私たちの心臓は平均して、一日10万回くらい拍動を繰り返しています。一日を通して心電図を記録してみると、健康人でも気がつかない間に、脈の乱れ(不整脈)を起こしていることは珍しくありません。
不整脈はさまざまな原因で起こってきますが、ふつう健康に過ごしている人の不整脈の多くは、心配ないと考えられます。不整脈の診断は、タイミングよく心電図に記録できると診断は簡単ですが、必ずしも心電図に記録できるとは限りません。
動悸の感じ方は、不整脈の種類によって特徴があるために、診察室に来られたときに詳しく動悸の様子を聞かせて頂くことは、診断の上にたいへん大切になります。
心臓を規則正しく動かす仕組みを簡単に述べてみましょう。心臓が動くためには、電気製品と同じように電気スイッチが入り、電流が心臓の中の電線(伝導路)を通してすみずみまで伝わる必要があります。
ふつう右心房の中に電気的なスイッチがあり(洞結節)、ここで生じた電気信号は心房内の伝導路を通った後に、心室内の伝導路を通って心筋全体に伝えられます(図1,2)。不整脈は、電気スイッチの異常や電線である伝導路の異常、心臓の筋肉の異常
などが原因で起こってきます。
もう少し詳しく不整脈の種類について述べてみましょう。動悸の感じ方は不整脈の種類によって異なるため、診断の手がかりとなります。不整脈には大きく分けると、(1)脈がとぶもの、(2)脈が速くなるもの、(3)脈が遅くなるもの、の3種類に分けられます(図3)。
脈がとぶ不整脈は、期外収縮と呼ばれます。期外収縮は何も感じない場合も多いのですが、動悸としては、ドキッと感じたり、のどが一瞬つまるような感じがしたり、時にはドーンと大砲が鳴ったように強く動悸を感じることがあります。
この不整脈は静かにじっとしているときに起こりやすいため、昼間よりも夜に静かにしているときに感じることが多くなります。期外収縮は洞結節の規則性が乱れた心房性期外収縮と心室内の電気的興奮から起こる心室性期外収縮とに分けられますが、動悸の感じ方からは両者は区別はできません。
一般的に不整脈は「量よりも質」が大切で、いくら動悸の数が多くても質が悪くなければあまり心配はありません。このような不整脈の「量と質」を調べるために行われるもっとも一般的な検査は、ホルター型心電図と言われる24時間にわたる携帯型心電図記録検査です(図4)。
脈が速くなる不整脈(頻脈)の中で日常多くみられるのは、洞性頻脈、心房細動、発作性上室性頻拍症です。特に後者の2つは、急に脈が速くなり、ドキドキするために苦痛と不安感が強くなり、自宅でがまんしていることは困難で、あわてて来られることもしばしばです。
洞性頻脈は私たちが緊張したときに感じる動悸と同じものです。脈が大きくドキドキと規則正しく打ちます。脈はやや速くなりますが、むしろ心臓が踊るような感じです。本来なら心配のいらないものですが、患者さんによっては強く不安感を与えます。
洞性頻脈は自律神経失調症などで起こることが多く、治療としては原因となっているストレスや不安感を軽くすることが効果的です(図5)。
心房細動は日常の診療でも多くみられますが、脈をとってみると脈が速いだけでなく、脈の強さに大小が感じられ、また脈の間隔が不規則で早くなったりやや遅くなったりバラバラです。
発作性上室性頻拍症は発作的に脈が毎分150~200近くうつため、たいへん苦しく冷や汗が出て、顔色も悪くなります。冷静に脈をとる余裕もないかも分かりません。脈がとんだり、脈が速くなると心臓が止まらないかと 不安感が強くなります。
しかし実際に危険なのは、自覚症状がなく急に失神発作を起こしたり、フッと気を失いそうになる場合です。これは次に述べる脈が遅くなる不整脈やある種の頻拍症で起こります。
脈が遅くなる不整脈(徐脈)は、心臓の電気的スイッチの不良や電気の通り道である伝導路の不良などで起こります。徐脈を生じる不整脈はいろいろありますが、徐脈が強くなると前ぶれなくフッとしたり、失神発作を起こすことがあり、たいへん危険です。
不整脈や動悸が気になって診察室を訪れるときに、1.ときどき脈がとぶ感じがあるかどうか? 2.脈が速いときは、だいたい毎分何回くらい脈があるか? 脈が規則正しいか乱れているか?発作的に脈が速くなったか? 3.フッとする感じや失神発作があったか? などをご自分でも注意して頂きたいと思います。心電図を記録しなくても、どんな不整脈かを予想できます。
不整脈に気がついても、ふだん健康に過ごしている大人では多くは心配はないでしょう。本当に危険な不整脈は前ぶれもなく、急にフッとしたり失神発作を起こすために、自分では不整脈が原因かどうかは分からないことがあります。
しかし不整脈は、高血圧や肺疾患、甲状腺異常、心臓弁膜症・心不全・狭心症などの心疾患があって起こる場合があります。このような病気は血液検査や心電図、胸部レントゲン、運動負荷心電図、心臓超音波検査、ホルター型心電図などで比較的容易に診断ができます。
不整脈というと何か、怖い印象を与えるようですが、きちんと検査を受けて調べてみれば、何の心配もなく治療も必要のない不整脈がかなりあります。動悸に気がついたら早期に診察を受けましょう。(図6)
町医者の「家庭の医学」⇒パズルで分かる不整脈もご覧ください。クイズに答えながら、自分で不整脈の診断ができます。