食中毒は食品、添加物、器具または容器・包装、調理人の不注意などが原因で起こる中毒です。原因は80%以上が細菌性で、細菌あるいは細菌が産生した毒素を含む食品を食べることによって発生してきます。
細菌性食中毒の多くは下痢・腹痛・発熱・吐きけなどの急性胃腸炎の症状を示してきますが、ボツリヌス中毒のように脳神経症状を示すものもあります。細菌性の他には、キノコなどの自然毒、化学物質、原因不明のものがあります。
食中毒ということばは行政用語であり、同じ食品を口にして多数の患者が発生した場合を食中毒と呼びます。ボツリヌス中毒を除いて少数の散発する場合には食中毒とは診断されず、保健所に届け出る必要もとくにはありません。
しかし少数例でも広い範囲で発生する場合もあり、状況をみながら保健所に問い合わせる必要が出ることもあります。
細菌性食中毒は発病の仕組みから、感染型、毒素型、中間型に分類され、感染型にはサルモネラ菌、カンピロバクターなど、毒素型にはブドウ球菌、ボツリヌス菌などがあります。中間型は体内に入った細菌が作り出す毒素によるタイプで、毒素原性大腸菌、ウェルシュ菌が知られています。
細菌性食中毒の患者数は毎年3万人と推定されていますが、ここ数年は減少していないのが実情です。輸入食品の増加など食生活の変化により、最近の食中毒は年間を通してみられるようになりましたが、それでも6月から9月にかけて多発することには変わりはありません。
6月から9月にかけての下痢、とりわけ夏の急性下痢を起こしたら食中毒を疑い、同じ家族とか、同じ食品を食べた者の下痢の有無、海外旅行の有無、下痢の持続状況などから食中毒を疑っていく必要があります。この時期のおもな食中毒の原因は、サルモネラ、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌、カンピロバクターなどによるものです。
サルモネラ菌による食中毒は例年もっとも多く発生し、生卵や食肉(焼き鳥など)を介して感染します。
腸炎ビブリオはもともと海中に住む細菌で、海水温の上昇とともに増殖してきます。この時期に水揚げされる多くの魚介類の表面に付着しています。このため腸炎ビブリオは刺身、すしなどの生の魚介類を介して感染してきます。
ブドウ球菌ではにぎりめし、いなりずし、みつ豆などがおもな原因食品です。
カンピロバクターの感染源としては、犬、牛、豚、鶏などとの接触が挙げられていますが、とくに市販食品では鶏肉の汚染頻度が高いといわれています。
冬季には小型円球ウィルスによる食中毒がときに問題となります。原因食品としては大人ではカキによるものが圧倒的に多いのですが、ときに保育所などで小児の間に集団発生することがあります。このような場合には原因が特定できないことがあります。
細菌性食中毒の一般的な症状は、下痢・腹痛・発熱・吐きけなどの急性胃腸炎症状であるため、症状とあわせて、潜伏期間、原因として考えられる食品や水、患者周辺に同じような症状を持つ者がいるかどうか、最近1~2週間以内の海外渡航歴などの患者の近況が、診断上大切になります。
一方、ボツリヌス中毒や腸管出血性大腸菌による食中毒(O-157など)では溶血性尿毒症症候群のような特徴的な症状が出てくる場合もあります。(表1)
手指や調理器具はよく洗い、消毒を行う。
とくに、生さかな、生肉、卵を使ったあとは入念に、洗浄と消毒する。
冷蔵庫で保管するときは、肉、魚、卵など種類ごとにしっかり分け、詰めすぎに注意する。
冷蔵庫は5度以下に保つこと。調理後も細菌は時間とともに増加するので、作り置きはせず、できるだけ早く食べる。
調理の際は、75度1分以上を目安に食品の中心部までしっかりと加熱する。
食肉や鶏肉類の生食は避ける。
食中毒といえば、飲食店など外で口にしたものが原因と考えられがちですが、実は家庭での発生が2割をしめています。
家庭での食中毒の予防は決してむつかしいものではありません。ポイントは「清潔」「迅速」「冷却・加熱」。調理器具や手は常に清潔を保ち、食品は必ず冷蔵・冷凍保存すること。調理するときは加熱を十分に行い、すぐ食べることが何よりも予防策になります。
またサルモネラ菌を口に入れないための予防には、卵はひび割れのないものを選んですぐに冷蔵庫に入れる。カンピロバクターや病原大腸菌の対策として肉類はしっかりと加熱する。魚介類は真水でよく洗い、しっかりと火を通すなど、おもな食中毒菌の特性に応じた対策を取ることも大切です。