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内科から見た肩こり

6.肩こりと更年期

1)更年期障害とは

更年期は閉経とともに起こる女性が避けて通れない時期を指します。
ふつうは40歳後半から50歳前半に当たり、いわゆる更年期障害といわれる多彩な症状を伴います。

更年期障害は年齢とともに、卵巣の働きが低下して卵巣ホルモン(とくにエストロゲン)が少なくなり、やがて枯渇することによって起こってきますが、その程度には個人差があります。病気のために卵巣や子宮を摘出するともっと早い時期に更年期障害と同様の症状が起こることがあります。

いわゆる更年期障害には、

  • ① 更年期症状(自律神経のバランスが崩れて起こる、ほてり・のぼせ・動悸・肩こりや不安感など、
  • ② 骨そしょう症の進行、
  • ③ 血液中のコレステロールの上昇、
  • ④皮膚の老化や膣からの分泌液の低下 

などが含まれます。
このうち卵巣ホルモンの低下が直接に作用して起こる現象は、②・③・④に挙げた変化です。更年期症状の代表ともいえる①の症状は、卵巣ホルモンの低下の結果、脳とくに視床下部と呼ばれる自律神経の中枢(命令を出す司令室)が機能異常を来して起こる現象です。

卵巣ホルモンや甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンなどの重要なホルモンは、体の必要に応じて細やかにその量や分泌時間が調節されるようにできています。
これらのホルモンを調節するホルモンは刺激ホルモンと呼ばれ、多くは脳下垂体から分泌されます。卵巣の働きが低下して卵巣ホルモンが少なくなると、脳下垂体からはFSHと呼ばれる刺激ホルモンが過剰に分泌されるようになります。
ちょうど作業現場で作業員(卵巣)が働かなくなると監督官(FSH)のがみがみという小言が多くなるのと同じです。血液検査ではFSHが異常に高くなると更年期と診断されます。

FSHなどの刺激ホルモンの多くは脳下垂体から分泌されます。
脳下垂体は脳底部にぶら下がっている空豆程度の小さな部分ですが、さまざまな刺激ホルモンや調節ホルモンを分泌する重要な働きを持っています。そのすぐ上には視床下部という自律神経の中枢(司令室)があります。
卵巣機能が低下して下垂体からの刺激ホルモンが過剰に分泌されるようになると、何らかの機序で視床下部も影響を受けて自律神経のバランスが崩れやすくなるものと推測されます。この自律神経のバランスの崩れが、更年期症状と呼ばれるものです。

2)自律神経失調症とは(図1)

【イラスト1】自律神経失調症とは
図1自律神経失調症とは

さてここで自律神経とはどんなものかみてみましょう。
その前に神経には痛みなどを感じる知覚神経、筋肉を動かすための運動神経があり、脊髄を通って脳へ刺激のやりとりが起こっていることはすでに説明しました(1.肩こりに必要な知識)。自律神経は意識的に神経の働きを調節できないという意味から自律神経と名が付けられたように、自分で意識することの少ない神経ですが、体の中で実際に指し示すことができる実存の神経です。

自律神経には2種類あり(交感神経と副交感神経)、お互いにバランスを保って生命機能を維持しています。
自律神経の働きは、血圧・血流・心拍数の調節、消化管の運動の調節、発汗や瞳孔の調節、消化管ホルモンの調節などさまざまな範囲に及びます。一般に交感神経はこれらの働きを強める興奮作用に関与し、副交感神経は働きを弱める鎮静作用に関与しています。

ふだんはこの2種類の神経がうまくバランスをとっているために、自律神経の働きを意識することはありません。運動中など体の必要に応じて交感神経が緊張して血流や心拍数を増加させたり、食事中に消化管運動が良くなり消化液やインスリンが分泌され消化や血糖調節を助けるなどは自律神経の重要な働きです。
しかしストレスや睡眠不足・運動不足・不安感などが重なると、交感神経も緊張した状態が持続するようになります。慢性的なストレス状態では緊張感に慣らされてしまう結果、自分がストレス状態にあるとか緊張状態にあるとかが必ずしも自覚できなくなります。
しかし慢性的なストレスでは常に交感神経は緊張した状態にあるわけで、このような状態下ではいろいろなストレス病や生活習慣病が起こりやすくなります。

