女性が更年期を迎える時期になると卵巣ホルモンであるエストロゲンの減少のために、コレステロールが上昇してきたり、骨粗鬆症が進行するなど、自分の気がつかないところで身体の変化が起こってきます。
とくに閉経直後から急速に骨量が減少し骨粗鬆症が進行するため、将来骨折などの問題を起こしやすくなります。このため閉経前後にホルモン補充療法を受けるよう勧められています。
一方では、更年期前後になるとさまざまな体調不良を感じるようになり、内科を受診されます。
更年期障害として顔のほてりや冷えのぼせなどを感じるようになると、肩こりも強くなって、頭痛やフワフワとしためまいを生じるようになります。
また、めまいや後頭部を重く感じるために、血圧を測ると著しく高くなっており、びっくりして医院に来られます。
このように更年期に入ると、ほてりやのぼせ、肩こり、どうきや高血圧が相互に関係して起こることが多く、私はこれを 更年期の三角関係 と呼んでいます。
こうなると倒れはしないかという不安感が強くなります。するとますます血圧が高くなり、肩こりやのぼせも強く感じられるようになり、どうきや不安感もいっそう増してきます。
こうした悪循環が、更年期の三角関係です(図1)。
卵巣ホルモンだけでなく、いろいろなホルモンはすべて脳からの命令で量が微妙に調節されています。長い間働き続けてきた卵巣も45歳頃から働きが弱くなり始め、50~52歳の間に多くの女性が閉経します。
こうして卵巣ホルモンが減少してくると、反対に脳からの命令ホルモンは少しでも卵巣ホルモンを出そうとして、逆に増えてきます。脳からの命令ホルモンのバランスがくずれると、隣接する自律神経のバランスもいっしょに
くずれてしまいます。
更年期障害の多くの自覚症状-ほてり、のぼせ、どうき、血圧の変動、不安感など-は自律神経のバランスのくずれの結果、生じてきたと推測されます。
こうしてみると、更年期の三角関係も自律神経のバランスという点からは、お互いに関係しあって連鎖反応で起こってくるものと理解されます。
婦人科的には更年期障害の治療は、ホルモン補充療法が強調されます。ホルモン療法は骨粗鬆症を予防するだけでなく、女性ホルモンを補うことによって、脳からの命令ホルモンのくずれを是正するという根本治療であることがお分かりいただけると思います。
内科的には更年期の三角関係が自律神経のバランスのくずれという観点から、抗不安薬や自律神経調整薬を使用すると、これらの症状が改善するのをよく経験します。
更年期の女性に起こりやすい高血圧について少し詳しく説明したいと思います。
40歳代前半まではむしろ血圧が低かったのに、更年期前後から急に血圧が上がった という方は少なくないでしょう。
この時期の高血圧症は変動しやすく、気分良く落ち着いていると血圧は低いのに、首筋が重くなったり、どうきやほてりを感じるために血圧を測ってみると、びっくりするほど血圧が上がっていて、不安感のためにさらに血圧が上がってしまった ということが多くあります。
こういう方は診察室に入るだけでも緊張のために、急に血圧が上がってしまうことがあります。このような更年期の変動しやすい高血圧症を、私は更年期高血圧症と呼んでいます。
高血圧症の原因は複雑で、自律神経だけが原因ではありません。しかし今まで述べてきたように、更年期高血圧症は自律神経の関与が大きいと考えられます。
自律神経は、興奮と関係がある交感神経と、それをなだめる働きのある副交感神経からなっています。ふだんはこの2種類の自律神経がうまくバランスを取り合っています。しかし、過労やストレス、更年期障害などでは、興奮神経である交感神経が勝ってきます。交感神経が緊張すると、頭に血が上ったようになったり、胸がどきどきし、血圧も上がってきます(図2)。
血圧との関係では、自律神経はちょうどバネのような働きがあります。自律神経のバランスがくずれると、バネが固くなって血圧は上がりますが、自律神経のバランスが回復するとバネも柔らかくなり、血圧も下がりやすくなります。
高血圧の薬はバネを下げるおもりのようなものですが、バネが固いといくら重いおもり(血圧降下剤)をのせてもバネは下がりにくいでしょう。
このような場合、バネを柔らかくするような薬(つまり抗不安薬や自律神経調整薬)を、併用すると驚くほど、血圧が下がることがあります(図3)。
更年期高血圧では、一般にもっともよく使用される血管をひろげるタイプの血圧降下剤(カルシウム拮抗薬)を内服すると、頭痛やどうきが強くなることがあります。このような時には、血圧降下剤の種類を変えるとよくなりますが、それでも血圧が安定しないことがあります。
バネの固さを柔らかくする(自律神経のバランスを調整する)、抗不安薬を併用すると血圧が安定しやすくなることがあります。