子どもも親も心理的に大きな負担になるのが夜尿症です。
これまで複雑だった専門科の治療が、研究の進歩により単純な治療法で約7割が治ることが分かってきました。国際的にも治療法がまとめられ、日本夜尿症学会も診療ガイドライン(下イラスト)を改定しました。夜尿症が「放っておく病気」から「治す病気」に変わりつつあります。
生理現象としての「おねしょ」と違い、医学的には「夜尿症」とは小学生ころになっても月に数回以上おねしょが続くこととされます。夜尿症は育て方やトイレトレーニングとはほとんど無関係と言われています。現在では、睡眠中の覚醒障害に夜間多尿か機能的な膀胱容量過少のどちらかが加わって起こると考えられています。そして1年以内に半数が治るようになってきました。
全国に80万人近い夜尿症の子どもがいると推定されていますが、大部分が専門科を受診していないのが現状です。たかが夜尿症ですが、発達に及ぼす影響は深刻で、
などが挙げられます。
しかし、治療に当たることができる日本夜尿症学会の専門医は約450人と限られていて、対応が難しい現状がありました。今まで夜尿症に関しては、小児科と泌尿器科の専門医の間で治療方針の違いがありました。
最近は海外から一歩進んだ多くの科学的根拠や治療法が入るようになりました。これを活かすために学会から新しい診療ガイドラインが改定されました。従来、夜尿症の対応は、一般の医師にとってはやっかいとされてきました。
ガイドライン改定により、単純で分かりやすい方法になり、一般医でも適切な治療ができるようになりました。
夜尿症治療は生活指導から始めます。生活指導の基本は、まず規則正しい生活や水分の取り方を注意するなどです。この生活改善で約2~3割が失敗しなくなるほど重要です。
夜尿症はアレルギー疾患に次いで多く、ありふれた子どもの症状です。治すための親の心がけとしては、「あせらない」「しからない」「くらべない」などの態度と根気強い習慣が重要です。
治療はその後は薬物療法(抗利尿ホルモン薬デスモプレシン)か、下着にセンサーをつける夜尿アラーム療法(*)を試み、次に併用へという手順に進みます。約7割の子どもに効果があるとされています。
親がやっと夜尿症を治そうとして決心して受診すると、「自然に治ります」とか「とりあえず様子をみましょう」と言われることが多いかもしれません。親はがっかりして再び相談ができず、治療も受けられなくなるというのが現状です。一般医の適切な対応が望まれます。
次の二つの作用が考えられています。第一は、睡眠中に尿意が脳に伝わりにくいために尿を漏らすという考えから、寝る前にパンツに小さなセンサーをつけることで、尿でパンツが濡れるとアラームが鳴る条件づけ訓練法です。
脳への尿意の伝達を促す効果が期待できます。つまり、尿意があると目が覚める(尿意覚醒)というものです。第二は、夜尿直後にアラーム音で覚醒させるため尿意覚醒によると考えがちですが、実際は睡眠中の膀胱容量(尿保持力)を増加させるという考えです。
アラームのみでは起きない子どもでは、家族が起こしてやる必要があります。 多くの場合、尿意覚醒をせずに朝まで持つことができるようになり、やがて夜尿が消失します。