咳は呼吸器の病気の共通の症状ですが、ほかの臓器の異常でも起こります。
咳が治りにくいときには専門の医師による診察や検査が必要なのは言うまでもありません。かぜが原因で起こる治りにくい咳の中で、ここでは季節の変わり目などに起こりやすい咳について述べたいと思います。
雨天が多くなり、気圧がめまぐるしく変化したり、気温の変動の大きい季節の変わり目になるとのど(咽頭)の痛みを生じたり、熱が出てくるなど、かぜが多くなります。
このかぜが治りかけるころから、夜になるとはげしく咳こんでくることがあります(図1)。
この咳は夕方から夜にかけて起こりやすく、時には一晩中咳こんで、咳のため睡眠がとれなくなることがあります。むせかえるような咳のため、腹筋や胸の筋肉の痛みが強くなりますが、本院ではこの咳のため肋骨骨折を起こした若い男女の方がいました。
咳こみは夜間だけでなく、昼間にも起こることがあります。話の最中にのどがイガイガとかゆくなって、咳が止まらなくなります。
この咳は一度起こると長く続きやすく、長いと一月以上も咳に悩まされることがあります。この咳はどうして起こるのでしょうか? そしてどんな治療が有効なのでしょうか?
このような咳はのど(咽頭)が原因で起こるよりも、むしろもっとのどの奥に入った喉頭といわれる部分や気管支が原因で起こると推測されます(図2)。
気温や気圧の変化はのど(咽頭)だけでなく、のどの奥(喉頭)や気管支にも影響し、これらを弱めてしまうことがあります。
かぜをひくとのどの炎症は、容易に弱った喉頭や気管支まで広がってしまうと想像されます。喉頭や気管支の炎症は、夜間などにはげしい咳を起こしやすくなります。
このように季節の変わり目に起こりやすいはげしい咳こみは、咽頭だけでなく、喉頭や気管支も弱くなっているのが原因と考えられます。それでは気管支が弱っているとはどのような状態をいうのでしょうか?
気管支が弱っているときには通常の状態に比べて、気管支の内側の薄い部分(粘膜)が、炎症を起こしてごくわずかむくんでいる(浮腫)と推測されます(図3、4)。
そしてこのような状態では、気管支は過敏になり、気温の変化する朝夕、寝る前などや、他の人と話をしている最中に、はげしく咳込みやすくなります。季節の変わり目の気温や気圧の変化は、気管支の炎症と軽度の浮腫を起こしやすくなります。
このような気管支の変化は誰にでも起こりうると思われますが、起こしやすい人とそうでない人とずいぶん個人差があるようです。このような気管支粘膜の炎症性浮腫は、気管支喘息の原因としてもたいへん重要であると考えられています。
この咳に病名を付けることはむつかしいのですが、強いて付ければアレルギー性気管支炎または過敏性気管支炎とでも呼ぶことができるでしょう。
この咳は大人だけでなく子どもにも起こります。
この咳がかぜだけでなく、喉頭や気管支が弱まったアレルギーの性質を帯びた咳であることを考えると、かぜ薬だけでは治りにくいことが想像できると思います。気管支喘息とは異なる咳なので、気管支を広げる働きのある薬はあまり効果がない印象があります。気管支の炎症性浮腫を軽くする治療が効果的なことが多くあります。
最後に季節の変わり目に起きやすい咳込みについて書きましたが、咳はいろいろな原因で起こることを忘れずにいてください。咳が続くときには、自己診断せずに必ず医師の診察と検査をうけましょう。