総論は「直感的な神経・筋疾患の診かた」に述べていますので、始めにご覧ください。
ここでは小脳疾患の代表として多系統萎縮症と小脳脊髄変性症を挙げました。
進行性核上性麻痺などの疾患も小脳症状を示しますが、大脳基底核の症状(不随意運動など)が中心となるため、次の大脳基底核の項で述べることにします。
① | 小脳症状の中心は運動失調です。直感的な神経の診かたという点からは、神経学的には運動失調は特徴的で診断は比較的容易です。 臨床的に言えば、運動失調は簡単には酔っ払った時の口調や歩き方を想起しましょう。 |
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② | 小脳虫部に限局した急性期病変ではめまいのみが症状となることがあります。 回転性めまいといえば、良性発作性頭位めまいBPPVに代表されるように内耳の病変を想起しますが、小脳虫部に限局した急性期病変でも回転性めまいを発症することに注意します。 |
③ | 小脳病変では手指の振戦を伴うことがありますが、小脳が大脳基底核の機能と連結していることを考えると容易に理解できます。 |
小脳の神経所見のとりかたは成書に譲りますが、特徴的な小脳所見は比較的容易に診察できます。上に述べた2疾患の他、小脳症状は示しやすい疾患は血管性病変や脳腫瘍でしょう。
聴神経鞘腫では進行すると小脳症状を示しますが、初期には聴神経障害や顔面神経障害を示します。
注意すべきはめまいを主訴とする場合です。典型的な「回転性めまい」では内耳や小脳虫部の病変を想起することは容易ですが、「あいまいなめまい」では次に述べる深部感覚障害を鑑別する必要があります。
① | 小脳障害に伴う運動失調と似た症状は、内耳の一部である前庭の深部感覚障害などでも認められます。前庭系は頭部の加速度を三次元的に感知します。障害されると急性期には強いめまいと吐き気を伴い、開眼した状態では回転するようなめまいに襲われます。 |
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② | 深部感覚の障害をきたす末梢神経障害や頸髄後索の障害でも運動失調を生じます。 |
③ | 視覚情報の処理や物体の運動の追跡などにかかわる視覚連合野である大脳頭頂葉の障害では、見ているものをつかめないなどの運動失調に似た症状を生じます。 |
血管性障害や脳腫瘍を除き、代表的な小脳疾患は次の通りです。
疾患名 | ❶頻度 | ❷障害部位 | ❸経過 | ❹特徴 |
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多系統萎縮症 MSA | 表2へ | 表3へ | 表4へ | 表5へ |
線状体黒質変性症 | ||||
オリーブ橋小脳萎縮症 OPCA | ||||
シャイ・ドレイガー症候群 | ||||
脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) |
次に、小脳疾患を ❶頻度 ❷障害部位 ❸経過 ❹特徴の4つに分けてまとめました。
疾患名 | ❶頻度 |
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多系統萎縮症 MSA | 10万人あたり約10人 全体で約12000人 |
線状体黒質変性症 | |
オリーブ橋小脳萎縮症 OPCA | |
シャイ・ドレイガー症候群 | |
脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) |
10万人あたり約25人 全体で約30000人 |
疾患名 | ❷障害部位 |
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多系統萎縮症 MSA | 神経細胞の中にαシヌクレインが凝集した特殊な封入体が形成 |
線状体黒質変性症 | 病初期の症状がパーキンソ二ズム |
オリーブ橋小脳萎縮症 OPCA | 病初期の症状が小脳症状 |
シャイ・ドレイガー症候群 | 起立性低血圧、排尿障害など自律神経症状が中心 |
脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) |
2/3が孤立性、1/3が遺伝性 孤立性の多くは多系統萎縮症 残りが小脳症候のみが目立つ皮質性小脳萎縮症 |
疾患名 | ❸経過 |
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多系統萎縮症 MSA | パーキンソン病よりも早く、約10年で死亡 |
線状体黒質変性症 | 多くは40歳以降 |
オリーブ橋小脳萎縮症 OPCA | OPCAが最多 |
シャイ・ドレイガー症候群 | |
脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) |
小児から成人まで幅広い 緩徐進行、個人差が大きい |
疾患名 | ❹特徴 |
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多系統萎縮症 MSA |
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脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) |
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最後に、それぞれの疾患と神経的な障害部位とを表にまとめました。
あくまでも私見であることをお断りします。
疾患名 | 障害部位 | ||||||
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大脳 皮質 ↓ 大脳 髄質 |
大脳 基底 核 |
視床 | 小脳 | 中脳 ・橋 ↓ 脳 神経 |
延髄 | 脊髄 ↓ 脊髄 神経 |
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(失調症) | (球麻痺) | ||||||
多系統 萎縮症 MSA |
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脊髄小脳 変性症 (多系統 萎縮症を 除く) |
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