨動脈の逆流が出現すると。めまいや失神などの症状を伴うことがあります。

側頭葉てんかん

高齢者のてんかんは思われている以上に多いとされ、見逃されていることが多いことが指摘されています。発作の間は記憶がないことがてんかん診断に重要です。次のような症状に注意します。

これって“てんかん”?高齢者てんかん 症状チェックシート(松本理器監修)より引用
図4これって“てんかん”?高齢者てんかん 症状チェックシート(松本理器監修)より引用

情動脱力発作を伴うナルコレプシー

ナルコレプシーの古典的4徴は、過度な昼間の眠気、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺(金縛り)で、このうち日中の眠気は必須項目です。情動脱力発作は、意識障害を伴わずに突然始まり2分以内に消失します。笑い(92%)、怒り(70%)、驚き(55%)などの情動が引き金になります。

一酸化炭素CO中毒

冬期室内でこたつ、練炭暖房、石油ストーブなどを密閉された空間で使用していると、CO中毒を起こす危険性が高まります。
パルスオキシメーターは酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの吸光度差の大きい660nmの波長光を利用しますが、この吸光度ではCOヘモグロビンは酸化ヘモグロビンと同じ吸光度を示すため、血液ガス分析を行うことが重要です。

激しい頭痛・判断力低下・吐き気・めまいなどで始まり、重症になると失神・錯乱・けいれんを起こし、昏睡から死に至ります。急性中毒症状から回復しても、遅れて現れる(ふつう発症後20日以内)意識障害、知能障害、パーキンソニズム、不随意運動など遅発性脳症に注意します。

発作的な精神症状は低血糖を鑑別に

血糖値が低いだけでは低血糖と診断することは望ましくなく、動悸や発汗などの交感神経刺激症状や脱力、意識レベル低下などの中枢神経症状といった低血糖症状が存在し、その時に血糖値70mg/dL未満の場合を低血糖とします。
このレベルまで低下するとグルカゴン、アドレナリンが分泌されます。一般には中枢神経症状が出現する前に、警告症状として交感神経刺激症状が先行します。

しかしインスリノーマやダンピング症候群など低血糖を繰り返しているケースでは、交感神経刺激症状を認めずに、いきなり中枢神経症状(異常行動、精神錯乱、眠気など)が出現することがあります(無自覚性低血糖)。

肺塞栓症

失神患者の中で肺塞栓症患者の占める割合は1% と報告されており、肺塞栓症は致死的な疾患であるため迅速な診断と治療が望まれます。また肺塞栓症患者が失神する頻度は14 ~27%と報告されています。

その機序として、広範型(massive)の肺塞栓症では、急性の右心不全と肺血流の灌流不全によって左室充満が障害され、心拍出量が低下し脳血流障害をきたすことによって失神すると考えられています。
一方、迷走神経刺激による徐脈と交感神経抑制による末梢血管拡張が原因の反射性失神(Bezold-Jarisch 反射)も機序となり得ることが指摘されています。

肺塞栓症患者で失神するのは高齢者に多いという報告があり、その理由として心肺機能の予備能力が乏しいことがあげられます。肺塞栓症に多くみられる自覚症状は呼吸困難と胸痛で、それぞれ約 70% と約 40% の頻度でみられます。
それらが認められれば肺塞栓症を疑うきっかけとなりますが、これらの訴えを認めない例も多くあります。それによって診断が遅れる可能性があり、失神を伴わない肺塞栓症例と比較すると心エコーや CTまでの時間が長くなる傾向が指摘されています。

低酸素血症の存在は肺塞栓症を疑うきっかけとなりますが、救急外来到着時にはすでに血栓が一部溶解したり末梢へ移動することによって SpO2 の低下を認めない例や救急搬送時に酸素投与が行われたため、酸素非投与下では本来認めるはずの低酸素血症に気づきにくい例もあり、注意が必要です。

非痙攣性てんかん重積状態 nonconvulsive status epilepticus(NCSE)

NCSEは、痙攣は認めないものの、脳波上の発作は持続的、あるいはほぼ持続的に出現し、意識障害をはじめとした多彩な神経症状を呈する状態とされ、近年、診断のつかない意識障害の原因として注目されています。運動野に伝播しない、もしくは伝播しても痙攣を起こすほど発作波が強くないため、非痙攣性となります。