3)更年期症状の起こる原因

更年期では今までに述べたとおり、脳下垂体の刺激ホルモンの過剰分泌に伴い、視床下部の自律神経中枢が刺激されやすい過敏な状態にあると推測されます。そのため更年期ではささいなきっかけで交感神経の刺激症状が起こりやすくなります。
更年期症状と呼ばれる症状(ほてり・のぼせ・発汗・動悸など)のほとんどは交感神経の刺激症状です。交感神経の刺激は血圧上昇や心拍数の増加を伴います。このようなときに血圧を測ると著しい高血圧のことがあり、不安感に拍車をかけることになります。

更年期症状の発現には個人差があります。個人差の原因は明らかではありませんが、その人の体質や素因にも関係しているのではないかと考えられます。
汗かき、赤ら顔、小太りの人、感情表現の豊かな性格、せっかちな人、神経質な性格などは更年期の前から交感神経が緊張しやすい状態と推測され、このような人に更年期症状が出やすいのではないかと考えられます。
そうでなくても何かのきっかけで更年期症状を強く自覚した結果、不安感が強くなり、神経症的な悪循環に陥ってしまうことも原因の一つと考えられます。

4)肩こりと更年期(図2)

【図2】 肩こりと更年期
図2肩こりと更年期

更年期症状の強い人は肩こりで悩んでいる人が多いようです。自律神経と肩こりの関係は明らかではありませんが、むち打ちの時にみられるバレ・リュウー症候群で関与が指摘されています(5.肩こりとめまい)。

交感神経の緊張の結果、血管や筋肉が収縮しやすくなり血液循環が悪くなります。血液循環が悪いと筋肉に疲れの物質がたまりやすくなり、肩こりが起こりやすくなると考えることもできます(1.肩こりに必要な知識)。 

肩こりと自律神経が直接に結びついているとは考えにくいものの、更年期やストレス、不眠、不安感、神経質な性格などは自律神経に直接的に結びついています。このような状態では筋肉は常に緊張して硬くなり、肩こりを起こしやすくなったり、不安感を強くして肩こりの悪循環を起こしやすくなります。

更年期では肩こりが強いと肩や首筋が重くなりふわふわしためまいを生じやすくなります。血圧を測るとびっくりするような高血圧を示すことがあります。そうすると脳卒中を起こすのではないかと不安感が強くなり、よけいに交感神経が刺激されて、動悸や高血圧が助長されるという悪循環を起こることがあります。
筆者はこのような更年期特有の血圧上昇を「更年期高血圧」と呼んでいます。血管拡張作用の強い降圧薬を使うとよけいに動悸やほてり、頭痛が強くなることがあり、降圧薬の選択には注意を要します。むしろ抗不安薬や自律神経調整薬が有効なことがあります。

更年期の肩こりに抗不安薬や自律神経調整薬を処方すると、更年期症状だけでなく肩こりも良くなることがしばしば経験されます。抗不安薬の筋弛緩効果もありますが、自律神経と肩こりには何らかの関与があるようです。

5)男性の更年期障害

最近になり男性にも更年期障害があるという考え方が一般的になってきました。女性ほどドラマチックな症状や体調の変化はみられませんが、うつ症や性生活の障害にもつながることもあり注意が必要です。

男性も20歳代をピークに男性ホルモンは徐々に少なくなります。男性ではこのような変化は緩やかで特別意識されることは少ないようです。
しかし40~50歳代に仕事上や家庭内のストレスや環境の変化がきっかけで急に男性ホルモンが分泌されにくくなることがあります。その結果、起こってくる自律神経障害が「男性の更年期障害」と考えられるようになってきました。 

更年期に見られる症状は女性も男性もあまり変わりませんが、男性には性欲減退やインポテンス(勃起障害)が見られます。また、女性はほてりやのぼせが多く見られますが、男性は疲労感や睡眠障害、不安などの症状が多い傾向があります。
仕事や家庭のトラブルやストレスがきっかけのことも多いために、うつ症に陥り自殺願望が強くなることもあります。多くの責任を背負い込んだ男性への周囲の理解と専門医の治療が必要になります。

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