ふるえのように自分の意志とは無関係に動く体の一部の動きを不随意運動といいます。
不随意運動には手足や頭のふるえ(振戦)、口や舌をもぐもぐ動かす(口ジスキネジア)、あたかも踊っているようにみえる(舞踏病様運動)、まばたきが多くて両眼を開けることができない(眼瞼けいれん)、片一方の眼の縁や顔がひきつける(半側顔面けいれん)などがあります。
これらの不随意運動の中では、手のふるえがもっとも起こりやすく、加齢とともに頻度が増してきます。手のふるえがひどくなると字を書いたり、食事やお茶や水を飲むにも不自由を生じるようになります。
こうした高齢者の不随意運動の原因としては、
などが挙げられます。
このような原因の鑑別のためにも、ふるえをみた時には一度は脳CTやMRIを撮影しておく必要があります。また薬の服用歴を明らかにしておく必要があります。原因のはっきりしない不随意運動では、薬を中止して様子をみるのも有用な方法と考えられます。
高齢者の手のふるえ(振戦)をみた場合に考えねばならない病気や原因としては以下のようなものです。
パーキンソン病は脳の黒質という部分の変性が原因で起こる難病の一つです。
初期症状としては、静止時の手などのふるえ(振戦)の他、筋肉の硬直(腕を屈伸させると歯車様のコクンコクンとした抵抗を生じる)がしばしば起こりますが、進行するにつれ表情の変化が乏しくなり動きも少なくなる、歩行時に前屈姿勢となり手の振りも少なくなり急に方向を変えたり立ち止まることが困難になる などの症状がみられるようになります。
パーキンソン病の診断は一般医では困難で、専門医の診察が必要になります。
本態性振戦は人口10万人に対して1000人以上の頻度(パーキンソン病の10倍以上)でみられる遺伝的素因が深く関与している手のふるえです。脳には全く異常はみられません。
家族性に発生するときは思春期から青年期に発症し、同一家族内に同じような手のふるえを認めます。
老人性振戦はパーキンソン病による振戦とよく似ていますが、意識するとかえって手のふるえが強くなり、他のパーキンソン病の特徴がみられません。振戦は腕、頭、下あご、唇に著明です。
本態性振戦が高齢になってから発症したものと考えられています。
薬剤性振戦は診察室でまれならず遭遇します。プリンペランやドグマチールなどの薬を長期間飲んでいると手のふるえなどが現れることがあるので注意が必要です。
とくに何か薬を飲み始めてから不随意運動が起こってくると薬による影響を考えなければなりません。
中毒性振戦は甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)などの内科的な病気や、アルコール、タバコ、水銀、コカイン中毒などでみられることがあります。
実際には本態性振戦とパーキンソン病による手のふるえが最も多く、この2つの病気の鑑別が重要です。
パーキンソン病は手足にふるえが多くみられるのに対して、頭にはあまり起こりません。
本態性振戦は頭や手によくみられ、足に出ることはあまりありません。
またパーキンソン病の手のふるえは静止時に(いつとはなく)出やすく、何か動作をしようとするとふるえが軽くなる特徴があります。
本態性振戦のふるえは静止時には起こりにくく、字を書くとか物を持つ時など何かしようとするときにふるえが強くなります。
また本態性振戦は飲酒で軽くなりますが、パーキンソン病のふるえは飲酒に影響を受けません。
パーキンソン病は進行性に症状が悪化しますが、本態性振戦は何年も悪化することはありません。
本態性振戦の動作時振戦は、頭のふるえや声のふるえを伴うことがあります。本態性振戦ではふるえ以外に他の神経学的な異常は認められません。
手のふるえをみたときに、字を書く、両指をあわせる、両手を水平にそろえて上げる、コップの水を飲む、コップに水を注ぐ などがうまくできない時には本態性振戦の疑いが強くなります。
パーキンソン病の手のふるえはこのような動作時には軽くなりますが、反対に何もしない無意識のときに強く現れます。
手のふるえなどの不随意運動の診断は一般医には診断が困難なことが多いため、神経内科医の専門的な診察と診断が必要になります。