スポーツの世界では右利きより左利きが有利といわれます。
しかし、親が子どもの利き手を矯正することについては慎重論が強いのが実際です。利き手の無理な矯正がその後の人生に影響を与えるという報告もあります。
親は子どもの利き手とどう向き合えば良いのでしょうか?
成人人口の8%から15%が左利きと言われています。わずかながら女性よりも男性の方に左利きが多いという報告もあります。この割合は古今東西を問わずほぼ一定で、文化や教育、食事などの後天的な要因ではないことが分かっています。
しかし、なぜ左利きが少数なのか、なぜ10%前後で変動がないのかについてはいまだにはっきりとした理由が分かっていません。一卵性双生児にはとくに左利きが多く、その割合は一卵性双生児の76%にも及びます。
右の手足の運動は左脳と、左の手足の運動は右脳と連結しています。思考・判断・理解などの高次な精神機能については、左右の脳がバランス良く働きながら共同作業をする結果、最終的に正しく行われると考えられています。
左利き、右利きだからといって脳の発達に左右差があるなどといったことは決してありません。人類が二足歩行を始め、道具を使い、言葉を操るようになる進化の過程で、何らかの必要性に応じて右利きが増えてきたと推測されます。どんな必要性があったかについては諸説ありますが、決定的なものはありません。
人は生まれてからも、筋肉や骨、その他の多くの内臓や器官の発達はまだ続きますが、脳だけは重要な臓器であるために、解剖学的には生まれたときにほぼ完成されています。しかし脳の働きの多くは、生まれてからのいろいろな体験を通して形造られていくと考えられています。
利き手が決まってくるのは、3歳から4歳くらいで、それまでの年齢では両手をランダムに使っていると言われています。なぜこの年齢に達すると、右利きと左利きに別れるか?詳しいことは分かっていません。
左利きだから右脳が良く発達し、右利きだから左脳が良く発達しているといった事実はなく、利き手によって何か特別な才能に恵まれているといったことも、いろいろ意見はありますが、決まった事実はなさそうです。才能というものは、利き手よりもはるかに他の因子によって左右されるものでしょう。
私は左利きですが、幼少時に右利きに矯正されました。小さい頃、利き手に関して厳しくしつけられたという記憶が、かすかに残っています。右利きに矯正するということは、子どもと親の双方にそれなりの努力とストレスを与えるものなのでしょう。
右利きに矯正したといっても、右手を使用するのは字を書くときと箸を持つときくらいです。スポーツをするとき、はさみを使うとき、パソコンのマウスを使うときなどほとんどすべての日常行為は、今でも左手です。自分では今でも左利きと思っています。しかし、両手が使えるという利便性を多少は感じています。
日本ではその昔、左利きはハンディキャップを背負っているかのように思われたそうです。私の親はそれを不憫に感じて、書くことと箸を持つことだけは、右利きに変えようとしたと後から聞かされました。
おもしろい記事を見つけました。カナダ人研究者が、「利き手矯正の経験がどんな影響を及ぼしたか」を追跡したレポートです。
対象者を、
に分類。その後の「生活の満足度」について聞き取り調査をした結果、「矯正に失敗し、現在は左利きのまま」という(2)の満足度がもっとも低かったそうです。
他の専門家も、「矯正されて変更が可能であった場合はそれほど後の人生で問題はないが、うまくいかなかった場合には問題をはらむ可能性がある」と指摘しています。
利き手は右脳と左脳の神経回路と深い関係があり、脳の発達にも結びついているため、親は子どもに無用な心理的負担をかけてはならないでしょう。
「利き手を逆に克服するにはかなりの訓練が必要。脳の左右の役割分担を無視して、育児の中で両利きに育てようと試みるのは脳にとって良くない」と指摘しています。