食べ物の消化や飲み込みに欠かせないだ液ですが、このだ液が少なくなるお年寄りが意外と多くみられます。
口腔乾燥症(ドライマウス)と呼ばれますが、口が渇くだけでなく、ひりひり痛む場合もあってたいへんつらいものです。最近は若い方の口腔乾燥症も話題に上ることが多くなりましたが、ここでは高齢者の口腔乾燥症について説明します。
つばを出すだ液腺は、大きく分けて三つあります。耳の下には、おたふくかぜで有名な耳下(じか)腺、あごの下にある顎下(がっか)腺、舌の下にある舌下(ぜっか)腺の三つです。この他にも無数の小だ液腺があり、だ液の量は成人で一日あたり1-1.5リットルで、ざっとビール瓶二本分に相当します。
だ液は実にさまざまな働きをしています。消化酵素を含んでいて消化を助けるのはもちろん、口の中を潤して食べ物を飲み込む際の潤滑油の役割や口の中の掃除もしています。さらに、わずかながら殺菌作用も持っています。
だ液が少なくなるといろいろなやっかいな症状が現れるようになります。食べ物がくっついてなかなか飲み込めなくなったり、痛み、出血、むし歯や歯周病にもなりやすくなります。
ひどいときには、食べるたびに水分を補給しないと食べ物を受け付けなくなってしまいます。軽い場合には、食べ物がぱさつく程度ですが、ひどくなると口がカラカラになって痛むだけでなく、舌が赤くなるなどの変化が出てきます。
65歳以上の約28%がいつも口の渇きを自覚しており、ときどきおよび軽い口の渇きを含めると約57%の高率に及ぶことが報告されています。口の中が渇く症状を起こす原因はさまざまです。お年寄りの多くでは、加齢とともにだ液腺の機能が低下して、だ液の分泌が少なくなるのが主な原因と考えられます。
だ液腺が炎症を起こして詰まった場合や、だ液腺が破壊されてしまう自己免疫疾患のシュエーグレン症候群でも起こってきます。腎臓病や糖尿病でも病状が進むと口の渇きが起こります。ストレスなどが原因で自律神経障害が起こっても口が乾いてきます。口で呼吸するくせのある人や喫煙、過量のアルコール摂取などでも口の渇きが起こることがあります。
お年寄りはさまざまな原因で薬を飲む機会が多くなります。だ液の分泌は自律神経により調節されており、これを介していろいろな薬がだ液の分泌に影響します。
たとえば、不整脈の薬、頻尿治療薬、胃薬の一種、抗うつ薬など多々あります。また関節痛や腰痛のために鎮痛薬や筋弛緩薬を飲んでいる場合、かぜ薬を常用しているとき、尿を出すための利尿剤なども口の渇きを起こすことがあります。
お年寄りの中でも女性に多くみられ、病院に行くほどではないが、症状を持っているお年寄りはかなりの数に上ると推測されています。口の中が乾燥すると口の中がカラカラし、入れ歯がすれてヒリヒリ痛んで食べ物がかめなくなってしまいます。
いろいろ調べても原因がはっきりしないことが多く、良い治療法もないため最後はノイローゼ状態になりかねません。
口の渇きがなり始め時、多くの人は糖尿病などを心配されて、内科を受診されます。しかし、いろいろ検査をしても原因がはっきりしないことが少なくありません。口腔乾燥症の専門は口腔外科になります。
口腔外科では歯科的な検査の他、人工だ液、含嗽水(口に含んで、消毒作用を発揮します)、漢方薬などを使って治療されることがあります。シュエーグレン症候群による口腔乾燥症に対しては、だ液の分泌を刺激する薬が利用されます。一般の口腔乾燥症には適応がありませんが、効果的な印象があります。
お年寄りはいろいろな病気を抱えていることが多いため、複数の医院や病院で薬をもらっていることが多く、どの薬が原因かはっきりしないこともよくあります。薬の副作用としても口の渇きは軽視されていることが多く、かかりつけの医師によく相談してみる必要があります。
口の渇きが気になるようになったら、水分をこまめにふくんで口を潤すようにしましょう。その他に自分でできる方法としては、食事のときにはよくかんでだ液の分泌を促すようにしたり、酸味のある食べ物でだ液分泌を刺激する方法があります。
口腔乾燥症の人が日常生活で気をつけなくてはならないことは、口に刺激を与えないようにすることです。アルコールや香辛料、喫煙などは口の渇きを悪化させます。また、義歯などの不具合についても注意が必要です。
口の渇きや違和感を過度に気にして、神経症的になる人も少なくありません。あまり口の渇きを気にしないように心がけましょう。ストレスの少ない生活、睡眠のリズムを規則正しくし、適度な運動を行うことも大切です。