急性虫垂炎(いわゆる盲腸)は10歳代にもっとも多くみられ、2歳以下はまれといわれています。
小さい子どもでは虫垂炎は少ないとはいえ、気がついたときにはすでにおなかに破れている(これをせん孔といいます)例が多く(4歳未満の70%がせん孔)、診断が難しい病気です。
(図1) 虫垂炎の原因は、糞石かんとん(便の固まりが虫垂というくぼみに落ちてしまう)やリンパ濾胞(リンパ組織の集まったもの)の増生のために虫垂の内腔が閉塞した結果起こってきます。
虫垂の内腔が閉塞すると細菌感染を起こしやすくなり、炎症を起こしてきます。スイカの種などの食べ物が、虫垂につまってもうちょうが起こるといわれますが俗説といえるでしょう。
虫垂の内腔が炎症を起こしてはれてくると、虫垂壁の血流障害を起こして壊死を起こしせん孔を起こします。せん孔した膿(うみ)がおなかの中に解放されると一時的に痛みが軽減することがありますが、やがて腹膜炎を起こしてくるために危険な状態になっていきます。
虫垂炎は大人でも子どもでも診断の難しい病気です。
(図2) 大人では典型的な右下腹部痛よりも、激しい上腹部痛と吐き気・おう吐で受診されることがあります。
このような時には上腹部の病気ばかりに注意が集まり、急性胃炎などのまちがった診断を下しやすくなります。右下腹部に痛みが強くないことが多く、この時点で虫垂炎の診断は困難です。
しかしこのような上腹部の痛みも、半日もすると右下腹部に場所が変わってきて、歩く姿勢も背筋を曲げて右下腹部を押さえるようになります。痛みのためにまっすぐに背筋を伸ばすことも困難ですが、片足で軽く飛び上がると、右足の時に右下腹部に強い痛みを生じます。
上腹部痛から半日くらい経過して起こるこの時期に虫垂炎の診断を下さないと、せん孔の危険性が高くなります。
しかし、上腹部痛と吐き気の強い時期に虫垂炎の診断は困難なため、医師としては患者さんは次のような注意を与えておくことが大切でしょう。
上腹部痛からの診察のタイミングが、半日くらいだとせん孔のおそれはありませんが、一日経過するとまずせん孔を起こしてしまいます。
(図3) 子どもの場合でも歩行は困難で、前屈姿勢をとります。診察台の上でも動くことはなく、横向きになり足を曲げています。
乳幼児では、不機嫌でぐずっていることが多く、右足をまげる仕草がみられることがあります。
腹部を触るときには、「痛いのはどこかな?」「教えてくれる?」などやさしく語りかけながら、子どもの答えだけでなく、表情の変化をみることが大切です。
子どもの虫垂炎の診断は難しいために、少しでも疑いがあるときには入院をすすめ、繰り返して診察をすることが必要になります。
虫垂炎の診断のために、診察室で参考になるのは白血球数の増加です。一般には白血球数が10,000以上の場合には虫垂炎が疑われます。
白血球数は診断を左右することが多いので、即座に結果を確認できるようにしておくことが大切です。
その他には直腸指診、超音波検査検査があります。
直腸指診は、圧痛の有無や膿瘍の形成の有無をみるのに役立ちますが、小さい子どもでは痛みのために実施は困難です。
超音波検査は信頼性が高く、虫垂径が7mmまたは糞石があれば虫垂炎と診断できます。膿瘍や腹水の存在も超音波検査で分かります。
子どもの虫垂炎の特徴としては、せん孔が高頻度にみられ腹膜炎を起こしやすいこと、腹痛や圧痛はほぼ100%にみられるが、発熱のない例(20%)や白血球数の増加がない例(20%)が多いことで、診断にはとくに注意を要します。
虫垂炎が疑われる例では、入院を勧め慎重に経過をみる必要があります。