これまで健康に生活していた人が、風邪などがきっかけである日突然、原因不明の激しい全身けん怠感に襲われて、それ以降、微熱、頭痛、抑うつなど精神神経症状が長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなる病気、それが慢性疲労症候群です。(図1)
慢性疲労症候群とは、
満足な社会生活が送れなくなるという病態です。
慢性疲労症候群は,1988年に米国の研究機関によって提唱された比較的新しい疾患です。
1980年代の初めに米国で、疲労感,微熱,リンパ節腫大などの症状が長引く症例が数施設から報告されたのが始まりです。
集団発生も見られたことからウィルス感染症も疑われ、一時は「第2のエイズか?」などとマスメディアに騒がれたこともありました。慢性疲労症候群はウイルス感染や社会心理的なストレスがきっかけとなって引き起こされていると思われますが、正確な原因ははっきりしていません。
ウイルス感染症説,内分泌異常説,免疫異常説,代謝異常説,自律神経失調説に対して,「このような異常の多くは独立して存在しているのではなく,お互いに密接に関連して神経系・内分泌系・免疫系の異常につながっている可能性が考えられる」として,慢性疲労症候群という疾患概念の独立性について疑いを持つ研究者が現在でも存在します。
慢性疲労症候群をうつ病の一型と捉えたり,線維筋痛症と同じものと考える人もいます。また「自律神経失調症」と診断されている一部の人は本症である可能性が高いと考えられます。
厚生省(現厚生労働省)の疲労研究班が行った調査によると、1000人に3人がこの病気に罹患(りかん)していることが分かりました。さらに最近では、不登校の子供の中に、慢性疲労症候群とみられる症状の子供がいることも分かっています。
慢性疲労症候群の診断は、通常の診察や検査では明らかな原因の見出せない著しい疲労感(少なくとも月に数日は疲労のため仕事を休まざるを得ない程度以上の疲労感)が、6か月以上持続し、次のような症状の多くがみられます。
慢性疲労症候群では一般的な臨床検査では異常がみられませんが、免疫異常や種々のホルモンバランス異常、脳における神経伝達物質の代謝異常などがみつかっています。
残念ながら特効薬と呼べるような治療法はまだありませんが、漢方薬(補中益気湯など)やビタミン剤(ビタミンB12、ビタミンC)、うつ病の薬であるSSRI、四環系抗うつ薬、抗不安薬など、いくつかの効果が期待できるものがあります。これらの薬を組み合わせて使うことがあります。
通勤や通学など日常生活が可能になる程度までの回復を含めると、多くの人が2-3年でよくなっています。ただ、完治していなければ、ストレスや感染症をきっかけにしばしば再発を繰り返します。
完治したかどうかの判断は、倦怠感とともに微熱や筋肉痛などの症状が消え、たとえ運動や長時間の外出で疲労・倦怠感を感じたときでも、一日寝て回復するようなら完治したと考えていいでしょう。一度完治すれば再発はほとんどありません。2年で15%、4年で40%が完治しています。