口臭が気になったとき、どの科を訪れたらよいのでしょうか?
内科を訪れてもほとんどの場合、あまり問題にしてもらえないことが多いと思われます。最近は歯科領域で、口臭の問題に積極的に取り組む病院や診療所が多くみられるようになってきました。
口臭外来を開いている大阪大学歯学部付属病院の千人を超える患者を調べた結果では、口臭の原因が口の中にあると診断された人は、全体の八割を占めていました。
口臭は大きく分けて、(1)真性口臭、(2)仮性口臭、(3)その他(おもに口臭恐怖症)の三つに分けることができます(図1)。
真性口臭は他の人が明らかに臭いが分かるもので、病気とは関係なく起こる生理的口臭と病的口臭に分けられます。
生理的口臭は起床時や空腹時、過労や緊張したときに起こりやすくなります。口の中はだ液によって絶えず自浄作用が働いていますが、だ液が少なくなってくると口臭が強くなります。たとえば朝起きたときには口臭が比較的強くなります。
睡眠中にだ液の分泌が少なくなって細菌が増殖し、口の中が汚れ、口臭が強くなってくるためです。緊張してだ液が少なくなったときや、女性なら妊娠中にホルモンの影響でだ液が減少し、口臭が強くなることがあります。
病的口臭の多くは虫歯や歯周病が原因で、進行すると歯垢が落としにくくなり、歯垢がもとで悪臭が作り出され、さらに病状が進むという悪循環が繰り返されます。虫歯や歯周病では原因なる細菌が臭気のあるガスを発生しやすいために口臭を生じやすくなります。
舌の表面に白いコケができる舌苔(ぜったい)も口臭の源とされています。しかし舌苔を取り除くためにあまり舌を強くこすると表面を傷つけ、炎症を起こすためにみがき過ぎには注意が必要です。
舌苔を安全に取り除くには、舌苔は舌の奥に付きやすいため、柔らかい歯ブラシや舌ブラシでやさしくこするとよいでしょう。くれぐれもこすりすぎないようにすべきです。
全身の病気も口臭の原因になることがあります。糖尿病では甘酸っぱい口臭、肝臓病では腐ったような口臭が出ることがあります。
仮性口臭は心因性口臭ともいえるもので、生理的な範囲での口臭しか感じられないのに、本人が強く口臭を訴える場合です。人には分かってもらえない口臭なので本人の悩みも強く、ひどくなると口臭を気にするあまり、緊張と恐怖のために他の人との会話もできなくなる口臭恐怖症となることもあります。こうなると心療内科や精神科での治療が必要となりますが、このような例はごく少数です。
病的口臭は家族や友人など周囲の人から指摘され、気が付くことが多く、全体の10~40%を占めるといわれています。病的原因の最も多い原因は虫歯や歯周病などの歯科的な問題で起こっていることが多く、一般的な歯科治療によってほとんどが改善するといわれています。
その他、副鼻腔炎や扁桃炎などの耳鼻咽喉科に関係した病気でも病的口臭が起こることがありますが、このような口臭も治療により改善しやすいものです。
内科的な全身的な原因で起こる口臭には、糖尿病、肝硬変、肝炎などの肝臓病、慢性腎不全などの腎臓病、肺ガンや気管支炎などの呼吸器疾患、甲状腺機能異常などがあります。
しかしこれらの病気で生じる口臭は原因となる疾患の治療により改善しやすいものか、または病気が進行した状態で起こるもので、日常生活もふつうに送ることが困難な場合です。
結局、歯科の専門外来を訪れる口臭の多くは非病的口臭で、健康体であるにもかかわらず口臭に悩まされているケースといわれています。
高齢になるにつれて口臭が多くなってきます。とくに入れ歯を不潔にしている老人の口臭はたいへん気になるものです。健康人にも口の中には無数の細菌が常在していて口腔内を清潔に保つために重要な働きをしています。
