- 総合内科のアプローチ -
関節痛・筋肉痛と内科の病気

A、首筋付近から腰(頸椎から腰椎)にかけて
脊柱に沿った痛み

11脊椎・関節の疾患以外に起こる頚部や胸背部の痛み

内科診療所では今までに挙げた疾患よりも次に述べる疾患を診る機会が多く、これらの鑑別がより大切と考えられます。

脊椎・関節の疾患以外に起こる頚部や胸背部の痛み
脊椎・関節の疾患以外に起こる頚部や胸背部の痛み

1)動脈疾患:胸部・腹部大動脈瘤、高安動脈炎など

何かしている最中に突然激烈な胸部や背部の痛みを生じたときは、血管由来の疾患をまず考えなければなりません。大動脈瘤解離は突然発症する胸背部痛で知られていますが、3人に1人は経過中に発熱を認めます。
本院の経験例もかぜと間違うような微熱が主訴でした。胸部レントゲン写真だけで判断すると見逃しやすいことも知られているため、疑わしいときは胸部CTや血液検査(血沈やD-ダイマーの測定)などが必要です。

高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)は大動脈とその分枝における血管炎で、アジア人の若年女性に好発します。発熱、倦怠感、体重減少、血管痛などの全身症状を認めることもありますが、病初期には手がかりに乏しいことがあります。頸動脈に炎症を起こした場合には頚部痛を生じることがあります。
胸部大動脈は好発部位ですが、下行大動脈から腹部大動脈にかけて発症すると腰背部痛を生じることがあります。まれな部位ではありますが、高安動脈炎の診断基準においても臨床症状の一つに挙げられています。

2)心疾患:狭心症、心筋梗塞、心膜炎など

狭心症の症状
図2狭心症の症状

狭心症の発作は胸痛というよりは、グーと締めつけられるような前胸部の圧迫感です。圧迫感は顎から歯、左肩などに及ぶことがあります(図2)。
高齢者では圧迫感は軽く、歩行時などに動悸として起こることがあり、見逃さないように注意が必要です。労作性狭心症(安定狭心症)は急いで歩いたときや重い物を持ち上げたとき、興奮したり緊張したときに発症します。不安定狭心症と急性心筋梗塞はプラークが破綻して血栓を形成する過程の違いだけで、まとめて急性冠症候群と呼ばれる危険な状態です(図3)。

プラークと急性冠症候群
図3プラークと急性冠症候群

急性心膜炎では、急性の前胸部痛を呈し、深呼吸や臥位で痛みが増悪する特徴があります。放散痛が肩や腕に見られる場合は心筋梗塞との鑑別が問題になりますが、首すじから肩にかけての「僧帽筋稜」への放散は急性心膜炎の特徴です。

3)膵疾患:膵ガンなど

膵ガンの65%と最も多くを占める膵頭部がんでは主膵管やすぐ近くに走行する胆管が狭窄や閉塞する症状が発現します。主膵管が閉塞すると膵液がうっ滞し、尾側の二次性膵炎が起こり心窩部痛、左上腹部痛や左背部痛などの症状や血中膵酵素(アミラーゼやエラスターゼ)の上昇がみられます。これは膵がんの比較的早期にみられます。病気が進行すると持続的な腹痛や頑固な背部痛が出現しますが、血中膵酵素はむしろ低下します。

背中が痛むと膵ガンを心配する人が多いのですが、他の病気の可能性も否定できませんのでしっかりと検査を受けることが大切です。

4)縦隔に由来する疾患:食道疾患、縦隔炎、縦隔気腫など

縦隔は左右の肺に囲まれた部分です。 ここには心臓や 心臓に出入りする動静脈血管や気管、食道、大動脈など重要な器官が集まっています。

正中線上の胸痛には、消化器疾患および循環器疾患など多くの原因がありますが、食道疾患は狭心症とよく似た胸痛を起こすことがあります。もっとも多いのは胃食道逆流症(GERD)です。他の食道疾患として、感染症(細菌、ウイルス、真菌)、腫瘍、および運動障害(食道の運動亢進、アカラシア、びまん性食道痙攣など)、好酸球性食道炎などがあります。

