全身の広い範囲にわたる長期間の筋肉の痛みと部位的にはっきりした圧痛を認める線維筋痛症と呼ばれる病気が最近注目されるようになってきました。
実際には比較的頻度が高いのにもかかわらず、医師の間でもあまり取り上げられる機会がありませんでした。
線維筋痛症は一般人口の1~2%にみられる比較的頻度の高い病気です。筋肉や骨格の慢性的な痛みを訴える人は一般人口の約35%にみられるとされ、この中で広範囲な慢性的な痛みは約10%に及ぶと言われています。このような慢性疼痛を訴える人の中に線維筋痛症が含まれることになります。
線維筋痛症とは全身の広範囲な部位の筋肉に長期間の痛みとこわばりを自覚し、特徴的な部位に圧痛を認める以外には、診察上も臨床検査所見でも異常がみられません。
治療で良くなることは少ないため、疲労感や睡眠障害、うつ症状などの精神症状を伴いやすくなります。中年以降の女性によくみられますが、小児期にもあり不登校の原因になることが指摘されています。
線維筋痛症の原因は明らかではありません。家族内に同じ病気の人が出る傾向が知られていますが、明確な遺伝的な要因があるかどうか不明です。多彩な神経・精神症状があり抗うつ薬が効果的なことから、精神医学的・心理学的なアプローチが行われてきました。
一方、線維筋痛症の約半数が感冒様症状に引き続いて起こることから、ウィルス感染との関連が示唆されますが明らかではありません。神経伝達物質などの異常、神経路や受容体の過敏性などの可能性も示唆されています。
線維筋痛症は全身の至る所に痛みが生じる原因不明の病気です。痛みはこわばりをしばしば伴い、朝に強くなるなど関節リウマチの症状に似ています。
日によりまた一日の時間により痛みに差が出てきます。また激しい運動や睡眠不足、精神的ストレス、天候などにより悪化することが多くみられます。
痛みを感じやすい13ヶ所のうち11ヶ所以上に圧痛があると線維筋痛症と診断されます。(図1)
線維筋痛症では筋痛以外にも多彩な症状が現れます。微熱、疲労感、発汗、動悸、息切れ、体重の変動、顎関節症、生理不順、間質性ぼうこう炎、各種のアレルギー症状の他、手足のしびれ、ふるえ、めまい、耳鳴り、筋力低下、脱力感、集中力や注意力の低下、物忘れなどがしばしば伴います。
生命に危険はないとはいえ、症状が強いと日常生活が著しく損なわれるほどほどです。この点から慢性疲労症候群との区別が問題になることがあります。
小児では不登校の数%は線維筋痛症が原因になっていると考えられています。不登校で体の痛みを訴える場合にはこの病気を疑う必要があります。
線維筋痛症は他の病気と関係なく現れることが多いのですが、約25%は病気に伴って出ることが知られています。関節リウマチ、変形性脊椎症、頚肩腕症候群、腰痛症に頻度が高く、その他では甲状腺機能低下症、強直性脊椎症、膠原病などがあげられます。急に線維性筋痛症が発症する引き金としてはウィルス感染症、精神的・肉体的ストレスなどがあります。
線維筋痛症は多くの医師の間でもなじみの少ない病気のために多くの患者は診断がつかないまま、適切な治療を受けていない可能性があります。日常生活の質が著しく低下するため、周囲の無理解と相まって患者の苦しみは相当なものがあります。
有効な治療法は確立はされていませんが、この病気を理解して患者をよりよい状況に置いてあげることが大切と思われます。