- 総合内科のアプローチ -
内科から見た肩こり

8.肩こりの内科的な治療

1)たかが肩こり、されど肩こり

肩こりは程度の差はあってもほとんどの人が経験したことのある一般的なものです。しかし肩こりの強い人にとってはたいへんな苦痛を伴うことがあります。内科の診察室を訪れる患者の中には肩こりが原因と思われる人が多く含まれます。

肩こり症候群と呼ぶことができるような頭痛や、眼の奥や後頭部の神経痛、ふわふわとした動揺性めまい、胸の圧迫感や息切れなど多彩な症状を肩こりは起こすことがあります。また仕事上のストレスや家庭や育児の疲労感などから不眠症やうつ症、神経症の症状の一つとして肩こりを強く訴える人もいます。

このような多彩な症状が肩や全身の筋肉のこり(緊張)が原因になっていることを明らかにし、さらに肩こり症候群の背景となっている原因を明らかにすること、たとえば整形外科や神経内科的な異常がないか、生活習慣や仕事や家事の上で問題がないかどうか、などを考えるのは医師の役目といえます。

内科の治療といえば薬によるものが中心になりますが、肩こりの治療にはもちろん鍼灸やマッサージ、電気治療や理学療法、気功、ヨガ、ストレッチなど優れたものがいろいろあります。肩こりで困っている人はいろいろ試してみて、自分に合った治療法を見つけることが最も重要と思われます。

薬による内科的な治療は簡便ですが、とかく薬に頼ることには批判的な意見が伴いがちです。間違えてはいけないのはこのシリーズの目的は、肩こり症候群を内科的な症状として考え、治療をして苦痛を軽減することであって、肩こりそのものの治療を薬で行うことではありません。

2)肩こり症候群とは

肩こり症候群については本シリーズの「3.内科からみた肩こり」に始まり「7.肩こりと睡眠・疲労感」まで筆者の考えを述べてきました。肩こり症候群をまとめたものが次の図です。(図1)

【図1】肩こり症候群
図1肩こり症候群

3)頭痛について

【図2】肩こりと頭痛
図2肩こりと頭痛

(図2)慢性頭痛に対して「4.肩こりと頭痛」のところで詳しく述べました。ここでは頭痛と血小板機能について私見を述べてみたいと思います。

片頭痛と血小板機能との関係はすでに広く知られているところで、研究も進み治療薬も開発されてきました。しかし血小板凝集能と慢性頭痛の治療を結びつけた考えはまだ少数派で一般的には知られていないと思われます。
血小板凝集能と頭痛については、藤田稠清著「血小板凝集能亢進症と疾患-頭痛・めまい・痴呆など」(SCOM・029 金原出版)に詳しく述べられています。

血小板凝集能は古くからある検査方法ですが、この測定はごくわずかな医療機関でしか行われていません。その理由としては検査方法が煩雑なだけでなく、血小板凝集能の試験管内の測定の意義が必ずしも明確ではないことによると推測されます。
しかし一般的な治療薬によって良くならない片頭痛や慢性頭痛の例に血小板凝集能を測定してみると亢進している人が少なからず見つかります。

このような人に少量のアスピリン(血小板機能を抑える働きがあります)を毎日または隔日に飲むと劇的に頭痛が軽減するのをしばしば経験します。この事実は先に述べた藤田稠清著「血小板凝集能亢進症と疾患-頭痛・めまい・痴呆など」(SCOM・029 金原出版)に詳しく述べられています。本院ではこれを追試しているわけです。

この事実は一般にはあまり知られていませんが注目されるべきことと思います。とくに最近10代の若者の頭痛をしばしば経験しますが、治療に抵抗を示して困るケースがあります。このような若者の頭痛で血小板凝集能を測定してみると亢進しているケースがしばしばみられます。
少量のアスピリン療法がきわめて有効です。注意願いたいのは市販されているアスピリンは量が多いので毎日服用するのは危険で勧められません。自己治療は禁物です。

4)肩こりの薬による治療

肩こりの治療は、整形外科医による診察と治療、針灸師による治療、接骨師による治療、民間治療など様々あります。ここでは治療法の優劣を述べるのではなく、内科医の立場からみた内服治療について述べることにします。
さらに、ここに述べる内服治療は本院で独自に行っているもので、必ずしも一般的な治療法ではないことを初めに断っておきます。

医院を訪れる方のほとんどは筋肉のこりそのものではなく、頭痛やめまい、動悸や息切れ、手のしびれや背部痛など他の症状を訴えて受診されます。このような肩こり症候群による症状は、内服薬を工夫することにより著しく良くなります。しかし最も重要なことは、多彩な肩こり症候群の症状が、肩こりによるものだと認識することだと思われます。

肩こりに対する内服治療は、消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、筋弛緩作用のある抗不安薬、症候性神経痛に対する薬など4種類を症状により組み合わせます。自律神経失調による症状が強い時には、自律神経調整薬を別に加えることがあります。ビタミン剤や循環改善薬などは効果が不十分なため本院では使用しません。

肩こりの治療に際して、

  1. 睡眠がよく取れているか、眠りが浅く睡眠が不十分かどうか?
  2. 肩こりの症状が頭痛が主なものか、筋肉のこりが主なものかどうか?
  3. 症候性神経痛としての腕や背中の痛みやしびれを伴うかどうか?

を特に注意します。これらの症状の有無に応じて、上記4種類の薬の内容を変えます。睡眠が不十分な場合、肩こりは特に治りにくいため、睡眠を助けかつ筋弛緩作用のある抗不安薬を選択します。神経根からの関連痛や放散痛、症候性神経痛に対しては、抗てんかん薬の一種を使用することがあります。

肩こりに対して薬は一日1回就寝前に服用し、1-3日でいったん良くなれば止めます。頭痛が強い時は一日2回服用し、良くなれば中止します。
肩こりによる緊張型頭痛は消炎鎮痛薬だけでは効果が不十分でも、筋弛緩薬と抗不安薬を追加すると劇的に効くようになります。内服薬による治療は毎日行わず、辛い時だけ飲むように指導します。

筋肉のこりが強い時は、局所麻酔剤とステロイドの混合薬を局所に注射することがあります(トリッガーポイント注射)。かなり症状が良くなることがほとんどですが、痛みの性質によっては効果的でないこともあります。
また肩こり症候群の症状があまり強い時、注射で気分が悪くなることがあるので避けるようにします。トリッガーポイント注射は一時的にはかなり楽になりますが、効果が持続しないため基本的には避けるようにします。

鍼による治療は経験上かなり効果的ですが、緊張感の強い人には逆効果のことがあり注意が必要です。最近10代の若い女性の間に、強度の肩こりを訴える人が目立ちます。
若い人に内科的な内服治療が行いにくいことがありますが、鍼の治療が有効なことがしばしばあります。しかし鍼による治療の際、C型肝炎ウィルスなどのウィルス感染に対する十分な配慮がなされていることがきわめて重要です。

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