- 総合内科のアプローチ -
誰でも分かる「心電図の簡単な読み方」

3.心電図の読み方

さて、実際の心電図を見ていきましょう。

ここでは前ページで述べたP波・QRS波・T波から分かる心臓の病気についてもう少し詳しく考えます。

(1) P波の変化から分かること

P波の異常は心臓のスイッチ(洞結節)の異常!

P波は心臓のスイッチである洞結節を表しています。

P波があれば心房にある心臓のスイッチが入ったことが分かります。
P波がなくてR波が出ていれば、心房内のスイッチが入らなくて房室結節や心室から収縮の刺激が始まったことが分かり、洞結節に異常があることが分かります。

P波の形が変化している場合、スイッチは正しく入っていても、心房の中でスイッチの場所が移動していたり、弁膜症などで心房が大きくなっていることが推測されます。
しかしP波の形の変化はあまり重要でなく、P波があるかどうかがはるかに重要です。

pointP波を見つけるのが不整脈では最も重要!

不整脈については後に詳しく述べることにします。

(2) P波からQ波までの時間から分かること

P波からQ波までの時間(PQ時間といいます)は、スイッチが入ってから電気が心室に入るまでの時間を表しています(図1)
心室の直前には房室結節がありますが、房室結節は電気の通り道にあり予備スイッチの働きを持っています。

point pointPQ時間は電気が洞結節から房室結節まで流れる時間!

P波からQ波までの時間(PQ時間といいます)は、スイッチが入ってから電気が心室に入るまでの時間を表しています。
図1PQ時間

PQ時間が延長しているときは、心房から心室までの電気の通りが悪くなり、時間が長くかかることが分かります(これをPQ時間延長とか第 I 度房室ブロックといいます)(図2)

PQ時間延長の心電図 PQ時間が延長しているときは、心房から心室までの電気の通りが悪くなり、時間が長くかかることが分かります
図2PQ時間延長の心電図

PQ時間が短縮していることもあります。
電線の中をふつうよりも早く電気が流れることはないため、この場合別な電気の通り道(バイパス)を通って時間が短くなっていると考えられます。

(3) R波の高さの変化から分かること

R波は心臓が収縮するときの電気の流れですが、R波が高いときは電気の流れる力が強いとき、すなわち心肥大(左室肥大)の疑いがあることを示しています。

肥大した心筋は虚血を伴います。典型的な左室肥大は後に述べるように、①R波増高に、②虚血性ST-T変化を伴うようになります。(図3、4)

R波増高は左室肥大の疑い
図3R波増高は左室肥大の疑い
左室肥大の心電図
図4左室肥大の心電図

R波の贈高だけで、虚血性ST-T変化を伴わない場合は「左室肥大の疑い」と診断します。

point pointR波が高いときは心肥大(左室肥大)の疑い!

(4) QRS波の幅から分かること

QRS波の幅が大きく変化するのは、心室の中の電気の流れが悪くなり、時間が長くかかるときです。
①脚ブロックと、②冠動脈硬化により強い心筋の血流障害(これを心筋虚血といいます)の2つがおもな原因です。

①脚ブロック

脚ブロックでは電線である右脚や左脚の電気の通りが悪くなるために幅が広くなります。
左脚ブロック右脚ブロックがありますが、特徴的な形から区別は容易です(図5)

右脚ブロックと左脚ブロック
図5右脚ブロックと左脚ブロック

右脚ブロックはごく普通にみられるものでほとんど心配ありません(図6)

完全右脚ブロックの心電図
図6完全右脚ブロックの心電図

しかし左脚ブロックは動脈硬化などによる心筋障害が原因で起こるもので、病的な意味を持ちます(図7)

左脚ブロックの心電図
図7左脚ブロックの心電図

②心筋の血流障害

高度の動脈硬化により血液の流れが悪くなり、心筋そのものが広範囲に障害を受けた場合もQRS波の幅が広くなります。
高度の心筋虚血では、Q波やS波の幅が広くかつ下向きに深くなるため、すべての誘導でQRS波の幅が広くなる特徴があります。

左脚ブロックとも右脚ブロックともいえないような、特徴的な心電図を心室内伝導障害と呼び、心筋梗塞に近い高度の心筋虚血を示しています。(図8)

心室内伝導障害の心電図
図8心室内伝導障害の心電図

心筋梗塞の発作が落ち着いた後に、特徴的な幅の広いQRS波が梗塞の部位に残ることがあります。梗塞を起こした冠動脈を推測することができます。
特に胸部誘導の広い範囲で幅の広いQRS波がみられる場合には、後遺症として強い心不全が起こります。(図9)

古い前壁心筋梗塞の心電図
図9古い前壁心筋梗塞の心電図

point pointQRS波の幅が広い時、脚ブロックか心筋梗塞(心室内伝導障害)!

