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溶連菌迅速診断法が広く外来で利用されるようになり、猩紅熱(しょうこうねつ)・咽頭炎・扁桃腺炎の早期診断が容易になりました。
最近の小児感染症が激減する中で、溶連菌感染症は5~6年ごとに流行のピークがあり、減少の傾向はみられません。
かつては死亡率が高かったために、法定伝染病に指定されて猩紅熱(しょうこうねつ)と呼ばれていました。
最近は抗生物質による治療により症状が3~4日で消え、見かけ上は治ったようになります。
このため、猩紅熱(しょうこうねつ)という診断名の使用を避けて、法的な規制を受けない溶連菌感染症という病名で治療することが多くなっています。
溶連菌感染症や咽頭炎は飛沫感染、家族内、教室内感染により起こります。
汚染された食品を通じて咽頭炎の集団発生をみることがあります。
皮膚感染は接触で起こり、虫刺・湿疹・外傷などで皮膚が損傷されていると膿痂疹(とびひ)が起りやすくなります。
潜伏期間は咽頭炎では2~3日、膿痴疹(とびひ)では7~10日程度です。
治療しなければ,抗体は感染後3週目に出現し長年持続します。
発病初期に抗生物質が投与され溶連菌が早期に治療されると、十分な抗体産生(免疫)が得られないとされています。
つまり再感染することがあります。
好発年齢は2~10歳、ピークは4~6歳です。
発生は年間通じて認められますが、流行のピークは初冬の11~12月で、次いで1月中旬から3月中旬、5~6月に山があります。
発熱と咽頭痛を生じて来院されます。臨床診断の要点は次の3つです。
(1) 扁桃・咽頭・口蓋垂の発赤や浸出物
(2) 口蓋垂を中心とした点状のろ胞状紅斑や出血斑
(3) 猩紅熱(しょうこうねつ)様発疹
主訴に(1)を認めた時,溶連菌である可能性は15~30%といわれます。
70~85%を占めるその他の病原体は、アデノウイルスを筆頭に、コクサッキー、エコー、バラインフルエンザ、インフルエンザ、単純へルペス,EBなどのウイルスが挙げられています。
浸出物は,溶連菌性咽頭炎の70%、ウイルス性咽頭炎の65%に認められるといわれます。(1)に(2)が加われば溶連菌の確率は90%に達します。
(1)(2)に(3)の発疹が加わったケースでは95%に溶連菌症と診断できます。
発疹は発病1~2日日に出現します。
体や下腹部・大腿上部内側に始まり、やがて全身に直径1~2mmの発疹の集合した紅斑様の、いわゆる猩紅熱(しょうこうねつ)様発疹がびまん性に広がります。
近年は典型的な発疹を全身的に示す例が少なくなり、初発部位のみの局所的発疹にとどまる例が多くなる傾向が年々強くなるように思われます。
いわゆる発赤毒素に対する免疫の獲得によるものと思われます。
典型的な例では中毒症状が強く発現し、高熱、おう吐、腹痛をきたします。
発病3~4日日にはイチゴ状舌や口角炎、急性期が過ぎると、手足の指先から始まる落屑(らくせつ:皮膚が日焼けの後のようにむけていくこと)が認められます。
発疹の他に頸部リンパ節の有痛性腫脹がしばしば認められます。
1~3歳では、微熱、鼻炎、咽頭炎、副鼻腔炎、中耳炎の症状しか示さないこともあり、注意を要します。
最近は発熱1~2日で、症状が定型的でない時期に来院することが多くなっていますが、抗原迅速検査の普及で診断が容易になっています。
咽頭ぬぐい液を採取して5~10分で診断できるキットが数社から市販されています。
感度は85~95%、特異性は90%以上、偽陽性2%と評価されています。
偽陰性が10%前後あるので、結果が陰性でも臨床症状から本症が疑われる場合には、必ず咽頭培養を行うべきです。
血液寒天培地を使っての咽頭培養は溶連菌感染を確定する最も満足な方法です。
ただし健康保菌者がウイルス性咽頭炎を起こした時の偽陽性例や、抗体上昇で確認された溶連菌症でも初回の培養が(-)であったという偽陰性例もときに存在します(10%以内)。