加齢とともにこの細菌叢が変化していき、悪臭を発生しやすく、歯周病の原因ともなる嫌気性菌(細菌の生育のために空気を必要としない細菌の一群)が増加してきます。さらに加齢とともにだ液の分泌量も著しく減少してきて、20歳代の4分の1以下になってきます。
だ液量が減少してくると、口腔内の自浄作用や細菌・ウィルスに対する抵抗力も低下してきます。さらに年齢とともにいろいろな内科的な病気や歯周病も多くなってきます。
歯周病や入れ歯などの問題は加齢とともに誰でも起こってくるものです。ふだんから歯科的な健康診断と治療を受けておく必要があります。まただ液量の減少とともに口の中が不潔になりやすいために、食後には口の中の食べ物の残りかすを清浄したり、口の中の乾燥を防ぐためにときどき水を含むようにするとよいでしょう。
胃の中に食べ物がとどまる時間はせいぜい1時間くらいで速やかに胃の内容物は十二指腸に送り出されていきます。また食道と胃の上部の境をなす部分には括約筋があって、胃の内容物が逆流しないようにふたをする役目をしています。したがって胃の内容物が口臭の原因となるとは考えにくいと言えます。
急いで食べたり、大食いをしたりすると食事といっしょに空気を飲み込みやすく、げっぷの原因となります。このようなげっぷが口臭と勘違いされることがあります。
ニンニクを食べたあとに強い口臭を生じますが、この口臭はニンニクの中に含まれる臭気を生じる物質が、消化・吸収されたあとに血液に入り、この物質が肺で呼気中に排出されてきて臭いを生じます。この点から呼気に含まれる臭いで、口臭とは区別して考えられます。
アルコールやタバコによる口臭は原因がはっきりとしています。アルコールが吸収されて血液中に入ると、肺で呼気中に排出されてアルコール臭を生じるだけでなく、過剰なアルコールはアセトンに分解されて腐敗臭に近い臭いを作り、呼気中に排出されてきます。
飲み過ぎや二日酔いのあとに口臭として感じられますが、アルコールやアセトンが分解されて体から消失すると臭いは消えます。
タバコによる口臭はタールやニコチンが歯や舌に付着して独特の臭いを生じてきます。さらにタバコの影響でだ液の分泌が少なくなり、口腔内の自浄作用が低下して口臭を生じやすくなります。
仮性口臭は他人には口臭が感じられないのに、本人が口臭を感じて悩んでいるのを指します。内科外来でも口臭が気になると話されるために、顔を近づけてみても何も臭わないことがしばしばみられます。
歯科の口臭専門外来を訪れる多くの人の口臭閾値は専門的に調べてみると、健常人とそれほど変わらない結果が出されています。これから他人に感じるような口臭は出ていないことは分かりますが、実際に口臭がないのか、それともごくわずかの口臭にも敏感に感じているのかは分かりません。
もしわずかでも口臭が存在するのなら、その原因を取り除くようにすれば口臭は軽快していくでしょう。
自分で口臭を感じていても、他人に分かってもらえないとなると精神的に参ってくることは容易に想像できます。内科では心身症として自律神経による症状(どうき、発汗、不整脈、血圧上昇、げり、腹痛など)はさまざまみられます。
しかし自律神経症状として口臭を生じるのでしょうか?緊張などにより口の渇きが持続すると、口腔内の自浄作用が少なくなったり、口腔内の細菌叢のバランスが崩れて口臭を生じる可能性は考えられます。
口臭で悩んでいる人が多いことを考えると、心因的な口臭の原因には興味がつきませんが、はっきりと原因が分かっていないのが現状でしょう。
客観的な原因が見あたらず、心因的な口臭と判断されるときには心療内科的な治療が必要になることもあります。
リンク:口臭の悩み解消のヒント
(http://www.age.ne.jp/x/rie-d/kousyuu.htm)もご覧ください。
本項もこのHPを参考にしました