かぜの原因となるウィルスは多数存在します。かぜのウィルスは多くはのど(咽頭)の粘膜や鼻粘膜から侵入してきます。
ウィルスの活動の場がのどや鼻など狭い範囲に限られており、くしゃみ・鼻水・のどの痛みなど比較的軽い症状を起こすとき、「かぜ」、「感冒」と一般に呼ばれます。
しかし、かぜのウィルスの活動はしばしば勢いづいてひどくなりやすく、激しいのどの痛みや発熱を起こしたり、のどの奥や気管支など奥深くに入り込んでいきます。
このようなとき「急性上気道炎」、「急性咽頭・喉頭炎」、「急性気管支炎」などと呼ばれるようになります。
(図1)正常なのどの粘膜では、表面の細かな線毛の運動や粘液によって守られており、ウィルスや細菌などの異物は外へと排除されるようになっています。
しかし、かぜのウィルス感染により、この粘液線毛運動の働きが障害を受けるとウィルスや細菌など異物の排除機能が低下してきます。
このようにして気道粘膜が障害を受けると、肺炎球菌などの常在菌が付着しやすくなり、二次感染(こじれる)が起こりやすくなります。
(図2)かぜがこじれると、1)かぜが長引く、2)高熱が続く、3)せきが長引く、4)中耳炎を繰り返す などの症状が起こってきます。
気管支炎は、気管支粘膜に炎症が起こり、気道分泌(いわゆるたん)が増加した状態です。かぜの子どもがゴロゴロいうたんのからんだせきをするようになれば、気管支炎と診断できます。発熱を伴うこともあれば、熱がないこともあります。
胸部レントゲン写真では肺炎のようなはっきりとした陰影を認めることはなく、ほぼ正常かやや気管支周囲に陰影を認める程度です。
気管支炎の原因の多くはウィルス感染(パラインフルエンザウィルス、RSウィルスなど)で、いわゆる「かぜ」、「感冒」から起こってきます。
気管支炎はウィルス感染によることが多いため、治療としては去たん剤、気管支拡張剤が中心となりますが、細菌による二次感染を予防するために抗生物質の投与もしばしば行われます。
肺炎の診断は比較的簡単で、胸部レントゲン写真でさまざまな異常な陰影が認められるようになれば肺炎と診断します。このような異常陰影は、気管支に限局していた炎症が、気管支周囲の肺実質からさらに広範囲に広がってきたために形成されます。
肺炎の原因はウィルス性、細菌性、マイコプラズマ などです。
ウィルス性肺炎は子どもに多くみられ、胸部レントゲンで肺の中心部から周囲に線状の陰影が認められるときに疑われます。ウィルス性肺炎の多くは、経過とともに自然に回復していく予後の良いものです。細菌による二次感染を予防する目的で抗生物質がしばしば併用されます。
ウィルス性肺炎の原因ウィルスは、RSウィルス、パラインフルエンザウィルス、アデノウィルス、麻しんウィルス などによるものです。
乳児期(18ヶ月以下、とくに6ヶ月未満)に多い細気管支炎もウィルスが原因ですが、1~3日の軽いかぜ症状のあとに、急速に症状が悪化し、激しいせきと呼吸困難、チアノーゼが現れてきます。
細気管支炎は危険な病気なので、ただちに入院が必要になります。
胸部レントゲンで比較的はっきりとした陰影を認める場合は、多くが細菌性肺炎と考えられます。気管支粘膜がかぜのウィルスによって障害されると、肺炎球菌、インフルエンザ菌(冬に流行するインフルエンザウィルスではありません)などの常在細菌の攻撃を受けやすくなります。
乳児では黄色ブドウ球菌が原因で肺炎を起こすと、重症化しやすいので注意が必要ですが、一般には肺炎は早期に抗生物質による治療が行われると、速やかに回復していきます。
肺炎の治療が遅れたり、適正な抗生物質の治療が行われないと、膿が肺の周囲にたまったり(膿胸)、肺の内部に膿がたまる(肺膿瘍)ことがあります。ふだん健康な子どもや成人の肺炎は抗生物質がよく効くために治療に手こずることはまずありません。
しかし、高齢者の肺炎、また中高年の慢性の肺疾患を持つ人の肺炎は呼吸不全を起こしやすく、生命の危険を常に伴います。
高齢者の肺炎の原因の多くが、口腔内の唾液や胃の内容物が逆流してきて、夜間睡眠中に気管内に誤えんされて起こると指摘されています(誤えん性肺炎)。ふだんは誤えんを繰り返しても肺炎を起こさない高齢者でも、全身状態の悪化やかぜや気管支炎などを起こしたときや、口の中の細菌がふえたときなどには肺炎を起こしてきます。
高齢者肺炎は、頻度が多く、一度起きると死亡率が高く、予防がもっとも大切です。口の中を清潔に保つこと、逆流を起こしやすい人では食後にすぐに横にならずに、一時間近くはすわっているなどの注意が必要です。
マイコプラズマ感染症は幼児から年長児の肺炎の大きな原因になっています。マイコプラズマ肺炎を有名にしているのは日常しばしば遭遇する病気でありながら、ふつうに使用される抗生物質が有効でなく、マクロライド系・テトラサイクリン系といわれる抗生物質を使う必要があるからでしょう。
せきと発熱いうかぜとよく似た症状で来院され、かぜとして治療するうちに気がつくと肺炎を起こしていたという、苦い経験をすることがあります。
子どものかぜを診察するときには、マイコプラズマ感染を常に忘れてはならないでしょう。
*マイコプラズマ感染症については、本HPをご覧ください。
家庭の医学-子ども-マイコプラズマ感染症・肺炎
診療所でかぜの子どもや成人を診察していて、経験的に肺炎が疑われる簡単なルールがあります。ふつうこじれていないかぜのときには、いくら発熱しても3日くらいで解熱してきます。熱が4日以上続くときには肺炎や他の発熱の原因がないか、調べていく必要があります。
とくに発熱とせきが4日以上続くときには、年齢に関係なく、胸部レントゲン写真を撮影して肺炎を起こしていないか、調べる必要があります。
ふだん元気な年長児、小学生、さらに大人の人が、かぜをひいても無理に学校や仕事をしているうちに肺炎を起こしてしまう例を、しばしば経験します。このような肺炎を診察室で見逃さないためにも、発熱を起こしてから何日経過しているかを数えてみることは、たいへん重要だと常々痛感しています。
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