意識障害の程度には大きな幅があり、一般には「開眼しているが、視線が合わず、意識障害が遷延している場合はNCSEを考える」と言われるような、高度の意識障害を伴います。症状は多彩で、凝視、反復する瞬目、咀嚼、嚥下運動、自動症、昏睡状態、高次脳機能障害、異常行動など複雑部分発作が持続または間欠的に継続します。
成人から高齢者の原因として、中枢性神経炎症反応性疾患、脳卒中とその後遺症、頭部外傷とその後遺症、脳浮腫、代謝障害、薬物中毒、認知症、精神発達遅延などが原因として挙げられています。年間10万人に20人程度発症するとされます。
一般的なてんかんと同様に小児と高齢者の二峰性ピークを示し、男性の方が発症率が高いとされます。重症のNCSEはてんかん重積の約25~50%を占め、予後は不良と考えられています。

しかし、中には一見日常生活を送っているに見えるにも拘わらず、ふだんの生活からは想像できないような奇妙な行動を繰り返す、自動車事故を繰り返す、会話ができない などといったふだんには考えられない症状が突然起こっては数十分から数時間またはそれ以上持続し、本人にはその間の記憶はないといった症状の場合もあります。
発作性・一過性の症状からてんかん発作を想起し、NCSEを疑うことが診断の一歩となります。発作間欠期や発作後には必ずしも脳波異常を認めず、診断には長時間持続脳波モニタリングが必要となりますが、部分的な脳血流増加を評価できるarterial spin labeling法によるMRIは本疾患の診断の一助になります。
強く本疾患が疑われる場合には、抗てんかん薬の投与による治療的診断も有効です。

猪瀨型肝脳疾患

前述の非痙攣性てんかん重積状態と鑑別すべき疾患が猪瀨型肝脳疾患です。本症は、胎生期に存在していた血管が二次的に発達し、高アンモニア血症を来す非肝硬変性門脈大循環シャントに伴う脳症です。
脾静脈→左腎静脈がシャント路として知られ(60%)、蛇行し拡張したシャント路が造影CTで同定されます。50歳以降の中高年で発症が多いとされ、その誘因には諸説ありますが、加齢による門脈圧上昇が、シャント路の血流を増加させるためとされます。

症状は、繰り返す精神・神経症状、異常行動、幻覚、妄想が発作的に出現します。症状がないときは、神経症状はありません。

一過性全健忘

一過性全健忘は、一過性の前向性健忘(新たな記憶を造ることができない)を呈する疾患です。中高年に好発し、50歳以上の罹患率は人口10万人当たり年間30人と比較的高頻度です。原因は不明で、誘因は肉体的労作が最も多く、他には精神的ストレスが知られています。

発作中に数日から数ヶ月前までの出来事が思い出せない逆向性健忘(今までの記憶を思い出す)もみられますが、限定的で古い記憶は障害されません。発作中は前向性健忘の特徴ともいえる同じ質問の繰り返しが見られ、焦燥感が強いですが即時記憶は保たれます。
発作中の記憶は永久に欠落しますが、発作中の逆向性健忘は発作が治まった後に徐々に回復します。発作は24時間以内に消失します。

ウェルニッケ脳症

ウェルニッケ脳症のキーワードは、独居の男性、毎日飲酒、るいそう、低栄養状態(極端な偏食)です。最近当院で経験した例もまさしく同じ条件が揃っていました。
恵まれた環境にいる私たちには縁遠い話のように思えても、世の中にはいろいろな事情で厭世感に追い込まれ、自暴自棄の状態に陥り、このような過酷な環境に追い込まれることが稀ならずあります。
また一方では、自ら望んでこのような過酷な環境に身を委ねる人々もいます。昨今の世相を反映して、このような人々が増えるかもしれないことを忘れてはなりません。

るいそうが著明で食欲低下があり、低栄養状態にある可能性があること、連日飲酒していること、意識障害、瞳孔不同、低体温を認めた場合にはウェルニッケ脳症を疑い、脳MRI(FLAIR)にて中脳水道周囲に高信号を認め、血液検査でビタミンB1低値を確認したら本症と診断できます。

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