首の後を後頸部といいますが、代表的なこの部の痛みはいわゆる寝ちがえとよばれるものです。
これは不自然な姿勢で睡眠を取った後に起こりやすく、頸部周囲の靭帯や筋肉の急性炎症による痛みの総称としてとらえてよいかと思います。
この寝ちがえに似た痛みが、次に述べる環軸関節に起こる偽痛風(crowned des syndrome: CDS)で、高齢者に多くみられます。
これと似た症状を起こす石灰沈着性頸長筋腱炎があります。本症は発熱、咽頭痛、嚥下時痛、頸部の運動制限を伴った急性発症の首の後ろ(後頸部)の痛みが特徴ですが、好発年齢は20~50歳です。
さらに咽後膿瘍、椎骨動脈解離も後頸部の痛みを生じるため鑑別することが大切です。
首の後ろ(後頸部)の痛みの原因として、次の病気を挙げることができます。
環軸関節に起こる偽痛風(crowned des syndrome: CDS)は環軸関節の偽痛風で、軸椎歯状突起周囲の靱帯(環軸横靱帯)にピロリン酸カルシウムが沈着して石灰化を生じ、急性の後頸部痛を起こします。
高齢女性に多く、発熱、後頭部から頸部のかけての疼痛、頸椎の回旋制限が3徴です。嚥下時痛や嚥下困難はありません。頸部単純CTで環椎横靱帯の石灰化を認めます。
石灰沈着性頸長筋腱炎は頸長筋膜へのカルシウム塩(ハイドロキシアパタイト)の沈着によって起こる結晶誘発性の急性炎症です。好発年齢は20~50歳で、急性の項頸部痛、頸部運動制限、嚥下痛などで発症します。
血液炎症所見の陽性化を認め、嚥下痛や嚥下困難を伴うことから、咽後膿瘍や化膿性脊椎炎などとの鑑別が大切です。
発症前に上気道感染や頭頸部の軽微な外傷がみられることがあります。後頸部痛、頸部運動制限(とくに回旋)、嚥下困難を主徴とし、発熱も認めます。血液検査で白血球上昇、炎症反応上昇を認めます。
予後は良好で、頸部固定による局所の安静、消炎鎮痛薬の内服で1~2週間で改善します。
X線写真、4頸部単純CTで第1~2頸椎前面の頸長筋腱付着部に石灰化、第1~4(時に第6)頸椎前面の軟部組織(後咽頭腔)に腫脹、浮腫性変化による低吸収域を認めます(造影効果はありません)。好発年齢は20~50歳とされますが、高齢者でもみられます。
咽後膿瘍では、発熱、嚥下時痛、頸部の運動制限などの症状はみられますが、後頸部痛はありません。近年咽後膿瘍の年齢別発生頻度が変化した理由は、抗菌剤の発達で乳幼児に多い原発性咽後膿瘍が減少したこと、免疫の低下した基礎疾患を有する成人例が増加してきていることが考えらます。
小児では発熱や食欲不振などが初期症状として現れます。進行するにつれて、食べ物の飲み込みにくさや痛みが出ることもあります。
膿瘍が大きくなって気道をふさぐと、呼吸困難によって「ぜーぜー」という音が鳴ったり、頭を斜めにする斜頸が見られたりすることが特徴です。
成人では、発熱、のどの痛み、飲み込む時の痛みや飲み込みにくさなどが症状です。炎症が進むとのどが腫れるため、呼吸がしにくくなったり、喋りにくくなったりします。また前頸部に腫脹と発赤を生じることがあります。
首を前屈・後屈するととくに後屈制限が起こることから分かることがあります。咽後膿瘍は縦隔というスペースを通して胸腔に広がりやすく、縦隔炎を起こすことがあります。
椎骨動脈解離は強い外傷だけでなく、頸部のマッサージ、後屈位での洗髪、ゴルフ、激しい咳などの動作、体位、運動などが誘因で起こることがあります。血管性頭痛は一般的に何かをしているときに突然起こることが多く、誘因がない場合もあります。
いつもと違う後頭部や後頸部の痛みを生じた時には、常に本症も考えなければいけません。脳梗塞やTIAなどの神経脱落症状を伴わず、頭痛のみの発症が多いです。
疑わしい場合には脳MRI・MRAを行います。
*椎骨動脈解離について詳しくは本サイト、「よく見られる大人の病気・症状:中年に多い椎骨動脈解離」をご覧下さい。