(5) ST 部分の変化から分かること

ST降下

ST部分は小さな下向きのS波が水平に変わる部分を指します。
ST部分は水平な基線と同じレベルにあるのが正常です。
ST部分が基線よりも下がると心筋虚血を疑います。(図10、11)

ST降下の心電図
図10ST降下の心電図
正常時と狭心症発作時の心電図
図11正常時と狭心症発作時の心電図

動脈硬化が原因で起こる労作性狭心症の発作時にはSTが著しく下がり、発作が治まるともとの基線に戻ります。
心筋虚血や狭心症ではSTは水平か右下がりに下がります。
頻脈時などにみられる、右上がりのST降下は正常です。

point pointST降下は心筋虚血か狭心症の発作時!

ST上昇

ST部分が上がるのは、心筋梗塞の発作時がもっとも多いのですが、心膜炎のときもSTは上がります。
心筋梗塞、心膜炎のいずれの場合もSTは上がりますが、微妙に異なる形で上がるため慣れると区別は容易です。(図12)

ST上昇の心電図
図12ST上昇の心電図

狭心症の中でも冠れん縮性狭心症(異型狭心症、安静時狭心症などとも呼ばれます)ではST上昇が認められます。
冠れん縮性狭心症はおもに早朝に冠動脈がけいれん性に収縮することによって起こります。
早朝に胸部の圧迫感が30分から1時間かそれ以上の長い時間起こります。日本人には多いとされる狭心症のタイプです。

point pointST上昇は心筋梗塞の発作時、心膜炎を疑う!

正常でもSTが上がって見えることがあります。
T波が早く始まると、R波とT波が重なるためSTが上がって見えます。(図13)

健常者でのST上昇の例
図13健常者でのST上昇の例

(6) T波の変化から分かること

T波は収縮した心臓がもとに戻るときに(弛緩)できる波です。
心肥大や強い心筋障害があると、スムーズに弛緩できないためにR波だけでなくT波にも異常が出てきます。(図14)

T波の変化
図14T波の変化

平坦または陰性T波

ふつうT波は上向きですが、さらにとがって高くなったり(尖鋭化)、平坦になったり(図15)、下向きになったり(図16)すると異常です。

平坦T波の心電図
図15平坦T波の心電図
陰性T波の心電図
図16陰性T波の心電図

肥大型心筋症では巨大陰性T波と呼ばれる、ふつうよりも先鋭で大きな下向きT波がみられます(図17)
また、肥満傾向にある人ではT波が低くなる傾向がありますが、この場合は病的とはみなされません。

肥大型心筋症の心電図
図17肥大型心筋症の心電図

後から述べるように陰性T波にST降下が伴えば、狭心症の発作や心肥大、心筋虚血が疑われ、病的な意味が強くなります。

point pointT波が平坦、下向きの時は左室肥大や心筋虚血!

上向きで先鋭なT

次の場合には、T波が上向きでも先鋭になることがあります。

  1. 健常な若者
  2. 大動脈弁や僧帽弁の閉鎖不全症では拡張期に左室に多量の血液が逆流するため(容量負荷とか拡張期負荷といいます)、T波が上向きに先鋭になることがあります。(図18)
  3. 高カリウム血症(ふつう腎不全で起こります)でも先鋭T波が認められます。
  4. とくに重要なのは、心筋梗塞の発症直後に先鋭T波が認められることがあります。
左室容量負荷による尖鋭T波の心電図
図18左室容量負荷による尖鋭T波の心電図

point pointT波が上向きに先鋭のときは、急性心筋梗塞や高カリウム血症!

(7) QT時間の変化から分かること

QT時間は心臓の電気的収縮時間を表しています。
QT延長は、再分極(T波)が遅れて心臓の興奮が延長していることを示しています。
QTが延長すると心室細動という重篤な不整脈が起こりやすく、突然死の原因になります。

QT時間の評価は、正確には心拍数で補正されたQTc時間で行います。(図19)

QTc時間延長
図19QTc時間延長

学童検診ではQTc時間が450msecを超えると異常とされ、精査が行われます。

遺伝的なQT延長症候群は子どもや若者の突然死の原因になることがあります。
一部の人は生まれつき耳が聞こえませんが、約3分の1は何も症状はありません(後者をRomano-Ward症候群といいます)。

大人のQT延長症候群はある種の薬剤(とくに不整脈の治療薬など)の影響や電解質異常(低カリウム血症、低カルシウム血症)や著明な徐脈などで起こります。

point pointQT延長は突然死の可能性!

>>次のページで、心肥大の心電図変化について解説します。

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