日常外来診療に基づいた総合内科のアプローチ
-- 臨床研修医のために --

外来血液検査のコツ-初診時の血液検査の流れ
ステップ2

ステップ2:感染症が疑われる場合の追加項目を解説します。

血液検査の流れ
ステップ1:基本項目
  B2/SC4、HbA1c、血沈
1Ca・P、TSH・FT4、フェリチン・Fe
2ビタミンB12、葉酸、網赤血球
3ANA、RF、抗SSA抗体、C3・C4
4CEA、CA19-9、PSAまたはCA125
5Mg、Zn
6BNP、D-ダイマー、トロポニンT
ステップ2:感染症
  1マイコプラズマ・百日咳・クラミドフィラに対する抗体
2EBVCA-IgM、CMV-IgM、HIV
3HPV-B19 IgM
4T-spot
5STS・TPHA
6血液培養
7肺炎球菌およびレジオネラの尿中抗原
8溶連菌(咽頭ぬぐい液)
ステップ3:骨髄腫、ANCA関連血管炎、IgG4関連疾患、血液疾患
  1IgG・A・M・D、血清蛋白電気泳動(M-peak)、尿BJP ➡ 免疫電気泳動
2MPO-ANCA、PR3-ANCA
3IgG4
4sIL-2R
ステップ4:膠原病、間質性肺炎
  1抗CCP抗体、MMP-3
2抗SSA、抗Scl-70
3抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1γ抗体
4KL-6、血清ACE
ステップ5:出血・血栓疾患
  1PT、APTT
2抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループス抗凝固因子)
3プロテインS/C
4アンチトロンビン
ステップ6:副腎、更年期
  1ACTH・コルチゾール
2FSH/E2(エストラジオール)

ステップ2:感染症

咳や発熱、頸部リンパ節腫大、四肢の小紅斑、関節痛などを主訴に受診し、感染症が疑われる場合の追加項目です。血液培養は診療所で行う機会は多くありませんが、高齢者の高熱では抗生剤の点滴を行う前に必ず考慮します。

血液検査ではありませんが、胸部X線で大葉性または多発性の肺炎像を認めた場合には、肺炎球菌およびレジオネラの尿中抗原を考慮します。

溶連菌感染症の咽頭や扁桃の所見は特徴的で、慣れてくると視診だけで分かるようになります(写真1)。

写真をクリックすると拡大します

(写真1)溶連菌感染症の口の中の変化
写真1溶連菌感染症の口の中

白苔を伴った扁桃炎では、扁桃ぬぐい液で溶連菌を調べ、陽性の場合にはペニシリン系の抗生剤を7日間程度投薬します。溶連菌による扁桃炎では、成人でもセフェム系抗生剤ではしばしば再発するか治癒が遷延します。IgA腎症の予防のためにも、適正な抗生剤使用を考慮します。

1マイコプラズマ、百日咳、クラミドフィラ肺炎に対する抗体検査

マイコプラズマ

マイコプラズマの診断には、急性期を捉えやすいPA法(主にIgMを測定)がよく検査されます。PA法で単一血清では320倍以上、ペア血清では4倍以上の抗体価の上昇を認めたらマイコプラズマ感染症と診断できます。ただし、小児では320倍以上の抗体価の上昇が数ヵ月間認められる場合があり、単一血清での解釈には注意が必要です。

マイコプラズマには抗原検査と抗体検査があります(図1)。抗体検査ではペア血清で調べることが理想です。マイコプラズマは実臨床では重症になることが少ない反面、迅速な診断が求められます。実際には臨床症状と単一血清の結果から、診断されることが多いと思います。

マイコプラズマの抗原検査と抗体検査の違い
図1マイコプラズマの抗原検査と抗体検査の違い

百日咳

百日咳は学童期に予防接種を完了していても、20歳を過ぎる頃には抗体は消失し感染の危険性が高まります。内科診療所で問題になるのは、高齢者の百日咳です。
高齢者に限りませんが、百日咳の特徴は夜間の呼吸が止まるほど強いけいれん様の咳です。高齢者は特に強い不安感を覚えます。このような時に適切に診断して、時間がたつと激しい咳は改善することを説明することは、不安を取るために大切です。

百日咳の診断に咽頭ぬぐい液によるLAMP法が早期診断に有用です。小児と異なり、成人ではある程度の期間、咳を我慢してから受診することが多くなります。したがって、LAMP法で調べるタイミングはすでに過ぎてしまい、PT-IgGの単一血清で診断することが多くなります(図2)。

百日咳抗体の推移と検査方法
図2百日咳抗体の推移と検査方法
感染症の伝染力(感染者が感染中に病気をうつす人の数)
インフルエンザ 1~3人
ノロウイルス 3~4人
天然痘 5~7人
風疹 6~9人
水痘 8~10人
百日咳 12~21人
ロタウイルス 28~191人

抗原検査のLAMP法で陽性になれば、百日咳の確定診断となり、届け出が必要です。一方、抗体検査で陽性と判断しても、あくまでも「疑い」です。この場合届け出は必要ないと、ある勉強会で教えて頂きました。

クラミドフィラ

一般的にクラミドフィラ肺炎は、呼吸器症状が軽度であり、軽症であることが知られています。わが国のクラミドフィラ肺炎の頻度は0.8~5.0%程度と報告されており、過去の報告よりもかなり低い数値です。肺炎クラミドフィラは上気道に常在しているため、上気道を経由して得られた検体による検討においては、真のクラミドフィラ肺炎の評価ができないことが指摘されています。

抗体検査では、初感染の多い小児ではIgM抗体を調べますが、再感染の多い成人ではIgMが上昇しないことも多く、IgGまたはIgAを調べます(図3)。実臨床ではIgGが上昇している例が多く、単一血清での判断は困難であり、クラミドフィラ肺炎の実態は明らかではありません。

クラミドフィラ・ニューモニエ抗体価の推移と解釈
図3クラミドフィラ・ニューモニエ抗体価の推移と解釈
クラミドフィラ・ニューモニエ抗体 IgG 判定基準
判定 EIU値
(-) 30 未満
(±) 30~45
(+) 46 以上
28日以降に採血した血清による再検査をお勧めします 

マイコプラズマ、百日咳、クラミドフィラ肺炎のいずれも抗体検査では確定診断は困難ですが、臨床的には初診時にペニシリンで治療を開始するか、マクロライドで治療を開始するか だけを考慮すれば良いと思います。

2EBVCA-IgM、CMV-IgM、HIV

・・・次回更新をお待ちください・・・

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