日常の外来でふつうにみられるめまいは、ぐるぐると目が回るような回転性めまいとふわふわする動揺性めまいに分けて考えると便利です。 (図1)
回転性めまいは目を開けていると周囲がぐるぐると回転するようなめまい、目を閉じていても渦の中に吸い込まれるようなめまいとして感じられます。 回転性めまいが強いと起き上がることも困難になりますが、軽度のめまいでは上や横など一定の方向に頭を動かしたときに数秒間ぐるぐる回るめまいを生じます。
回転性めまいの多くは内耳、とくに前庭機能(三半規管)に関係して起こるものです。また小脳の出血や脳梗塞でも回転性めまいは起こります。 椎骨脳底動脈循環不全によるめまいは、回転性で数分間持続することがあります。
動揺性めまいはふわふわする感じのめまいです。歩いていても雲の上を歩いているようなふわふわして宙に浮いたような感じがしたり、船酔いしたときのようにまっすぐに歩いているつもりでも片一方に寄ってしまいそうになります。また椅子に腰掛けていてもフーと吸い込まれるように感じることもあります。
肩こりに関係しためまいはふわふわする動揺性めまいで、肩こりや首のこりに関係が深いため「頚性めまい」という呼び方もあります。動揺性めまいの中にはゆるやかに進行する脳神経の病気が原因のこともありますが、この場合にはめまい以外にも神経症状-歩行障害などの運動機能障害、失調症など-がみられるようになり、健康人の動揺性めまいとの区別は比較的簡単です。
中高年者で急にめまいが起こってきたときには常に脳卒中(脳梗塞、脳出血)を考えなければなりません。ふつう脳卒中では手足の運動障害や発語障害など他の神経症状を伴うことが多いのですが、小脳や脳幹部の脳卒中ではまれながらめまいだけが主症状というものもあります。
この場合でも軽度の運動障害や失調症を見逃している可能性もありますが、中高年者のめまいでは脳卒中も考慮し、脳CTやMRIを行う必要があります。
内科の病気が原因で起こる動揺性めまいも多くあります。貧血、多血症、高血圧症、低血圧症、糖尿病、甲状腺機能低下症などが挙げられます。治療薬剤が原因でめまいを起こすこともあります。とくに高齢者では多種類の薬を服用しているために、副作用としてめまいを起こす危険性があります。
高齢者では下肢(足)の深部覚(鈍い痛みやバランス感覚に関係した知覚神経の一つ)と視覚機能が低下してきて、耳の前庭機能(三半器官による平衡感覚)も加齢に伴って低下することにより平衡感覚が正常に維持できず、歩行時のふらつきをめまいとして訴えることがあります。
(図1) 肩こりによるめまいの特徴としては、なにかの動作をしようとしたときとか、無意識にでも首の位置が変わったひょうしにフラッとしやすいとか、歩いているときにふわふわして足が地につかないような感じや、まっすぐに歩くつもりでも片一方に寄ってしまうように感じるめまいです(動揺性めまい)。天井がぐるぐる回るといった回転性めまいはあまり多くはありません。
肩こりから起こる動揺性めまいの原因として次の三つが挙げられます。
首のまわりの筋肉がこってくると(緊張)、刺激を受けやすい状態となります。その緊張による刺激が脊髄を通って反射的にさらに筋肉の緊張と血流障害を引き起こし、それらがめまいを起こすという考えです。
また首すじの筋肉のこりが強くなると、連鎖反応で頭周囲の筋肉も緊張しやすくなります。帽子をかぶったように頭の周りを締めつけられるような頭重感を感じるようになります(緊張型頭痛)。こうなると船酔いしたときのように、吐きけがしたりふわふわしためまいを感じます。
首すじや肩のこりが強い人が、ふわふわするようなめまいを感じることがあるのは、これらが組み合わさった結果と考えられます。
頚椎の周囲には交感神経という自律神経が豊富に分布しています。首筋のこりとともに交感神経が刺激されて自律神経のバランスがくずれ、めまいを起こすという考えです。
頚椎周囲の交感神経が、めまいの発症にどの程度関与しているかは正確には分かっていません。しかし、追突事故で頚椎ねんざを受けた人が時として訴えるめまい(バレ-リュウー症候群として知られています)からも、交感神経との関連が示唆されます。
◆バレ-リュウー症候群とは…
事故後三ヶ月ほどで良くなるはずのむち打ち症が、それ以上経過してもよくならずに、次のような自律神経系の障害を起こすことがあります。症状としては、めまい、頭痛、耳鳴り、発汗、眼精疲労、顔面紅潮、季節の変わり目の体調不良などです。
頚椎周囲の交感神経の刺激症状と考えられますが、こうした症状が長期にわたり続く原因はまだよく分かっていません。バレ-リュウー症候群になると精神的な落ち込みもみられ、より一層複雑な症状を示すようになります。
