のどの異常感には、
1.飲み込むときの異常感(嚥下障害 えんげしょうがい)と、
2.何も口にしていなくても感じるころころとした異物感(喉頭異物症 こうとういぶつしょう)
の2つに大別できます。
嚥下障害の原因はさまざまで、飲み込む際の痛みやはれによるもの、口腔から食道にいたる通り道のどこかに器質的病変が実際にある場合、嚥下に関係する神経・筋肉の障害によるものなどが考えられます。
これに対して喉頭異物症では実際に器質的な病変がみられないにもかかわらず、のどの奥にころころとした異物感と不快感を感じるもので、一般の内科外来ではしばしば経験されるものです。
(図1)食べ物を飲み込む運動(嚥下運動)は、口腔から咽頭(のどの奥)へ食べ物を送る第1期、咽頭から食道へ送る第2期、および食道内を経て胃に送る第3期 に分けられます。
第1期は意識的に起こる飲み込み運動(随意運動)で口腔期、第2期は嚥下反射によって起こり咽頭期、第3期は食道の自発的なしごくような運動(ぜん動)により起こるもので食道期とも呼ばれます。
ふつう嚥下障害は口腔期と咽頭期を指します。
嚥下障害の原因は患者の訴える症状からある程度原因を推測することができます。
痛みやはれを伴う口腔、咽頭の病気、脳神経や筋肉そのもの障害によるもの などが考えられます。
反回神経麻痺(脳神経のひとつの枝にあたる神経で、咽頭や喉頭に分布し、嚥下、発声、呼吸に関係している神経)を疑い、麻痺を生じた原因(たとえば腫瘍や大動脈瘤など)を調べる必要があります。
食道性の嚥下障害が考えられます。嚥下障害を流動物と固形物のどちらが起こしやすいかで、ある程度原因を推測することが可能です。流動物が固形物よりも嚥下しにくいときには、食道の運動異常が考えられます。原因としては糖尿病、強皮症、アカラジアなどがあり、食道の運動機能の低下が嚥下障害を引き起こします。
固形物が流動物よりも嚥下しにくいときには、器質的な狭窄が考えられます。胸やけが強いときには逆流性食道炎や食道潰瘍などが考えられますが、50歳以上ではまず第一に食道や胃の悪性腫瘍を考慮しなければなりません。
食事とは無関係に感じるのどの奥の違和感を生じることがあります。これを喉頭異物症といいますが、異物感としてはころころとした何か物がつまっているような感じから魚の骨が刺さっているいるような感じ などさまざまです。
のどの奥に腫瘍などができていなか不安感が強くなったり、不快感のためにゆううつな気分になりがちです。この異物感は咽頭・喉頭の部分に感じることが多いのですが、飲み込む運動とは無関係に感じる物なので正確には嚥下障害とは異なるものといえるでしょう。
喉頭異物症の原因としては大きく三種類が考えられます。(図2)
喉頭異物症が、ある種の抗不安薬と自律神経調整薬との組み合わせで比較的速やかに改善することをしばしば経験します。
喉頭の異物感が自律神経のバランスのくずれで実際に起こるかどうかは明らかではありませんが、ストレスや焦燥感、不安感が積み重なると身体症状としてどの異物感が出てくるものと考えられます。
急性胃炎や食道の炎症が原因で、胃や食道の運動機能に異常が生じると、のどの奥の異物感や閉塞感を生じることがあります。空腹時はあまり感じなくても食事を取ると、20~30分してのどの奥がつまるような不快感を生じることがあります。
のどのつまる不快感はつらいもので、ときにはうつ症のような憂うつな気分をもたらします。
肩こりが強くなると首筋や後頭部の筋肉、背や胸部の筋肉が緊張してくる結果、頭痛やふわふわ感、胸部圧迫感などのいろいろな症状が現れることがあります。同時に首の周りの筋肉も緊張・収縮するためにのどの閉塞感や異物感を生じることがあります。
実際に内科外来でみられる喉頭異物症の原因の多くは(1)によるものと思われます。抗不安薬(セルシンなど)と自律神経調整薬(ドグマチールなど)を併用して内服すると数日のうちに改善することをしばしば経験します。同時に下記のような検査を必要に応じて組み合わせて行い、器質的な病気がないことを確かめておくことは大切です。
喉頭鏡は外来でもすぐにできる簡単な検査です。のどの奥(咽頭から喉頭)を観察できるため、異物・炎症・腫瘍その他の変化を容易に調べることが可能です。
超音波では甲状腺や頚部動脈、リンパ節などによる喉頭の圧迫の有無を調べることができます。超音波検査などで異常が認められたときには、頚部CTやMRI検査でさらに詳しく調べることができます。
食道や胃の器質的な病変を調べるために内視鏡検査は不可欠です。また透視検査では器質的な病変の発見には内視鏡検査に劣るものの、嚥下運動の観察には有用で食道や胃のぜん動運動だけでなく、咽頭や喉頭の協調運動の様子を知ることができます。