急性期と回復期のASO値、ASK値、抗DNase B抗体は最近の溶連菌感染を確かめることができますが、発病初期診断には向きません。
家族内に発生をみた時、家族内の咽頭培養が望まれますが、症状が軽いと応じる家族は少ないのが実際です。
家族の一人に溶連菌感染症が明らかになったら、他の家族にも咽頭培養や抗原迅速試験を行い、陽性の時には10日間治療すべきという考えもあります。
その理由として、非流行期でも兄弟姉妹の感染率は25%と親より高いこと、流行期には親の20%、兄弟姉妹の50%は感染し、その半数以上は発症すること、感染して無症状であっても、その後、腎炎やリウマチ熱などの合併症を惹起する可能性が残されていることなどによります。
治療によって下熱が確められるまで禁じます。
ふつう1~2日後に下熟することが多いです。
本症が多発した時は、その状況に応じて予防服薬がすすめられます。
発病初期治療により抗体産生が得られないためと、抗原迅速検査や咽頭培養の普及により、反復感染例がしばしば観察されるようになっています。
リウマチ熱や腎炎が発生している地域には、合併症の二次予防のための投薬がすすめられることもありますが、合併症の発生が10年以上認められないところでは、必ずしも必要でないと考えられます。
わが国の医療レベルからみて治療不十分による合併症はまれです。
腎炎は、咽頭炎、猩紅熱(しょうこうねつ)ばかりでなく、膿皮症、膿痴疹(とびひ)からも流行的に発生することが広く知られています。
近年,血管性紫斑病との関連や、感染30日以内の一過性血尿も報告されているので注意しなければなりません。
そのため、発病2~4週後の尿検査が求められます。
1980年代半ばに、軟部組織の壊死、ショック、腎不全、凝固異常(DIC)を示し、致死率30~40%に達する疾患が欧米で報告されました。
A群溶連菌症は軽い疾患で抗菌剤が有効であり先進国ではもはや問題ではない、と考えられていたところに落し穴があったと警告されています。
溶連菌毒素による敗血症性ショックを呈するので、これまでのA群溶連菌感染症の概念とはかなり異なったものと考えられています。
劇症型A群レンサ球菌感染症(劇症型溶連菌感染症)は、急速に進行し、敗血症性のショックから多臓器不全を生じる重篤な感染症です。
国内では年間100~200人の患者が確認され、うち約30~40%が死亡しています。
マスコミなどで人食いバクテリアと報道されたことで、広く知れわたるようになりました。
劇症型型溶連菌感染症の大部分はA群レンサ球菌によって生じます。
侵入経路は約35%が皮膚、約20%が粘膜で、残りの約45%は部位不明です。
患者は糖尿病や心疾患などの基礎疾患のある高齢者が多く、若年者では外傷や針刺し事故がきっかけで発症する例がみられます。
咽頭炎や扁桃炎などの起炎菌であるA群レンザ球菌が、なぜ重篤な劇症型の感染症を引き起こすのか、これまで詳細は不明でした。
最近の研究からA群レンサ球菌の遺伝子に変異が生じることで、劇症型溶連菌感染症が引き起こされることが明らかになりました。
そして菌の遺伝子変異は一定の割合で起こるため、劇症型溶連菌感染症を起こす菌は常に発生している可能性が指摘されています。
ただし変異を生じた菌に接触したら、ただちに発症するわけではありません。
変異により菌の繁殖力は低下していることから、菌の侵入を助ける外傷や免疫力の低下などの条件がそろわないと、劇症型溶連菌感染症は発症しないと考えられます。
完治と合併症予防のために抗菌剤の10日間服用と、服用後と2~3週後の検尿が必要であることを、パンフレットなどを使ってコンプライアンスを得ることが大切です。
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