こりによる痛み・しびれは、おもに頭痛と背部から首すじの痛み・しびれに分けることができます。
頭痛は、「4.肩こりと頭痛」にゆずることにして、ここでは背部と首すじ、腕や手指の痛み・しびれについて述べることにします。
背部や首すじの痛みは肩こりだけではなく、頚椎症や五十肩、背筋の断裂・肉離れなどさまざまな原因で起こることがあります。
痛みやしびれが強い時には整形外科医の診察が必要になりますが、原因が軽視され誤って診断されることがあります。そのような事態を避けるためにも専門医の診察を受けることが望まれます。
ときに痛みや腕や指先のしびれは耐え難いもので、夜に上を向いて眠ることができなかったり、かろうじて楽な姿勢をみつけてやっと眠りについても痛みのために目を覚ますこともしばしばあります。
寝ていても腕の位置によっては、初めは楽でも徐々に背中や腕にかけてえぐられるような痛みを感じるようになります。数十メートル歩いただけでも背部や肩甲骨部に激痛を生じて立ち止まるほどです(筆者の経験)。
ふつうはこれほどの痛みを起こすことはまれですが、痛みの強さは腕の位置によって変化する特徴があります。また、首をそらすと痛みが誘発されるため、理髪店で洗髪の際に仰向けに寝ることができません。
肩こりが原因の時はこれほど強くならないにしても、背部や肩甲骨部の痛みや腕のしびれを起こすことはしばしばあります。背部や肩甲骨部の痛みを起こす原因については次のように考えられます。
肩こりは、僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋、項部筋群(図1、図2,図3)などのこり(筋緊張)が原因で起こる不快感ですが、背部には頚髄からでた神経の枝が走行しています。これらの神経の筋肉の中を浅く走っている所では、筋肉のこりによって神経が圧迫されるようになります(圧痛点)。
①僧帽筋(そうぼうきん)、②菱形筋(りょうけいきん)、③棘下筋(きょくかきん)、④頭半棘筋(とうはんきょくきん)、⑤頭・頚板状筋(とうけいばんじょうきん)、⑥肩甲挙筋(けんこうきょきん)、⑦棘上筋(きょくじょうきん)
代表的な圧痛点は、棘下筋部、肩甲間部、僧帽筋部、肩甲挙筋部にあります(図4)。この部分を中心にして痛みを感じやすくなるわけですが、これらの圧痛点を押すと刺すような痛みを感じます。
⑧頭板状筋(とうばんじょうきん)、⑨頚板状筋(けいばんじょうきん)、⑩肩甲挙筋(けんこうきょきん)
脊柱管内壁の知覚神経は脊椎-洞神経と呼ばれます(図8)。脊椎-洞神経は脊髄神経から枝分かれし、交感神経(自律神経の一つ)からの枝と合わさった後に椎間孔から脊柱管内に分布します。
この神経は、加齢による椎間板の変性による刺激をキャッチして脊髄に伝達して、肩甲骨周囲の筋肉を反射的に収縮させるだけでなく、肩甲骨間に痛みやしびれを生じる点で肩こりと深い関係があると考えられます。
脊椎-洞神経は1本ではなく、それぞれ脊椎レベルに応じて神経がでています。傷害を受ける脊椎レベルにより痛みの場所が少しずつ違います(図12) 。
脊髄後枝内側枝は神経根から脊髄神経を枝分かれした後にすぐに出る神経で、椎間関節に分布しています(図9) 。椎間関節に起因する関連痛を肩や背中に放散痛として伝える神経です(図13) 。
これら123の各神経の関与により背部や肩甲骨間の痛みやしびれが起こってきます。
肩こりや背部痛が強くなると、肩から腕、指先にかけて痛みやしびれを起こすことがあります。頚椎が原因で痛みやしびれが腕に広がる場合(放散痛)、上腕神経痛と呼ばれます。頚椎から出て上腕部に分布する神経の束を上腕神経叢(そう)といいます。
上腕神経叢の根本は神経根と呼ばれ、脊髄を出たすぐの所にあります。神経根は椎間孔という隙間を通っていますが、神経根がわずかに圧迫されただけでも腕や手指のしびれや痛みを起こします。これを神経根症状と呼びます(図7) 。
神経根の圧迫が軽い場合は炎症状態となり、腕や手先に痛みやしびれを感じます。神経根性疼痛といって末梢神経に沿った痛み、いわゆる神経痛(放散痛)を起こしてきます。頚椎部では後から話す上腕神経痛が、腰椎部では座骨神経痛や大腿神経痛が神経根症状です。
神経根症状の多くは、神経繊維そのものではなく、まわりを包む膜に機械的な炎症が生じる結果だといわれています。
頚椎レベルでの神経根症状は痛みのある側に首を傾けたり、後ろにそらせたりすると痛みが誘発されたり、痛みといっしょにしびれが出たり強くなったりする特徴があり、診断は容易です。
ふつうの首や背中の痛みとちがって、神経根圧迫による放散痛はえぐられるようにつらくなることがあります。夜に上を向いて眠ることができなくなったり、歩くときも手をおろしたままでは痛みのために歩けないほどです。