縦隔炎の原因で最も多いのは食道穿孔(穴が開くこと)が原因となる炎症です。食道に穴が開く原因としては、食道がんや、食道異物(魚の骨や薬のシートなど)、外傷、内視鏡や手術などの医療行為、縦隔に対する直接外傷などがあります。
その他に頸部にできた膿瘍(うみ)や虫歯からの炎症が縦隔へ波及し出現する場合があります。食道に孔があくと、胸骨後方の激痛、悪寒戦慄(おかんせんりつ)、発熱が現れます。重症になると細菌が血液のなかに入り、敗血症(はいけつしょう)を発症する場合もあります。

縦隔気腫は高身長、やせ型の若年男性に多く基礎疾患のない特発性と二次性(食道破裂や気管支ぜん息など肺疾患)に分類されます。ぜん息発作、咳発作、おう吐、運動など胸腔内圧上昇時に発症しやすいのですが、誘因がないことも少なくありません。2大症状は胸骨後部の胸痛と呼吸困難で、咽頭痛、頚部痛、咳、嚥下障害、嚥下痛、吸気時痛のこともあります。

縦隔気腫の胸部レントゲン写真
図4縦隔気腫の胸部レントゲン写真

本院で経験した12歳女児の縦隔気腫の胸部レントゲン写真です。(図4)運動中に急に左胸部から前胸部の痛みを生じました。聴診上は心膜摩擦音に似た過剰音が聴取され、心エコーを試みましたが気腫のためまったく描出できないという特徴がありました。胸部レントゲンでは矢印で示したような異常影が認められました。

5)亜急性甲状腺炎や再発性多発軟骨炎

甲状腺の部位(首の前)に痛みを感じるときには亜急性甲状腺炎を疑います。痛みは、あくびをしたり首を伸ばしたりするとちょっと痛いといった程度のものから、少し首に触っただけで飛び上がるほど痛いといったものまでがあります。甲状腺は硬くはれて、押すと痛みがあります。また、痛い場所が左右に移動することがあります。熱は、微熱から40℃近い高熱が出ることまであります。

再発性多発軟骨炎はまれな病気ですが、気管軟骨に炎症を起こすと頚部痛や気道閉塞を起こすことが知られています。

6)肋軟骨炎

肋軟骨炎が原因と考えられる前胸部痛はしばしば経験します。これは片側の肋骨に起こる肋骨肋軟骨接合部または胸肋関節の炎症です。上半身の動きや深呼吸で強まる胸痛で体の動きを静めると痛みも和らぎますが、安静時にも何かのひょうしに急に痛みが起こることがあります。普通は鋭い痛みですが、鈍い痛みや、圧迫感だけの時もあります。
一般に第2肋骨から第5肋骨に起こりやすく、片側に起こることがほとんどです。痛みは一箇所に限局していて、その場を圧迫すると強い痛みを感じます。疼痛部の発赤や腫脹はみられません。

帯状疱疹という湿疹が起こる数日前から、肋骨に沿って電気の走るようなピリピリとする痛みを感じることがあります。背中から側胸部、前胸部に、一見ニキビに似た湿疹が出てくると帯状疱疹の可能性が高くなります。

7)喉頭異物症

のどに異常感を感じても、耳鼻咽喉科の診察では訴えに見合う病変が喉頭に認められない状態です。痛みではなく、異物感すなわち喉頭(のどの奥)に物がつかえたような感じを指します。

詳しくは本院のHPをご覧下さい。

8)急性白血病

急性白血病の臨床症状は発熱、貧血、出血症状の順に頻度が高いですが、成人白血病の3.9%、小児白血病の13.9%で骨・関節症状を認めることがあり、急性骨髄性白血病に比べ急性リンパ急性白血病で見られやすいことが知られています。

大人では骨髄の脂肪髄の比率が高いため、小児に比べて骨病変の頻度が低いと考えられていますが、小児と同様に骨・関節症状で発症し、末梢血に異常のない場合もあり注意が必要です。

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