頭痛はクモ膜下出血や脳内出血、髄膜炎などのように急に起こってくる頭痛と、緊張型頭痛や片頭痛に代表されるように、長い間に繰り返し起こる頭痛とに大きく分けられます。
この他に頭部の外傷の後におこる慢性硬膜下血腫や脳腫瘍などによる頭痛がありますが、これらの頭痛と他の頭痛との区別は必ずしも簡単ではありません。 頭痛が持続する時には、専門の医師による診察や脳CTや脳MRIによる検査が必要になります。
頭痛とは異なりますが、三叉神経痛や後頭神経痛と呼ばれる痛みもときどき経験します。神経痛とは発作的に、瞬間的に起こり、電気が走るような痛みです。長くても30秒を超えることはありません。これらの神経痛についてはあとで少し述べてみたいと思います。
これからは日常もっとも多く見られる、緊張型頭痛や片頭痛などに代表される慢性頭痛について述べていきます。
頭痛でいちばん多いのは緊張型頭痛で、頭痛患者の6割から7割を占めると推測されます(図1)。緊張型頭痛のほとんどは肩こりや首のこりが原因で起こることが多く、肩こり頭痛と呼ぶことができます(図2)。
緊張型頭痛は、精神的ストレスや不安、うつ状態でも起こることがあり、この場合には筋肉のこりは必ずしも頭痛の主な原因ではありません。緊張型頭痛では頭がしめつけられるように痛んだり、重く感じたりときにはズキンズキンと痛むことがありますが、片頭痛のように寝込んでしまうほどでなく、がまんしながら日常生活はなんとか送ることができます。
頭痛は軽くなることもありますが、夕方になると再び悪くなったりしながら、数日以上続くことがあります。緊張型頭痛は筋肉のこりを伴うことが多いため、頭痛以外にも多彩な症状を伴うことがあります(図3)。
頭の筋肉が緊張すると頭痛だけではなく、ふらふらとした船酔いに似ためまい感を生じることがあります。肩こりや首筋のこりは頭痛を起こすだけでなく、胸や背中の筋肉のこりを起こすことがあります。この結果、頭痛だけでなく胸部の圧迫感を生じて、息苦しくなり、心臓や肺の病気を心配して受診されることがあります。また全身の筋肉のこりは倦怠感を起こしやすくなります。
このように緊張型頭痛では頭痛以外にもいろいろな症状が起こることがありますが、神経痛に似た痛みも特徴の一つです。首筋がこってくると髪の毛の生えぎわのところで後頭神経を刺激しやすくなります。左右どちらか一方の後頭部に電気が走るような痛みが、短い時間繰り返し起こりますが、痛みがないときでも髪の毛をさわると、ピリピリとした感じがします。
また、緊張型頭痛では目頭が重く眠たい感じになることがありますが、どちらか一方の目の奥が痛むことがあります。目の上下には抑えると痛みを感じる部分がありますが、この部分は三叉神経という痛みを感じる神経の枝が走っており、この神経が刺激される結果と思われます(図4)。
このような神経痛は、神経が筋肉の緊張のために刺激されて起こるもので、本来の三叉神経痛や後頭神経痛とは異なり、治療方法も異なってきます。
緊張型頭痛の薬による治療法は、やや複雑です。軽い頭痛では鎮痛薬が有効ですが、長期にわたる鎮痛薬の服用は、鎮痛薬の依存性を生じやすくなります。頭痛が強くなると、鎮痛薬だけでは無効のことが多くなり、筋弛緩剤や筋弛緩効果をもつ安定剤(抗不安薬)を併用するとかなりよくなります。
不眠があると頭痛が治りにくくなるため、抗不安剤や睡眠剤を使用してぐっすり休むことも大切です。精神的ストレスやうつ症が原因と思われる頭痛に対しては、抗不安薬や最近の新しい抗うつ薬を使用します。
女性が更年期になると、ほてり・のぼせとともに肩こりと頭痛が強くなることがあります。この場合、婦人科的にはホルモン補充療法を受けたり、内科的には抗不安剤や自律神経調整薬を使用すると劇的に良くなることがあります。