肩こりとともに起こる腕のしびれや痛みは、多少の差はあっても神経根症状と考えられます。注意すべきは、腕を後に回すことができないときや腕を肩の高さに挙げることができないときには、五十肩に代表される肩関節周囲の病変を考えなければなりません。
首すじのいたみは、頭痛を伴うことが多いのですが、頭痛については「4.肩こりと頭痛」で詳しく述べることにします。
後頭部に分布する神経としては、第一頚椎と第二頚椎の間からから出て後頭部に分布する大後頭神経があります(第二頚椎神経)。この大後頭神経が圧迫されたり、頚部に広く分布している自律神経が刺激されると後頭部痛(大後頭神経痛)を生じます。
後頭部に電気が走るような痛みを感じたり、髪の毛をさわるとビリビリするのは大後頭神経の刺激症状です(図10) 。
後頭部痛のほかに、首筋の痛みや肩こり、さらには頚椎周囲の豊富な交感神経(自律神経のひとつ)を刺激する結果、めまいや不安感、頭重感など多彩な不定愁訴を合併することがあります。
肩こりに付随した痛みやしびれの多くは、頚椎の加齢現象、つまり椎間板や椎間関節がすり減って、頭の重さを支えるストレスに耐えかねた症状であったり、椎間板ヘルニアや椎体の変形によって背中や腕に分布する神経が刺激されているために起こってきます。
頚椎からくる痛みの多くは、頚部から背部の痛みや背部から肩の方に広がる痛み(放散痛)です。首を前に曲げたり、後にそらせたり、首を左右どちらかに曲げたりするとそこに痛みを感じる特徴があります。こうした現象があれば頚椎に原因した背部の痛みであることが分かります。
痛みやしびれが腕から指先にまで広がる放散する上腕神経痛を伴っていれば、頚椎レベルでの神経根症状が考えられます(図7) 。
肩こりによる神経根症状は、神経根に加わった刺激による一時的な炎症に寄ることが多いため、多くの場合2~3週間経つと自然に良くなることがほとんどです。それ以上続く時には、頚椎や脊髄レベルでの別の原因を考えなくてはなりません。
急に起こってくる肩こりの代表は「寝ちがえ」です。突然、首すじや肩に激痛が走り、首を動かすことができなくなる症状で、多くの人が経験したことがあるでしょう。
睡眠中は起きている時に比べて、筋肉の緊張をほぐす体の動きが少ない上に、枕の高さと敷き布団やベッドの硬さが体に合っていないと、脊椎の正常なS字状のわん曲が崩れてしまいます。こうした頚椎に不自然な力がかかり続けると、頚椎の関節に周囲の組織がはさまって、痛みが引き起こされると考えられています。
中年に近づくにつれて、朝起床する時に体がだるく感じたり、腰が痛んだり重く感じることがあります。腰だけではなく背中にも同様の症状を起こすこともあります。
睡眠中には体をあまり動かさないため関節や筋肉が硬くなってしまうためや、明け方には炎症や痛みを朝エル作用のある副腎皮質ホルモンが減少しているためとも考えられます。
肩こりの強い人はしばしば体が朝だるくて起きづらい、頭が重い・頭痛がする、昼間でもまぶたが重く、眠たい感じがすると訴えられます。
肩こりが強いと肩や背中の筋肉だけでなく、からだ全体の筋肉が硬くなりがちです。これはからだ全体の筋肉が睡眠中には体を動かさないために、より硬くなってしまうためと考えられます。起きて体を無理でも動かしていると、しだいに筋肉はほぐれて楽になってきます。
このような症状を改善するためには、枕やベッドや敷き布団を工夫することも大切ですが、夜寝る前にゆっくりとストレッチ体操をして体をほぐしてから寝ることが大切です。
女性のなで肩の人は第一肋骨が水平ではなく斜めになっていることが多く、鎖骨との隙間が狭くなっています。このため腕から手先を栄養している血管とともに上腕神経叢(そう)も圧迫されやすくなります。これを胸郭出口症候群といいます。
上腕神経叢は神経の太い束で、肩からわきの下、腕にかけて走り、先に行くに従って細く枝分かれし、指先にまで達しています。このため上腕神経叢に受けた刺激は、神経を通って肩から指先にかけての広い範囲にわたり伝わり、さまざまな所に症状が出てきます。
腕や手の指の先がしびれたり、重だるく冷たく感じたり、腕を高く保つとよけいにこれらの症状が悪化しやすくなります。胸郭出口症候群では肩こりも起こりやすくなります。上腕神経叢だけでなく、そばを走っている血管も圧迫されると、手先が冷たい・指の色が悪い・指先がしびれるなどの血行障害が引き起こされます。
手のひらの感覚を伝える神経は、手首のところで手根管症候群と呼ばれる狭いトンネルをくぐり抜けています。このトンネルの中で、神経が何らかの理由で締め付けられて起きるのが手根管症候群です。
肩こりによるしびれとは無関係に起こるものですが、指先のしびれを起こす点と頻度の多さからこの手根管症候群は忘れてはならないものです。