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フェリチン上昇から考える

フェリチンとは

人の体内には3-4gの鉄がありますが、全てがヘモグロビンと結合しているわけではありません。
鉄の2/3がヘモグロビンと結合した状態でヘム鉄と呼ばれます。残りの1/3がヘモグロビンと結合していない貯蔵鉄(非ヘム鉄)です。貯蔵鉄にはフェリチンとヘモジデリンという2つのタイプが存在します。

フェリチンは鉄をミセルにして取り込んだ水溶性の球状タンパク質で、主に細胞内に存在しています。必要に迫られれば赤血球の合成として用いることができます。ヘモジデリンはフェリチンが変性した不溶性物質です。

フェリチンは全ての細胞内に存在する蛋白ですが、トランスフェリンによって運ばれてくる鉄を細胞内に貯蔵し、鉄が必要な場合は速やかに利用できるように調節しています。
フェリチンは血中にも微量が存在します。血清鉄が血清中に存在する鉄の量を表すのに対し、血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映して増減します。

トランスフェリンとフェリチン
トランスフェリンとフェリチン(https://www.mcp-kyoto-u.jp/research/fe-about/から改編)

トランスフェリンは主に肝臓で合成される糖蛋白質で、血清蛋白分画におけるβ-グロブリンの主要成分です。
トランスフェリンは血清中の鉄と結合して搬送する働きがあります。腸管から吸収された鉄、組織から放出された鉄を結合して、血中を運搬して造血細胞に引き渡す役割を担っています。

トランスフェリンの約1/3が鉄と結合し残りの2/3は未結合ですが、未結合部分は不飽和鉄結合能(UIBC)、トランスフェリン全体が鉄で飽和された場合の結合能は総鉄結合(TIBC)と呼ばれます。

トランスフェリンと総鉄結合能(TIBC)の間には次のような関係があります。

トランスフェリン(mg/dL)×1.3 = TIBC(μg/dL)

フェリチンとトランスフェリン

フェリチンは前述したように貯蔵鉄を表します。一定の割合でごく微量血液中に溶けだしていて、血清フェリチンとして測定されます。
血清フェリチン自体に鉄はほとんどありませんが、その量は貯蔵鉄と強い相関があるので、貯蔵鉄の量を示すマーカーとして用いられます。

トランスフェリンは鉄の輸送タンパク質です。鉄はイオンの状態では毒性が強いのでトランスフェリンと結合して毒性を抑えます。トランスフェリンと結合した鉄を血清鉄と言います。
トランスフェリンは急性相反応物質の一つで主に肝で産生され、炎症を反映して増加し炎症の沈静化に伴い速やかに減少します。

慢性疾患に伴う続発性貧血について

慢性疾患に伴う続発性貧血は鉄欠乏性貧血に次いで2番目に多い貧血です。本症では小球性または正球性貧血、および網赤血球数低値を特徴とします。
慢性疾患として感染症、自己免疫疾患(特に関節リウマチ)、肝・腎疾患、悪性腫瘍(血液疾患を含む)などの数多くの慢性疾患を考慮する必要があります。

当初は正球性貧血を示しますが、やがて小球性貧血を示すようになります。血清鉄とトランスフェリンは低値から正常値となりますが、フェリチンは正常または(貯蔵鉄とは無関係に)高値となる場合があります。
血清フェリチンは急性期反応物質として高値を示すことがあります。続発性貧血と同じプロセスがほぼ全ての感染症や炎症(外傷もしくは手術後を含む)において急性期から始まると考えられています。

続発性貧血の主な病態として、次の3つの病態生理学的機序が同定されています:

  • 悪性腫瘍または慢性肉芽腫性感染症では、炎症性サイトカインの放出により赤血球寿命がわずかに短縮する
  • エリスロポエチン(EPO)の産生とEPOに対する骨髄の反応性がともに低下するため、赤血球産生が障害される
  • 網内系細胞などに不適切に鉄が隔離されるため赤血球産生が制限される

鉄欠乏を合併した慢性炎症性疾患のフェリチン値の変化

鉄欠乏性貧血のフェリチン値は慢性炎症性疾患を合併した場合、カットオフ値は50~100ng/mLまで上昇します。
慢性炎症がある場合、血清フェリチン値が100ng/mL(慢性腎臓病では200ng/mL)を下回る場合には、慢性炎症性疾患に伴う貧血に鉄欠乏症が合併している可能性が示唆されます。慢性炎症性疾患でフェリチン値が100ng/mL 以上であれば鉄欠乏性貧血の可能性は低いと判断します。
実際には貧血の原因が慢性炎症か鉄欠乏どうか不明な場合も考えられますが、試験的な鉄剤投与に反応しない場合には慢性炎症に伴う二次性貧血のみと考えることができます。

鉄欠乏性貧血では貯蔵鉄は早い段階から利用されて減少しますが、血清鉄は貯蔵鉄からの補給により、比較的末期まで低下しません。したがって、血清フェリチン値は早期に低下し、血清鉄値は末期まで低下しないことから、鉄欠乏状態を早期に診断するためには血清フェリチン測定は有用です。
また、血清鉄には日内変動があるため、血清鉄単独では鉄の過不足の指標とはならず、血清フェリチンとの組合せ測定は有用です。

フェリチンの異常高値

血球貪食症候群や成人スチル病では血清フェリチンの著しい高値がみられることから、診断や病態把握に役立ちます。

フェリチンの増加から考える重要な疾患は次の通りです。

フェリチン増加から考える疾患

  1. 再生不良性貧血、白血病、悪性リンパ腫など血液疾患
  2. 成人ヒトパルボウイルスB19感染症
  3. 膵癌、卵巣癌、肺癌、肝癌など悪性腫瘍
  4. 関節リウマチなど自己免疫疾患
  5. 異常高値では成人スティル病、血球貪食症候群

正球性貧血と大球性貧血について

正球性貧血を示す貧血の多くは、実は軽度の大球性貧血(MCV100~115fL)を示すことが多いです。このため、軽度の大球性貧血ではビタミンB12や葉酸欠乏が否定されれば、正球性貧血の鑑別を行います。

実臨床では軽度の大球性貧血をみる機会は多く、この場合常に正球性貧血の鑑別を忘れないように注意します。

フェリチン上昇と無効造血

無効造血は血球前駆細胞が成熟血球に分化する過程で細胞死が生じている病態を指します。無効造血は骨髄内で造血が亢進しているものの、末梢に出現する前に細胞死が生じている病態です。骨髄所見と末梢血所見に解離がみられ、骨髄中の細胞は十分に存在しますが、末梢血では血球減少を示します。
検査上、細胞死に至った細胞からの鉄の漏出による血清鉄の上昇、これにともない不飽和鉄結合能の低下、フェリチン上昇がみられます。

無効造血を呈する疾患

・サラセミア

サラセミアは3000人に一人の割合でみられる比較的コモンな病態です。赤血球数の減少のない小球性貧血ではサラセミアを疑います。MCV<70のこともありますが、MCV/RBC百万≦13は本症を疑う手がかりとなります。日本人に最も多く見られるサラセミアは軽症型であり溶血症状は少ないです。しかし、妊娠や感染症の合併で一過性に貧血症状が増悪する場合もあるため注意が必要です。

・巨赤芽球性貧血
・鉄芽球性貧血
・骨髄異形成症候群
・白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など造血系の腫瘍

フェリチンは白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など造血系の腫瘍でも陽性率が高い腫瘍マーカーです。フェリチンはsIL-2Rとともに血液疾患に気づく手がかりとなります。肝臓がんや膵臓がん、大腸がんなどでも陽性を示すことがあります。

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