緊張型頭痛を次に述べる片頭痛と思いこんでいる人は多いようです。片頭痛は頭痛の中では1割くらいを占め、緊張型頭痛に比べて数は少なくなります。片頭痛は比較的若い女性に多く、いくつかの特徴があります(図1)。
片頭痛ではズキンズキンと脈打つような頭痛が、急に起こり始め、次第に強くなっていきます。頭痛ははげしく、仕事も手に付かなくて寝込んでしまうくらいの痛みです。緊張型頭痛が頭痛があっても何とか仕事や家事ができるのと比べて対照的です。多くの場合、頭痛は数時間すると消えていきますが、時には完全に頭痛が消えるのに2,3日もかかることがあります。
片頭痛の半数には頭痛の起こる前に前兆がみられます。前兆の多くは視覚に関するもので、目の前に光がチカチカ出たり、文字が見えにくくなったりします。ときにはジンジンするようなしびれ感や筋力低下、言語障害が前兆として起こることもあります。
また片頭痛は生理中や生理前後に起こりやすくなりますが、睡眠不足や肩こり、疲労、緊張が続くと起こりやすくなります。片頭痛を起こしやすい食物としてはチーズ、チョコレート、ナッツ類、アルコールなどがあげられます。
以前から片頭痛の前兆は血管の収縮により生じ、脈打つような頭痛は引き続いて起こる血管の拡張によって起こると考えられていました(図5)。最近の研究から片頭痛がどのようにして起こるのか、次第に明らかになってきました。
血管の中を流れている血小板にはいろいろな物質が貯蔵されていてます。これらの貯蔵物のひとつがセロトニンで強力な血管の収縮作用があります。片頭痛では何らかの原因で、血小板からセロトニンが放出されるのが引き金と考えられています。
セロトニンの作用で血管が収縮し、前兆が引き起こされますが、やがて血小板のセロトニンも枯渇してきます。セロトニンがなくなると、他の物質の作用も加わって、逆に血管が拡張してきます。
血管の周囲には神経が網の目のように走っていますが、血管の収縮・拡張などにより神経が刺激され、脳に伝達されて片頭痛の痛みを起こすと考えられています。
最近の新しい治療法としては、セロトニンの枯渇が片頭痛の引き金になるとの考えから、セロトニン類似の物質を点滴や内服で投与して片頭痛の発作を予防や治療することができるようになってきました。
しかし頭痛の治療をさらにむつかしくしているのは、頭痛の中には緊張型頭痛と片頭痛とが混在して起こるものがあることです。両方の特徴を持った頭痛が繰り返し、何日も持続しますが、それぞれの治療方法が必ずしも有効ではありません。
このような頭痛は精神的ストレスが原因と考えられるものも多く、心療内科的な治療法が有効と考えられる場合もあります。このような頭痛の原因として、緊張型頭痛と片頭痛を分けて考えないで、頭痛の表現の違いとしてとらえ、一元的な連鎖反応で引き起こされるのではないかという考え方もあります。
小学校の高学年から中学にかけて頭痛を訴える児童がときどきみられます。緊張型頭痛とも片頭痛とも診断しにくいことが多く、治療もまた困難です。このような児童の頭痛の中には、両者の混在したタイプの頭痛と考えられるケースがあります。学校も休みがちなこともあり、心因的な原因が推測されることがあります。
最後に慢性の頭痛の中には群発頭痛と呼ばれる頭痛があります。発作的にはげしい頭痛が繰り返し起こるために脳外科や神経内科を受診することが多いと思われ、本院では経験がありません。群発頭痛の特徴をあげてみました(図6)。
参考文献
i)日本内科学会編:特集慢性頭痛.日本内科学会雑誌、vol.90 no.4、2001.
ii)植村研一:頭痛・めまい・しびれの臨床.医学書院、1989.
iii)日本医師会学術企画委員会編:症候から診断へ 第5集 感覚器・運動器.日本医師会、2002.