頚椎の横、正確には「横突起孔」という穴の中を「椎骨動脈」という脳の重要な一部を栄養する血管が通っています。横突起孔が椎骨にできたトゲのために狭くなると、椎骨動脈が圧迫されます。圧迫されなくても刺激を受けるだけでも椎骨動脈は反射的に細くなります。
こうして脳の一部(脳幹部という重要な部分)の血流障害が起こります。「椎骨脳底動脈循環不全」として知られています。
めまいは首の位置を動かすと起こりやすくなる特徴があります。首をある位置に動かすと骨のトゲによる圧迫や刺激が強くなり、めまいを起こしやすくなりますが、良い位置に首を保つとめまいは楽になります。
洗濯物を干すため、高いところにあるものを取ろうとして上を向いた瞬間にめまいを起こしたり、散髪などで首をそらした時に、回転性めまいを数分間生じます。血流障害がひどいと意識を失うことさえあります。
60~70歳代以降のとくに男性で、首筋が重くなりふわふわとした頑固なめまいを訴えることがあります。決まって脳卒中を起こさないかという不安感を強く訴えられます。年齢的に脳動脈硬化が疑われる上、MRIでは白質にラクナという小梗塞巣が散在しているため、脳梗塞とも椎骨脳底循環不全とも診断されることが多くあります。
このような方の多くが、首筋から後頭部にかけての筋肉のこりと頭重感を訴えられます。しかし、このシリーズの始めに肩こりはこのくらいの年齢になると、頚椎の老化のためにかえって頚椎が固定される結果、肩こりが軽くなるいう話を述べました。
高齢者と肩こりは矛盾することになりますが、頚椎の変形が椎骨動脈の循環不全や頚椎周囲の交感神経の刺激、首すじのこりなどと関係し合って、高齢者の頑固なめまいを起こすのではないかと推測されます。薬剤などで治りにくい上に、血圧の変動、倒れないかという不安感などと重なって、たいへんやっかいなめまいです。しかし時間にたつにつれ自然によくなる特徴があります。
メニエールというとめまいの代名詞のように考えられがちです。しかしメニエール病といわれるめまいは、耳閉感(トンネルに急に入ったときの耳の詰まる感じ)が先行して、次に耳鳴り、聴力低下に続いてめまいが数時間から数日続き、そのときに自発眼振(かってに目が左右、上下に揺れ動く現象)がみられる特徴があります。
典型的なめまい発作は回転性ですが、ふらつき感のような動揺性のこともあります。過労や睡眠不足、精神的なストレスが誘因になる場合が多いとされます。
めまいは内耳の前庭(三半規管)に関係した現象ですが、メニエール病で起こる耳閉感、耳鳴り、聴力低下といった症状は蝸牛に関係した症状です。最近の研究からメニエール病は聴力に関係した蝸牛の周囲の内リンパ水腫(むくみ)が原因と考えられ、その結果もたらされた神経毒が、蝸牛神経と前庭神経を刺激する結果、メニエール病のめまい・難聴発作を起こすと考えられています。
一般的にみられる回転性めまいは、良性頭位変換性めまい(BPPV)といわれるものです。夜中や朝起き上がったとたんにぐるぐる回るめまいを生じるものです。目をつむってじっとしているとめまいは軽くなりますが、頭を動かすとめまいを生じます。
めまいが激しいと起きあがることは困難ですが、半日から一日たつと起きあがれないほどのめまいはなくなります。しかし、決まった方向に頭を動かすと数秒間~1分間くらいのめまいが続くことがあります。
良性頭位変換性めまい(BPPV)はメニエール病とよく混同されますが、蝸牛随伴症状(耳閉感、耳鳴り、難聴など)はありません。このことは良性頭位変換性めまい(BPPV)が純粋に前庭に関係しためまいであることを示しています。前庭は三半規管と呼ばれるように体のバランスを感じるセンサーを三方向に有しています。このセンサーの働きが一時的にうまく作用しなくなると一定方向に頭を動かしたときにめまいを感じるようになります。
三半規管に関係しためまいは、体をぐるぐる回すと誰でも感じるあのめまいと同じです。センサーの働きが狂って体をぐるぐる回さなくても、少し頭を動かしただけでめまいが起こるようになったと考えると理解しやすいでしょう。
外来でみられる回転性めまいのほとんどが良性頭位変換性めまい(BPPV)です。メニエール病と混同されることがありますが、本来のメニエール病は比較的めずらしいめまいです。良性頭位変換性めまい(BPPV)という呼び名はむつかしく、一般の間ではめまい=メニエール病となってしまいました。メニエールにこだわるのなら、メニエール症候群と呼ぶほうがよいでしょう。
良性頭位変換性めまい(BPPV) がおさまった後にしばらくの間、歩行時にふわふわする動揺性めまいが続くことがあります。このめまいは肩こり、首のこりに関係しためまいと考えられます。